水魔法師ウィルの普通じゃない日⑦
通気口を通っているとルーシィに不安気に聞かれた。 おそらくは呼吸を整えていたためだろう。
「大丈夫?」
「あぁ。 体力はあるからな」
魔法の使用は体力を消耗する。 それ程広くないとはいえ、部屋いっぱいの水魔法を使えば身体への負担は大きい。 だが本当はもっと大変であるはずだったのだ。
「そう言えば、さっきの部屋はどうやって密室にしたんだ?」
「え?」
「だって防げるようなモノとか何もなかったんでしょ?」
『塞いで』と言ってはみたが、気休め程度の話だと思っていた。 だが水の溜まり具合から考えれば密閉度はかなり高かった。
「あ、あー・・・。 それは秘密」
「何だよそれ」
「それより早くこの施設から出よう! 男の人たちが来る前に」
「そうだな」
通気口を抜け出口を目指し歩いていると運悪く男たちと遭遇してしまう。 そう簡単にはいかないようだ。
「はぁ!? ここをどうやって突破しろって言うんだよ!」
男たちは三人でこそこそと話していた。 雰囲気からすればあまり立場が上ではなさそうだ。
「上からの命令がなければ始末できない」
「でもこのままにしておくと逃げ出すぞ」
「仕方ない、これは緊急事態だ。 上からの命令がなくても先に始末してしまおう」
―――ッ、マジかよ・・・!
男たちが下した判断は二人にとって最悪なものだった。 相手の能力が分からない上にウィルは既に魔法を使った後だ。 それを分かっているためか、ルーシィが一歩前へ出て言った。
「私が彼らの攻撃を無効化する! だから貴方は水魔法で攻撃して!」
「わ、分かった!」
ウィルが攻撃をしルーシィは防御の態勢で戦う。 だが相手は大人であるし、ウィルは疲弊していた。 状況は悪い。
「ウォーターカッター! ・・・ッ、駄目だ」
得意な技で攻撃し、属性も有利なはずが全て炎の魔法で防がれてしまう。 ウィルの攻撃最中はルーシィも相手の攻撃を無効化できない。
無効化には決められた範囲があるようでウィルの魔法も消されてしまう。
―――くそッ、無理だ!
―――アイツらを倒さないとここを突破できない。
―――一体どうしたら・・・!
もう駄目かと思った、その時だった。
「ルーシィ!」
声の方を見ると見知った顔が立っていた。 ウィルが探していた相手であり、ルーシィもよく見知った人物。 銀髪の男は息を切らしていて、探し回っていた様子だった。
「お兄さん!」
「あ! さっきの偽警備員!」
シリウスはウィルを見て驚いた顔をした。
「君はさっきの・・・。 そうか、僕たちのせいで巻き込んでしまったんだね。 でも大丈夫、今からは僕も戦闘に参戦するから。 二人共、無事でよかったよ」
感動の再会は後らしい。 今は男たちをどうするのかが先だった。 三対三で人数は同じ。 だが攻撃ができるのはウィルだけとなると少し厳しかった。
シリウスもルーシィと同様魔法の無効化の能力者なのだ。 三人の男の攻撃は徹底的に抑えてくれるのだが、上手くタイミングが合わず魔法を放てない。 手こずっていると男たちが自ら動き出す。
―――・・・どうしたんだ?
どうやら魔法が使えないなら力づくで倒そうとでも思ったらしい。 男たち三人が迫ってくるのをウィル一人で止めるのは難しかった。 だがシリウスがそれを迎え撃った反応は早かった。
逆に距離を詰めると男の懐に潜り込み顎を殴り一撃で沈める。 そのまま次、といったところで男はルーシィを人質に取っていたのだ。 妹を人質にされては流石のシリウスも動けないようだった。
観念したように捕まり、両手を後ろで抑え付けられ魔法を出せないようにされてしまう。 これで実質ウィルと一人の男の一対一。
人質は取られているが、ルーシィに何かしようとすればシリウスが動くはずだ。
―――うわ、マジか・・・!
―――俺一人で大人の男に勝てるわけがないじゃん!
―――もし強い攻撃をされたら、俺は耐えられない。
―――一体どうしたらッ!
相手はひと呼吸をおいてウィルを見据えると強い一発を放ってきた。 魔法が無効化されないのが分かったための全力の攻撃。 大きな炎が迫り、ウィルに今の状態では水魔法で消せそうになかった。
「危ない!」
ルーシィの声が響く。 ウィルは咄嗟に手をかざし自分を守ろうとした。 本来そのようなことに意味はない。 魔法で防ぐか避けるかしなければならなかったのに、反射的に身体が動いたのだ。
「ッ!?」
息を飲むような音が聞こえ、恐る恐る薄く瞑っていた目を開ける。 自身が焼かれることもなく、相手は手を前に出したままその場で固まっていた。
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