倒れたリリィ

ホヅミとリリィは店主に客室へと案内され、一室に腰を下ろした。着替えも用意してもらい今はそれを着用している。衣服はいつでも出かけられるようにと洗濯を済ませていた。


「やっぱりテレビとかないんよね」

「え? てれ……何だって?」

「ううん、何でもない」


旅館とは言えどここは異世界。ホヅミの元いた世界に存在している様な旅館の一室とは違って娯楽物はほとんどない。本や卓球、カラオケも存在すらしていないのだ。


「何もないよね」

「ん? ……もしかして、元の世界のこと考えてたの?」

「えっ!? あの話信じてくれてたの?」


日本という世界をリリィには話していた。ただ突拍子もない空想物語だと思われているものだとホヅミは思い込んでいた。


「信じるよ……ボクはまだ魔法の勉強は中途半端だけどさ、全く異なる別の世界から何かを呼び寄せるっていう召喚しょうかん魔法の類だと思うんだよね」

召喚しょうかん魔法?」

「もしかしたら、ホヅミんや………あのシュウって人? 誰かに呼ばれたんじゃないかって……」


もしリリィの言っていることが正しければ、自分やシュウの称号に勇者というものがあった事から推測するに、やはり魔王の様な者を倒してくれという事なのかもしれない。ただエルフの村の村長から聞いた話では、魔王が誕生したかどうかは定かでないように思えた。


「それはさておき……どうせこの世界には何もなくてつまらないなぁって思ってたんでしょ? そこで提案。この世界のちょっとした遊びをしない?」

「この世界の遊び?」

「ホヅミんのいた日本ってとこよりは劣るかもだけどね」


ホヅミは興味津々にリリィの話を聞く。リリィの言う遊びというのはこの世界の伝統とも言える指遊びだった。

一つ目の指遊びは指転ばしと言われるもの。互いに両手を使う遊びである。まず両手の人差し指と中指を膝の前で立てる。両手の人差し指と中指の指掌紋がどちらか一方でも地面から離れれば、指が離れた方の手は敗退となる。両手の指を転ばせた方が勝ちである。使うのは指だけ。もちろん足を使えば反則となる。互いに先攻後攻を決めた後、人差し指中指を一歩ずつ歩かせる。歩けるのは互いの手番に片手一歩のみである。反則ルールとしては指一本の太さ以上を進ませない、指をすべらせるなどがある。


「どう? 分かった?」

「うん! この世界にもそういう遊びがあるんだね!」

「そう! そこでもうひとつ、これには先攻後攻を決める必要があってね……」


日本では主に先攻後攻を決めるにはジャンケンと呼ばれる遊びが用いられるが、そのジャンケンと似た様な遊びがこの世界にも存在していた。それは立て指と呼ばれるもの。"たてた指"の掛け声でお互いに指を立てて前に出す。立てられる指の数は一から五まであり、同じ数の指は立てることが出来ない。立てた指の数の和が奇数であれば勝負開始。その時の立てた指の数が多い方が勝ち。同じ数だと引き分け。勝敗が決まるまで繰り返される。


「「たってたっゆびっ!」」「「たってたっゆびっ!」」「「たってたっゆびっ!」」


リリィは一、四、三と順に出してきて、ホヅミは五、二、三、と出した。残りリリィの手札は二と五。ホヅミは一と四である。奇数になってしまえばリリィの勝ち。ホヅミが勝つには残り二手を引き分けでやり過ごし再戦をする他ない。こういった頭を使ったり相手との心の読み合いが肝となる遊びである。


「「たってたっゆびっ!」」


リリィが五を出してホヅミは四を出した。奇数となり勝負開始。立てた指の数が多かったリリィの勝利である。


「やった!!」

「うわー! 負けたぁ〜」


指転ばしでのリリィは先攻。お互いに向き合って正座すると、膝の前に両手を持ってきて人差し指と中指を地面に立てる。リリィから一歩、そしてホヅミも一歩。一歩一歩と徐々に互いの両手は距離を詰めていく。


「ここで注意しなくちゃいけないのは、歩かせる距離だよね。最初に歩く距離を抑えてこれだけしか歩けないと思わせておいて急に大きく歩いて相手の指を転ばせるのもありだし」

「わわっ!」


リリィの人差し指と中指の歩く間隔に凡そを定めてたその思い込みが砕かれて、あっという間にホヅミの右手はバランスを崩す。


「あーもう! 届かないぃー!」

「まあボクは慣れてるから指の長さとか見たら大体分かっちゃうんだよね。どれだけ進めるか」

「良いもーん。じゃあちょっとしか歩かないから」


すっかり膨れ面のホヅミに対して悠々とした表情でリリィは指一本分だけ歩を進める。そしてホヅミも指一本進めるとリリィの中指がぐんと伸びてホヅミの指を転ばした。


「はい、セートルメン」

「ずるい! 大人気ない! 手加減くらいしてよ〜」

「はははっ! ゲームなんだし、全力でしないとつまんないよ」


笑うリリィに向けて闘志を燃やしたホヅミは再度リリィに挑戦をした。やはりこの異世界の住人であるリリィにとってはもはや慣れたゲームであり、初心者のホヅミはなかなかリリィを打ち負かす事が出来ない。他のゲームはないかとリリィに訊ねると他の遊びを教えてくれた。指遊びや手遊び、魔法に準えた実戦的な判断力を育むためのフィジカルなエクササイズなどなど色々ある様だが、ホヅミにはなかなか軍配が上がらない。


「ねぇ待って! もっとさ、ほんわかしたのってないの?!」

「ほんわか? ……ん〜ホンワカ? 例えば?」

「え?? ……例えばって……………にらめっこ……とか……」


急な返しに詰まり、ふと出てきたのがにらめっこであった。リリィの紹介する遊びはどれも頭を使うアクションのあるものばかりで、ホヅミも疲れてきてしまっている。ここで日本の遊びの出番なのかもしれない。


「どうするの?」

「これはね、おたがい変顔をして笑っちゃった方が負けなの。いくよ? にーらめっこしーましょっ、あっぷっぷ!」


ホヅミは頬皮をつまんで目をにょろ字にばす。


「どぅ? どぅ?」

「……………………」


リリィはホヅミの奇抜な行動に、思考が停止する。


「お……おもひろくにゃかった??」

「…………ぷっ」


日本屈指のにらめっこがリリィに通用したのか不安でじっとリリィの顔を観察していると、吹き出すと同時にほのかに唇がゆるむ。


「ふふ………ふふふ……あはははははっ!!!」


リリィは大きく笑い転げる。腹を抱えて地面をドンドンと拳で叩いて目からは笑い涙が漏れている。


「な、何急にっっっひひひっ、ぎゃあーっはっはっはっはっ!!」

「え……はは……み、見よ! これぞ日本の力じゃ! ほれほれ」


顔の皮膚を横に引っ張ったり、鼻や瞼を持ち上げたりと次々に変顔を作っていくとリリィはますます大笑い。


「ぎゃあああーっっはっはっはっはっ!!!!! ボ、ボクの顔で……ひゃっはっはっはっはっ!!」


捩れのたうち回るリリィ。ホヅミの圧勝であった。


「えっへん」





リリィとホヅミの二人は程々にお互いの世界の遊びを堪能すると、今後についての話し合いを行った。現状ではリリィがホヅミの体を用いて、その才覚で魔物達と渡り合っているという事である。体はホヅミと同じ。どれだけ才覚があろうとも、それに付随ふずいした体でなければいずれ倒せる魔物に限界が来てしまうであろう。それだけでなく、魔力量も体で違ってしまう。ではどうするか。リリィの体を持っているホヅミが魔法を覚えるのが一番であった。


下位氷魔法ヒュルル!」


ホヅミが両手を前に翳して魔法を唱える。もちろんそれだけでは出ない。リリィのアドバイス通りに魔力を体から絞り出す様にして、両手の前には魔力を冷気に変換させるイメージをする。


「もっと心を落ち着かせて! 空気中の水分に働きかけて凍りつかせるつもりで!」

「……下位氷魔法ヒュルル!」


ホヅミの両手の前には小さな氷が生まれる。


「出来た!」

「うん! でももうちょっと! ホヅミんならもっと出来る!」


リリィは少し考える。どうすればもっと完璧な氷魔法を生み出す事が出来るのか。リリィは火炎魔法が得意だが、氷魔法も使用する事が出来る。ただ得意とまで至らなかったのは、火炎魔法の方が魔力消費量や魔力還元率、威力や制御がとことん精度が良かったからだ。他にも精神質の適合性や魔法数式をしっかりと理解していればより魔法の組立の完成度が高い魔法が放てるだろう。しかしホヅミはこの世界の人間ではない。魔法学など微塵みじんも知らないのだ。だがそれでも、そんな問題をくつがえしてしまえるほどの魔力量がリリィの体には備わっている。


「あ……そうだ」


リリィが氷魔法を取得する際に教えを乞うたのは母マリィだ。マリィの得意とする魔法は氷魔法。そんなマリィから教わった、氷魔法初心者の大事な肝所かんどころ


「ホヅミん。花を思い浮かべて」

「花?……」


言われてホヅミはよく道端みちばたで見かけるピンク色のガーベラを思い浮かべた。


「その花は枯れることなく、時が止まったようにいつまでもその綺麗な姿は綻びることもない」


普段には似つかわしくない言葉を滔々とうとうと、リリィは何かを思い出しながら述べていく。


「永遠を生み出す……さあ!」

「…………下位氷魔法ヒュルル!」


バキバキバキ、バキン!

ホヅミの眼前にはまばらな大きさの氷塊ひょうかい、そして地面や壁は一瞬にして凍りついてしまっていた。壁に至ってはひびの様なものが入り叩けば簡単に砕けてしまいそうな程だ。つま先で足元前の触りを確かめるとつるつるすべる。そして今の魔法で部屋の気温がかなりと下がってしまった様だった。威力も申し分ない。まさに背筋までこおってしまうほどだ。


「や……やったね! ホヅミん!」

「うん! ………でも………」


二人は改めて部屋の惨状さんじょうを見る。


「とりあえずボクの火炎魔法で溶かすよ。下位火炎魔法ジェラ!」


リリィの火炎魔法によって、凍りついた部屋は徐々に溶かされていく。凍った部屋や氷塊ひょうかいが全て溶けるまで二人は山上に位置する気温の下がった部屋の中で、しばらくこごえる肩を互いに抱き寄せあって過ごすのであった。


「「ガクガクブルブルッ」」






二人はまだ日の上りきっていない寒い早朝に旅館を出た。あまり出立時間を遅めると、ソウハイ山を降りた後の村に着くまで時間がかかりすぎて、夜になってしまうからだとリリィは言っていた。けれどそのリリィが朝が苦手なタイプで、早起きをしたホヅミがリリィを起こすのに一苦労する。あまりに起きないので、昨夜覚えた氷魔法を少し首元に用いた。早速覚えたての魔法が役に立っていた。


「ふぁ〜ぁ」


リリィはまだ眠気が取れ切っていない様であくびをしている。目的地までの道のりは異世界人であるリリィしか詳しくないのだ。リリィの寝惚けた様子を見ているとホヅミは不安な心情だ。


「リリィ大丈夫?」

「……? 大丈夫大丈夫………ふぁ〜ぁ」


と目が半開きのリリィは口を手で覆ってあくびを続ける。だがやはりこのままでは支障ししょうが出かねない。


「リリィ、よかったらもう一回氷魔法かけてあげよう「それはやめてっ!!」」


咄嗟にホヅミの言葉を制す。よほど目覚まし下位氷魔法ヒュルルがリリィには堪えていたのだろう。リリィは先よりも目をこじ開け曲がっていた背筋を伸ばして、ぐんとホヅミの前を歩く。その様子にホヅミは一先ひとまず安心した。


「ここが頂上ちょうじょうなんだ」


ホヅミが言う。そこには看板が立っていた。分かりやすく"頂上"と大きく書かれている。既に慣れたが、空気は薄く白い霧が蔓延はびこっていて気温も低い。更に言うと小降りだ。


「山で一番怖いのは低体温症だよね……でもリリィが一緒ならそれも平気」

「え? 何か言った?」

「何でもない! それよりさ、もっかい熱魔法かけてよ。また寒くなってきちゃった」


山の気温から身を守るために、リリィからは度々微弱な熱魔法かけてもらっていた。こうして二人は軽装でも頂上ちょうじょうまで辿り着く事が出来ていたのである。



残りは下り。下りは楽だ。上りの時よりも筋力を使わなくて良いのだから。そう油断をしていたホヅミ。しばらく下り坂を歩いている内にある異変に気づく。


「あ痛たたたた」

「ホヅミん大丈夫?」

「いやぁ……ちょっと膝が」


ホヅミの膝が痛み出していた。膝を抱えてしゃがみ込むホヅミの元にリリィが寄る。


「見せてみて」


リリィはホヅミの抱える膝の周りを揉む。


「痛っ!?」

「……下位回復魔法ヒール!」


緑色の光がホヅミの痛みを徐々じょじょに癒していく。


「もしかしたらホヅミんの歩き方が問題かもね。登山って下りが一番膝に負担ふたんがかかるんだよね」

「え、そうなの?」

「そうそう。だからボクは体をなるべく前のめりにしないように気をつけてるんだけどね。それから下半身全体で体重を受け止めてあげる様にとか」


階段は下りの方が楽だと感じていたホヅミにとっては衝撃的しょうげきてきな事実であった。リリィの回復魔法が完了するとすっかり膝の痛みがなくなっていた。そしてリリィに下り歩きの仕方を教えてもらう。それからはリリィを真似た歩き方を続けるようにした。おかげで膝に一方的に負担をかけることがなくなり、痛みで足を止めることはなくなっていた。楽には感じなくなった分、体全体で体を支える無理のない下り歩きが可能になっていた。

やがて白い霧は晴れて気温も少し温かくなり、小降りな雨も上がっていた。下り坂ももう少しでお終いという事だろう。


「でも山って魔物がうじゃうじゃいそうなのにほとんどいないよね」

「何か神聖な地って聞いた事あるよ。人が住まないのは単に天候とか気温とかの変化でなかなか住みやすい環境じゃないからとかだと思うけど」


言われて思い出す、ソウハイ山頂き付近に構えた例の旅館。年季の入った旅館から想像がつくのは、ずっと守り通してきたということ。あの店主はよほど山に強いのだろう。

二人はようやく麓まで到着する。"これよりソウハイ山"という入口で見た似た様な看板が立っていた。


「ようやくね〜」


リリィが深呼吸をする。ホヅミも続いて深呼吸をすると、空気も元通りで気持ちがいい。


「後は道なりに行けば、シンア村って所に着くと思う」

「だれか〜」


意気揚々に振る舞うリリィだったが、怪しい声が聞こえてホヅミと共に顔を曇らせる。


「リリィ、今何か声しなかった?」

「うん、何か聞こえ」「助けて〜」


それが聞こえると二人は何かを感じた動物の様にぴくんと伸びる。


「痛てぇよぉ〜」

「あっち!」


リリィは指すと一番に駆ける。ホヅミも頷いてリリィの後を追った。現場は遠くなかった。大きな岩石の下には乾いた赤い血溜まり。誰かがそこで落石の被害にあったのだろう。声の幼さからして子供の様だ。痛かったろうに、誰も助けてくれなくて辛かったろうにとリリィはひしひしと被害者の痛みを思い浮かべながら急行する。


「助けに来たよ!」



リリィは足が早くくつもりもないホヅミをあっという間にいてしまう。


「待ってよリリィ! はぁっ、はぁっ……私もうヘトヘトなんだからっ……」


何とかリリィに追いついたホヅミ。リリィは岩石の下を素手で必死に掘っていた。


「あ、ホヅミん! お願い手伝って! 子供が下敷きにされてる! ボクがここの土を掘るから、ホヅミんは反対に回って岩押してくれる?」

「わっ、分かった!」


ホヅミは慌てて岩石の反対に回る。最初に目に入る乾いた血溜まり、その先には子供がいた。ただその子供は半人半竜の子供であり、尻尾や翼、二本の角に二本の鋭い牙がくっきりと生えていた。少し怖い気持ちもあるが、今はそんな事はどうでもいいと岩石を体で押しにかかる。


「頑張って、もう少しで助けてあげられるからね!」

「ぐぎぎぎぎぎ」


とても痛そうに苦しんでいる。半人半竜でも何でも子供は子供。泣いて苦しんでいるのにどうして怖がれようかと奮起ふんきするホヅミ。


(私、一瞬怖いって思っちゃった……見た目で決めるなんて最低だ私!)

「ふんぬーっ!!!」


ホヅミが渾身こんしんの力を篭めると岩石は動き始める。そしてリリィの掘った穴の方に崩れる様に転がった。


「やったっ! はっ、はぁっ、はぁっ」


ホヅミは岩石にもたれる。リリィは慌てて半人半竜の子供の元に駆け寄り、落石の被害にならない木陰こかげまで半人半竜の子供を連れ込んだ。


「ホヅミんもこっち来て! そこ危ないよ!

「うん、分かった」


言われてホヅミはよれよれとした動きでリリィ達のいる木陰まで歩く。


「…………下位回復魔法ヒール下位回復魔法ヒール増幅魔法バイリング!」


リリィの治療を開始しようと翳した両手は爪が剥がれて血だらけになっていた。緑色の優しい光はどす黒くなった紫の残酷な有様を包み込んでいく。


「お前…………指が」

「ボクの手よりも、今は君の足!」


リリィの手よりも、見るに耐えない無惨に潰れた足にホヅミは思わず目を背ける。そんな足をじっと見つめて治れ治れとリリィは念じる。その必死なリリィを半人半竜の子供は心配そうに見つめていた。


「お前……オレを見て怖くないのか? 人間だろ? どうして助けるんだ?」

「怖いわけない…………痛かったんでしょ? 辛かったんでしょ? だったら助ける。そこに怖いとか……人間とか…………どうでもいい」

「…………」


リリィの必死に治療に集中する姿から半人半竜の子供は目を離さない。


(治らない! 細胞壊死に粉砕骨折……もう足がないと言っていいほど……元のボクの体がない今、この怪我を治すにはもうあれしかないっ!……)


リリィは目を閉じ回復魔法を一旦止めて呼吸を整える。そして目を再び開くと、その場の空気が変わった。


中位回復魔法セラヒール!」


するとリリィの両手から赤い光が溢れ出る。


中位回復魔法セラヒール増幅魔法バイリング!」


ほとばしる眩い光にホヅミや半人半竜の子供は目を細める。するとみるみるうちに半人半竜の子供の足は元通りの原型を取り戻した。それを見るとリリィは魔法を止める。


「ごめん、さすがに今のボクの体だと細かな所は治せないみたい。後は君の治癒力が係るところかな」

「す、すげぇ」


自分の足を伸ばしたり曲げたりして、目を見開いて驚いている半人半竜の子供。試しに立ち上がろうと踏ん張ってみるが、そこはリリィの言ったように完治はしていないのだろう。痛くて立ち上がれたものじゃない。


「ふふっ、安静にしてなさいよ? それじゃあボク達もう行くね」


リリィは立ち上がるとフードを深く被ってその場から足早に立ち去ろうとする。


「あと、危ないから岩壁には近づいちゃいけないよ?」

「待って! 名前! 名前を教えてよ! オレはゴズ、竜人ドラゴニュートのゴズだ! お前の名前は!」

「ボクはリリィ。お礼とかいいよ、急いでるから。それじゃあね」


そそくさと歩いていくリリィにホヅミは慌てて着いていく。


「ねぇリリィ、どうしたの? 別にそんなに急がなくても…………リリィ?」


どうやらリリィの様子がおかしい。まるで一刻も早く先の半人半竜から離れたいと言わんばかりに早歩きが進む。


「ねぇリリィ? どうしたの? あの竜人ドラゴニュート君がどうかしたの?」

「………………………」


無言で足を止めることなくリリィはどんどんと先へ進んでいく。さすがにおかしいと思ったホヅミはリリィの肩を叩いた。


「ねぇって」


バタリ。

肩を叩いた事をきっかけにリリィは崩れ落ちる様に地面へと倒れ込んだ。


「へ? ……リ、リィ?」


ホヅミは気づいた、リリィが竜人ドラゴニュートから逃げていたのは自身の状態を知られたくなかったからなのだと。


「リ……リリィ! リリィッ!! 何で!! どうして!!」


傍に座り込むホヅミはリリィが何気なく被ったと思っていたフードを捲った。顔には太く盛り上がった血管が幾多も浮き出ていて今にも破裂しそうになっている。鼻血が大量に流れ出ていて、目は充血が酷い。更には咳き込み始めて、リリィの口からは血が飛び散る。


「うぐうええええぇぇぇっ!!!」


リリィは血に塗れた胃の内容物を幾度も幾度もその場で嘔吐おうとした。


「いったい……何が……え、ど、どどどどうしよう!!」

「はぁっ、はぁっ…………ほ……づみんっ!」


息もえにリリィが言葉を絞り出す。


「ご……っめんっ! はぁっ、はぁっ! ざっぎのっ! ふぐ……ざよう!」

「え……副作用?」

「ずぐ……なおる……」


リリィはそう言ったが、やはり只事ではない。尋常でない出血量だ。なぜ足一つ治しただけなのに、こんなにも酷い副作用があるのだとホヅミは心で訴えた。しかしそもそも、その考えがあまりに傲慢ごうまんおごり高いものであった事だと改めさせられる。そもそも回復魔法などという便利な存在は今までホヅミのいた日本にはなかったのだ。何かあればすぐに医者だのなんだのと頼っていた。そして初めて体験する魔法という代物。それをあちら側の世界にいたホヅミが勝手に何でも出来る文字通り魔法なのだと思い込んでいた。だがそれは違う。魔法は魔法であって魔法でない。どこまでもメリットばかりが発生するものばかりでないのだ。魔法には方法があり制限があり、そして代償だいしょうがあるものなのだ。更にはリリィは魔力量の少ないホヅミの体を用いている。それは強い魔法の使用にも耐えられない人間の体で、増幅魔法バイリングという危険な固有魔法も唱えている。


「そうだ……私が……私が回復魔法を覚えていたら……こんな……こんな……」


血の気がようやく薄まってきたリリィが……そっと震える手をホヅミの頬に添える。


「大……丈夫。ホヅミんは……焦らなくていいんだよ? …………回復魔法って……すっごく難しいんだよ? …………だから……自分を責めないで………………?」


ホヅミの目元に溜まる涙を指で掬うリリィ。


「どうしてそんな無茶するの!どうしてもっと自分を大切に」


ニコリと笑うリリィにホヅミの言葉が詰まる。


「ふふっ……だってほら……ボクは大丈夫だった」

「そういうことじゃない! そうじゃないよ」


ホヅミの涙がポタポタとリリィの顔に滴っている。自分は何も出来ない。でもリリィは色々出来る。でもだからといってリリィばかりに頼ってしまっている自分がとても情けないと思う。リリィに頑張らせてしまう自分が、腹立たしいと思う。


「命を……削っても……守りたい……助けたいって……おかしい?」

「おかしい! おかしいよ! 助けるなら、守るなら……自分も助けて! 自分も守って! …………リリィが大切な親友だって私の気持ちも考えてよぉ!」


リリィは自身を大切にしない。野宿の時ではこっそりと朝まで見張り番を通そうとしたり、エピルカとの戦いだって自身に目をつけたエピルカの犠牲になった様にも見えた。魔物だって全部自分が戦えば良いとさえ思っているのだろう。アンデッドドラゴンの時も体の至る所の骨を折ってまで勝ち筋を導いたり、デスドラゴンを倒した後皆から嫌われたからって自分一人でどこかへ行こうとする。ホヅミのそんな気持ちが涙と一緒に溢れていた。


「ホヅミん……」


リリィの顔は絶えず赤くはあるが浮き出ていた血管は元通りに、鼻血も止まり充血も収まっていた。どうやらリリィの言った様に本当に治ってきたらしい。


「ごめんね。そんな風に思ってたのね……ボク、もうちょっと自分を大事にするよ」

「……うん! うん! そうだよ、それが正解」


ホヅミは涙を拭って、すっきりとした表情でリリィの顔を見下ろす。


「それでなんだけど……早速お願いしてもいい?」

「ん? なになに? 何でも言って!!」





ホヅミとリリィの二人はようやくシンア村に到着していた。ただそれまでの道のりが辛く険しく困難な道のりであった。


「いや、何でも言ってとは言ったけど」

「むにゃむにゃ」


リリィの使った中位回復魔法セラヒール増幅魔法バイリングの組み合わせは何でもない人間であるホヅミの体には相当負担であったがためにとてつもない副作用が起こってしまった。そしてその副作用の第二段階目、発熱。額を触ればとても熱い。恐らく今までに経験したことの無い高熱だ。というのもホヅミがホヅミの体で、だ。そこまではリリィは予想出来なかったらしい。高熱での無理は禁物きんもつ、魔物の出現する中ホヅミはリリィを抱えて逃げる様に突っ走ってきたというわけである。


「まあこんな苦労、今までのリリィに比べたら」


この村についてまず探したのは医者だった。だが医者はいない。もう一つ先のイルミナという貿易の街でならば医者もいるし、なかなか手に入らない薬なども売っているらしい。けれどそのイルミナまでが歩きで丸一日もかかってしまうのだ。到底リリィを抱えてなど無理に等しい。


「さて、どうしたものか」


気持ち良さそうに宿屋のベッドで眠るリリィ。高熱なのになぜこうも幸せそうな笑顔が出来るのかと本人に問い詰めたいところである。


下位氷魔法ヒュルル


ホヅミは小さな氷を作り出して宿屋の人から借りた皮巾着に敷き詰めるとポンとリリィの額に乗せる。


「ねぇ、今のところ私の覚えた新魔法、目覚ましと熱冷ましにしか役立ってないんだけど」


と文句を言ってみるがリリィは聞こえてるはずもないしその場に他の誰かがいるはずもない。虚しく自身に問いかけがそのまま返ってくるだけであった。


「はぁ〜、とりあえずリリィの言ってた通りに大陸境たいりくざかい関所せきしょの地図とか手に入れなくちゃ。暗くなっちゃったらもう出来ないし。なるべく長居しない方が良いって言ってたし……」


言うとホヅミはリリィのいる部屋を後にする。

リリィが一人となった部屋は静かで平和で、寂しいものだった。ベッドや浴室や厠や木造テーブル木造イスなど最小限の物しか置かれていない。良く言えば簡素かんそな部屋で、悪く言えば質素しっそな部屋だろう。


「ほぉづみぃーん……ふふふふふ……それボクの手だよぉ……ふふふふふ……」





ホヅミは地図を得ようとまず雑貨屋の場所なるものを聞いた。宿屋からはそう離れておらず、よく旅人が宿屋に泊まった際に物を買いに行くのだと聞いた。雑貨屋は特に辺鄙へんぴな要素もあまりなく、ニト町と同じ様な品揃えや雰囲気であった。


「おじさん、大陸境までの地図が欲しいんですけど」

「おおー、旅人さんかい? 連れが見えねぇ様だが、嬢ちゃん一人かい?」

「え、ええとまあ…いるにはいるんですけど」


フェイスライン上に髭をふさふさと生やした陽気ようきなおじさんが気軽にからむ。


「気をつけなよ? この大陸はよ、人攫いがよく出るんだ。嬢ちゃんみたいなのは特に狙われやすいからよ」

「は、はぁ」

(あーもう出会ったことあるし、王都滅んじゃったし、かなり数は減ったと思うけど、気をつけるに越した事ないよね…………あ、リリィ今一人だ!)

「おじさん地図いくら?!」


途端に焦燥するホヅミに髭おじさんも驚いて、おどおどしながら金額を伝える。


「銅貨……一枚だ」

「はい!」


さっと銀貨一枚を取り出して手渡すと、髭おじさんも急いで銅貨九枚をホヅミに手渡す。これで残るは白金貨十九枚に金貨四枚に銀貨三枚銅貨九枚だ。


「ありがとうおじさん!」

「お、おお……また、な」


ホヅミは帰路を全力疾走で駆け抜ける。宿屋のウェスタンドアを勢いよく開け放ち宿屋客や宿主を驚かせる。


「お客様……どうかなさいまし」


そんな声すら聞く耳持たずに一心不乱でリリィの眠る部屋まで駆け抜ける。


「リリィ!」


するとベッドですやすやと眠るリリィの姿があった。何事もないと言ったように変わらず高熱で笑顔で気持ち良さそうに寝ている。


「あーもう氷溶けちゃってる。取り替えなきゃ」


ホヅミは皮巾着の溶け水を浴室に捨てて下位氷魔法ヒュルルで出した氷を皮巾着に詰める。再びリリィの額にポンと乗せた。


「何だか安心したら急に眠くなってきた……ふぁ〜ぁ」


リリィの傍に置いた椅子に座って、ベッドに寄りかかる。そのままうとうととホヅミは眠りについていった。





ふと、不思議な音が聞こえてきた。拍子木をカンカンと打ち鳴らした様な音が何度も何度も定期的に鳴り続けている。


「「「よぉ〜」」」


カンカン!

さすがに気になって眠れないのでホヅミは目を覚ました。ぐっすりと眠っていた様ですっかり体の疲れが取れている。大きく背伸びをして視界をはっきりさせる。だが映るべき視界が映っていない。まだ視界がはっきりとしていないのだろうか。


「リリィ? ……リリィ!?」


リリィの姿が消えていたのだ。ホヅミは慌てて厠や浴室を探す。しかしどこにもリリィの姿はない。外に出ていったのかと部屋を出て宿主に訊ねる。


「リリィは!? リリィはどこに行ったんですか!」

「そ……そのぉ……」


宿主は恐る恐る外の方を指した。辺りは夜。ホヅミは急いで宿屋を飛び出ると、何やら村人達が集まり百鬼夜行にでも扮しているかの如く拍子木を打ち鳴らしては進む何かの行列を作り出している。ホヅミは嫌な予感がした。


「まさか」


ホヅミは村人達を強引に掻き分ける。すると真ん中には大きな神輿みこしの様にして運ばれる木造のおりがあった。


「リリィ!」


ホヅミは走る。たくさんの村人が止めに入ろうとする中ホヅミは見事に躱して木造のおりにまで辿り着いた。


「リリィ!!」

「…………」


リリィは苦しそうに眠っている。


「そっかっ! 氷! リリィを返して!!」

「ならん」


拍子木ひょうしぎの音が止まり群衆ぐんしゅうのざわつきが静まり返る。その一声を発した者がホヅミの元へと向かう。村人は後ろに下がってさっと道を開けていくとこを見ると、この騒動の主導者でありこのシンア村で一番偉い者だろう。


「リリィをどうするつもり!」

「すまぬ旅人よ、我らもほんとうならばこの様な事はしたくない。だが分かってくれ、これも村人の命を救うためなのじゃ」


灰色の毛質をした老人は仙人髭せんにんひげを伸ばしており、髪の毛は頭の上でお団子に纏めている。日本で言うならば中国風の髪型であり、服装もそれに酷似したそでの長く大きいものを着用していた。


「何が村人のためよ! 私の友達を返してよ!!」

「まあ聞くのじゃ、実は先刻せんこくこの村に邪悪なる五つの頭を持つ竜が現れたのじゃ。竜は言った、このシンア村にいる白髪で緑色のローブを着用したリリィという名の娘を寄越せと。その願い聞き届けられなかった場合、このシンア村を滅ぼすと」

「はぁ!? 何それ……」


突拍子もないその理由にホヅミは一時的に思考が停止する。だがそれによって高まった怒りを鎮めて冷静に物事を考える力を取り戻した。まずこの多勢の村人を相手にしてリリィを助けられる可能性は低い。それならばリリィ受け渡しまで待って隙を窺うしかないだろうとホヅミは考察する。下手に村長や村人達を刺激するよりかは得策だとホヅミは心の刃を収めた。


「分かったわ。でも一つだけ。私も一緒に檻の中に入れなさい!」

「なぜだ」

「最期の時くらい、友達といさせて欲しいから」


村長は髭をさすりながらしばし考えると、決断を下した様で村人に合図を出す。


「良かろう。ワシらも人間じゃ、それくらいはしてやらねば不憫というもの」

(何が人間よ! ほんっと自分勝手な生き物! 同じ種族とも思いたくない!)


ホヅミはリリィと同じ檻に入れられる。ここで封魔錠スペルオフが使われなかったのは幸いだった。まさかリリィとホヅミが魔法を使えるとも思ってはいないのだろう。女の子を舐めてるのが裏目に出た様だ。ただリリィはとても魔法が使える容態とは言えない。


「何している!」

「リリィは熱を出してるの! 氷袋で冷やしてあげないと」


人目につかないように小さく魔法を使ったので魔法が使える事はバレていない。


「これから死ににいくのにのんきだな」

「ふざけないで」


しばらく経った所で森に入る。ホヅミはリリィの様子を確認すると、どうも氷では安らかな気持ちにはなれないらしい。やはりベッドが原因なのだろうか。


「今度は何をしている!」

「何って見りゃ分かるでしょ! 膝枕!」


ベッド程ではないだろうけれど、リリィが少しでも安らいでくれるならとホヅミはリリィの頭をそっと膝元に乗せる。するとほんのりリリィが笑った様な気がした。

森を抜けると、辺りの木々には魔法のランプが巻き付けられていてその場を怪しく照らしていた。中央には大きな石碑せきひ。手入れはされておらず苔も生えている。ただその石碑を見て不思議に思う事がホヅミにはあった。


「あれ? 読め……ない……」


今までどんな謎の異世界文字ですら頭の中で自動的に変換されてホヅミには間接的に読解が流れ込んでくるという能力が作動していた。だが今回は石碑せきひに記された文字を全く読む事が出来なかった。


「ここだ、下ろすぞ」


ガタン!

大きな衝撃がリリィとホヅミの二人に降りかかる。


「ちょっと! もっと静かに置いてよ!」

「ん、んんーっ……あれ? ここ……どこ? ホヅミん? ここは?」


村人の乱暴な檻の置き方でリリィが目を覚ましたらしい。


「ごめんリリィ! 実は今大変な事に…」

「ぐおおおおおおおおお!!!!!」


森中に鳴り響く雄叫び。村人達は仰天。即座に来た道を疾走しっそうしていった。リリィとホヅミは逃げようもない。まだ檻から出されてはいないのだから。


「わぁ……なにあれ……」


寝惚けた口調でリリィが言うと、ホヅミは恐る恐る後ろを振り返る。震えが止まらず、考えもまとまらない。隙をついて逃げる作戦だったが、隙を作る暇もなかった。


「よくぞ参られた!! 人間!」


迫力のある大きな声にホヅミは恐怖を通り越して引き攣り笑い。くねくねとうねる五つの頭。ヤマタノオロチ程ではないが、それはあくまで神話。実物を目前にしているのに比べれば大した事なんてあるはずもない。ホヅミは考える。自分はあの五つの頭で五つ裂きにされて食べられてしまうのだと。そしてきっと今死ねば、恐怖で感覚が麻痺して何もかもがあっという間だろうと諦めさえ抱いていた。


「我が願い、我が思い、受け取るがいい!」

「ひぇぇぇええぇ……え……え?」


だが竜の行動は予想だにしない斜め四十五度上を行った突拍子もないものだった。鋭い爪のその手に持たれているのは、花束。


「チュー……リップ? ……赤?」

「あー愛しのリリィ!! オレの心はあの素敵なセラヒールで一網打尽いちもうだじんさ!」

「は?」


ホヅミは考える。五つの頭の竜。心当たりのある者は竜人ドラゴニュートで名前はゴズ。目の前にいる恐ろしい竜の正体は怪我しているところをリリィが助けた竜人ドラゴニュートだろう。五頭竜ごずりゅうの上を取ってゴズなのだろうか。つまり整理すると、五頭竜ごずりゅうのゴズが自分の怪我を治してくれたリリィに惚れ込んだという事だろう。


「何が……」

「え?」


ホヅミの恐怖はそのまま怒りへと変換されていく。


「何がオレの心はあの素敵なセラヒールで一網打尽いちもうだじんだコルラァッ!!!」

「ぎょぎょ!?」


怒りを爆発させてしまったホヅミのその凄まじい剣幕にゴズは目が離せない。


「あんたのせいでいーやあんたを助けるためにリリィはどれだけ辛い目に合ってると思ってんの!! あなたにセラヒールかけた時のリリィがどんなだったか教えようか? 教えてあげようか? ええっ?? 体のありとあらゆる所から血を噴き出して大変だったのよ!! おまけに今こんな状態! 高熱出してて思考も定まらないのよ!! 分かる? 分からないでしょ?! 分かるって言ってみなさいよ分かるって言った瞬間にあなたの翼を凍らせてからダイナミックに蹴り飛ばして砕いてやるわこのアンポンタン!! ついでに私は今とてもお腹が空いている!!」

「お、おおお落ち着け……お前、あの時岩を避けてくれた娘だな。感謝しておる、感謝しておるぞ。だから落ち着け、な?」

「じゃかあしい!! 安静にしてなきゃいけないのにくだらんあんたのわがままで村人おどしてこんな真夜中に外に連れ出して!リリィが風邪引いたらどうすんのよ! ふざけんじゃないわよっ!こんなんじゃシンア村にも戻れないじゃないっ! この状態で野宿しろって? ええっ!! 何とか言ってみなさいよ!!」


鬼の形相のホヅミにゴズは何も言う事が出来ずに涙目になっていた。


「ぐすん…………オレはどうしたらいいの?」


とうとう情けのない声にまで落とされてしまったゴズ。ここまで来ては迫力のある姿も形無しだ。


「今すぐ私らを乗せてイルミナまで運んでくれる?」

「しくしく……はい」


ゴズは檻を開けるとホヅミとリリィを背中に乗せて星空の下を滑空かっくうする。

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