「香貝町、地図。」

 スマホを起動して、この町の地図を検索した。

 特に目的があるわけでもなく、なんとなしに。しいて言えば、次の休みに出かけたいから、その下調べ。

 もうすでに調べるまでもないほど、この町の地形は覚えているけど、改めて地図を眺めるのは楽しい。

 普段歩きなれている街にも何らかの発見はあったりする。

 最近は家からコンビニまでの近道を見つけた。かなり便利で、よく利用している。

 それまで思ってもいなかった発見はワクワクする。それがどれほど小さいものでも。

 地図を眺めていながら、無意識のうちに自分のゆかりのある場所を探した。これは誰でもやることだと思う。

 香貝市は、そこそこ大きい市だ。県庁所在地や政令指定都市とかとは比べ物にならないけど、周辺の市の中ではトップくらい。

 その中でも市役所のある香貝町は田舎という雰囲気はみじんもない。周りの市の中高生が休みにはこぞって遊びに来る、こともある。

 少し寂れたショッピングモール、きれいな公園、大きな学校、様々な店、ひっきりなしに来る電車。都会ではなくても街ではある、そんなよくある町。

 私の通う香貝高校が、この街の真ん中ちょっと上。山のほうにかけてほんのなだらかな坂になっているこの町では、高校からの景色はいい。ショッピングモールやほかのビルに視線を遮られるまでの範囲では。

 高校から出ると、かなり広い大通りがある。私の通学路。町のほぼ真ん中、背骨のように通っているこの道は、まんま‘‘香貝の背骨’’と呼ばれている。

 そんな街の発展に都合のいい大通りは、実際大人たちの都合で作られた。町の開発にあたって、高校からショッピングモール、ビル群までの大きな道を通した。

 心臓の位置ほどに大病院、胃の位置に市役所。肋骨が広がるように伸びる少し大きめの脇道。

 ただし、血管となる細めの道は、できるだけ規則正しい碁盤の目。間には小規模な店や住宅が立ち並ぶ。まあ、人体を作ろうとしているわけではないから、こんなものだろう。

 それに本格的に人体で例えだしたら、ここから先はグロ注意だ。

 骨盤のショッピングモールを越えたら、下半身は複雑骨折。おおよそ人の形を留めず、ぐちゃぐちゃ。それまでのお行儀のいい町並みはもうない。

 それも当然。ショッピングモール以上と以下は成り立ちが全く違う。

 ショッピングモール以上(さっきまで話していた大通りのあるほう)が、明確な意思の元、開発された町なら、ショッピングモール以下は、誰の意思にもよらない自由な形で発展してきた町だからだ。

 乱雑な家々に、個人経営の店が規則なく建ち、曲がりくねり右折左折を繰り返す道。

 香貝町はもともと地方の一漁師町だった。並の漁獲量に、並の人口。その地に暮らす人たちは平凡に幸せだった。

 ただし、昨今の例にもれず、継ぎ手足らずの高齢化。この町に今、漁師と呼べる人がどれほどいるか、少なくとも私は知らない。

 けれどこの町の衰退が本格的に始まる前に、街としての開発が始まった。

 並の町の、並とは言えない場所の良さ。都市と都市の中間地点、さらにほかの都市への分岐地点。偉い人は考えたし、偉くない人たちも思っていた。この町に駅やらなんやらを作りたい。

 結果、よその街の繁栄のためにこの町も栄えた。その時にショッピングモール以上の場所の原型ができた。そこからはなし崩し的にいろいろ発展して今のこの町ができた。

 ちゃんちゃん。

 確か小学校中学年か高学年の頃の総合学習でやったことをなんとなく思い出した。もともと古い記憶であんまり真剣に思い出してないから、あやふやのあいまいだけど。どうでもいい。

 眠い。

 寝よ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る