水魔法師ウィルの普通じゃない日③
放課後、授業を全て終えるとウィルはそのまま帰宅した。
「あー、疲れたぁ。 そのまま帰ってきたけど、犯人が捕まらないままここで寝て過ごすっていうのも、何か怖いよなぁ・・・」
結局あれから全く進展はなく、放火であれば学園内に犯人がいる可能性が高い。 だがだからといって学校を休みにすることもない。 生徒は魔法使いとして自衛の手段をある程度持ち合わせている。
属性によって相性というものがあるが、水属性のウィルは火属性であろう放火魔の天敵になるのだ。 だからといっても放火魔は怖い。
魔法をぶつけ合えば有利であるが、突然火を点けられでもしたら水属性でもひとたまりもない。 そのようなことを考えていると通信が届く。 風属性のレッドだ。
彼とは小さい頃からの付き合いなため、学校が終わるとほとんど毎日通信をしている。
「おうレッド! お前の名前を見て毎回思うけど、どうして風属性なのに名前がレッドなんだよ」
『またそれかよ』
「風なんだから、それらしくグリーンとかにしてもらえって!」
『だから名前は俺が付けたわけじゃないって言っているだろ!? 風属性の母さんから俺は受け継いだんだから!』
属性は両親によって決まる。 ウィルの場合は親が水属性だったためウィルも水属性だ。 レッドのように父が火属性で母が風属性の場合はそのどちらかになる。
それは生まれて実際に魔法が使えるようになるまで分からないのだ。
「本当は火属性になってもらいたくてレッドにしたのかな。 火は強そうだし」
『あ、そうそう、火属性で思い出したんだけどさ。 お前のところで放火が起きたってマジ?』
「あぁ、マジマジ! 今朝の出来事な」
『怖くね? その寮にいるの』
「マジ怖い。 犯人が捕まるまでレッドの寮に引っ越そうかなぁ」
『おぉ、来い来い』
「でもそっちの寮から学校までは距離が遠いんだよなぁー」
―ピンポーン。
レッドと話していると部屋のチャイムが鳴った。
「誰だろう? こんな時間に」
『チャイムだろ? 出てこいよ』
「あぁ。 用が終わったらまたかけ直すわ」
通信を終えドアを開けた。 するとそこには警備服を着た銀髪の男性が立っていた。
―――えぇぇ、警備!?
―――俺何か、悪いことをした!?
慌てているウィルとは裏腹に、何故か警備の男はニコニコとしている。
「いやぁ、朝から災難でしたねぇ」
「あ、朝・・・? あ、もしかして放火事件の?」
「そうそう。 その放火事件について、この寮で聞き回っていました」
「あー、なるほど・・・」
どこかふわふわとした印象だ。 どのような人なのかいまいち掴めない。
「早速本題へ移りますが、放火事件が起きた時貴方はどこにいました?」
「この部屋にいました。 父さんと連絡をしていて」
「怪しい人は見かけませんでしたか?」
「怪しい人? んー・・・。 あッ!」
「見た?」
優しい表情から一変し、冷たい表情と声でそう問われた。 それにどこか物怖じしてしまい、口から出そうになった言葉を飲み込む。
「あ、あぁ、あれはただの生徒か。 いえ、特には見ていません」
そう言うと何故か溜め息をつかれる。 何となく違和感を覚えたが、聞き込みを何人にもしているのなら手がかりを掴めないと徒労でしかない。
「そうですか。 では失礼しました」
「もう話は終わりですか?」
「アリバイもあるし、目撃情報もなければこれ以上はお話する必要がありません」
「あ、そうですか。 ご苦労様です・・・」
話し終え再びレッドとの通話に戻った。
『お疲れー。 誰だったんだ?』
「警備の人」
『警備の人!?』
「そうそう。 放火の時、何をしていたのかだとか、怪しい人は見かけなかったか、とか聞かれた。 この寮で聞き回っているらしいよ」
『・・・』
「おい、どうした?」
『・・・ソイツさ、犯人じゃね?』
「え?」
『もし“怪しい者を見た”って答えていたら、お前殺されていたぞ』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます