Interlude.2

38.再び動き出した時計の針。

 ピリリリリリ。


 着信音が鳴り響く。プリセットのうちの一つだ。本当はもっと華やかな着信音やメロディーにするという選択肢もあったのかもしれない。


 けれどあかねは何故かこの、簡素な着信音を好んで使っていた。これはガラケー時代からずっと変わらないもっとも、ガラケーなんて使っていたのは本当に数年のことだけど。


 ピリリリリリ。


 スマートフォンが無機質に着信を告げ続ける。どうやら電話のようだ。こんな時間に誰だろうか。茜はそんなことを考えながらスマートフォンを手に取り、いくつかの操作をした後、


「葵から……?」


 意外な反応をする。それもそのはず。彼女と葵は姉妹同士。仲は極めて良好だが、両行がゆえに、わざわざ電話をするという選択肢はあまり上がってこないのが実情だ。


 下手をすれば、メッセージアプリでスタンプを送りあうだけといった会話しかしないこともあり、それはつまるところ二人の意思疎通がそれで十分にはかれているからという理由があるのだが、あえての電話。


 とはいえ、可愛い妹からの連絡だ。出ないわけにはいかない。茜は画面をスワイプして、耳へとあてがい、


「どうしたのー?電話なんて珍しいじゃない」


 間。


「なあに。どうしたの。葵ちゃんらしくない。大丈夫、落ち着いて、順を追って話して?」


 更に間。


 茜の表情が真剣なものになる。


「そう…………そうなの。それで?彼はどうしたの?」


 少しの間。


「……そうなの。それで電話したのね…………そうね……」


 暫くの沈黙。


「ゴールデンウィークは無理だけど、そのうち一回顔を出すわ。それで大丈夫かしら?」


 間。茜はゆっくりとリビングの椅子を引く。


「分かった。他には困ってることは無い?」


 間。椅子へと腰かける。


「ん。それならよかったわ。何かあったらまた連絡して頂戴ね?うん。それじゃ」


 スマーフとフォンを耳元から離し、少し操作をしたのち、再び耳元へと戻し、


「もしもし?久しぶり。なに、忘れちゃったの?私よ、私。茜。八雲やくも茜。え?なんで電話なんかしたのかって?白々しいわね。知ってて言ってるんでしょ?え?」


 長い間。茜は足を組んで聞き入ったのち、


「…………そう。そうなのね。分かった。千秋ちゃんはなんて?」


 間。


「そう……分かったわ。ありがとう。私からも連絡をしておくわね」


 間。


「え?」


 ため息。


「……変わってないわね。そういう無茶なところだけは」


 間。


「まあいいわ。とにかく、頼んだわよ。私もそのうち顔を出すから。うん。それじゃ」


 再びスマートフォンを耳元から離し、操作をして、通話を打ち切る。


「……逃げ回ってても仕方ないってこと、ね」


 自らを戒めるように、そう呟く。画面には先ほどまで通話していた人物の名前が記されている。


 たちばな宗平むねひら


 その名前のアイコンは、三人の人物が一緒に写った、記念写真だった。

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