バトルエースオンライン Soul of the sword
田山 凪
第一部 You are the one.
第1話 未知なる体験
じめじめとした暑さが落ち着き蝉の鳴き声が激しく鳴り響く季節。
美春はリビングでアイスを食べながらテレビを見ていた。
テレビでは最新のダイブ型ヴァーチャルオンラインゲームのCMが流れていた。
「新感覚! ダイブ型ヴァーチャルオンラインゲーム! バトルエースオンライン! 8月には先行バトルプレイヤーによる熱い戦いが開かれる! 全てを倒しエースにつく覚悟あるものの参加をまってるぜぇ! ――応募は公式サイトと週間ゲームマニアについている応募はがきから!」
生まれてこの方ゲームというもに縁のない美春はそんなCMを見ながらつぶやいた。
「大和君が好きそうなやつかな」
その時はまだ、その程度にしか思っていなかった。
翌日、肌を焦がす暑い日差しの中を登校していた。
「暑い……。これじゃすぐ日焼け止めとれちゃいそう」
うだるような暑さにげんなりしつつも歩いていると後ろから走ってくる音が聞こえる。美春にとってはいつものことだ。
「み~は~るっ!!」
「ひゃっ!?」
突如、首元にキンキンに冷えたペットボトルを当てられ美春は変な声を出してしまった。
「もう! 椿っ! 驚かさないでよっ」
「いやぁ~、毎日やってると反応が薄くなったからついね。これあげるよ」
現れたのは友人の椿。
明るいオレンジ色のショートカットはハツラツな笑顔によく似合う。
元気が取り柄な少女であり美春を気に入っている。
桃風味のドリンクをもらった美春はそれを一口飲んだ。
「ポニーテールだから首元にちょうど当てやすいんだよね。むしろ誘ってるでしょ?」
「誘ってない! 稽古の時の癖でこうしてるだけ。それにこっちの方が動きやすいし涼しいでしょ」
「だったらいっそのこと切っちゃえばいいのに」
「一時期考えてたけど師範代とその奥さんが長い方がいいっていうから」
「まぁ、私も美春のポニーテール大好きだけどね」
無垢な笑顔で椿は言った。
二人は窓際グラウンド側の窓際の席で一番後ろが美春、一個前が椿となっている。
椿は授業中なのにも関わらずずっとはがきを書いていた。
(今時はがきなんてめずらしいなぁ)
そんなことを思いつつ美春は授業を受けていた。
昼休み。
二人は食堂へ行きいつも通り券売機で好きなメニューを選び適当な席に着いた。
「おっ、今日は親子丼だね。美春はけっこうがっつり食べるけどその栄養はどこへ行くんでしょうか~?」
椿は美春の胸元を見ながら言った。
「食事中じゃなかったら叩いてたところだよ。ほら、ごはん食べなさいよ」
「怖いねぇ~。今日はからあげ定食にしたよっ。からあげ一個あげる」
椿は箸でからあげ掴み美春に向けた。
「ありがと。……え、このまま食べるの?」
「そうそう」
「ま、まぁ別にいいけど」
美春はからあげを食べた。
すると、美味しそうな表情を浮かべなんとも言えない声が少し漏れた。
「これを見れるんだったらからあげの一個ぐらいどうでもよくなるよねぇ」
「どういうこと?」
「いや、なんでもなーい。ほら、食べようよ」
二人で食事を食べていると美春は授業中に椿が書いていたはがきのことを聞いた。
「あのはがきなんだったの。懸賞とか?」
「はがき……あっ!!」
椿は慌てて学校にあるポストへとはがきを投函しに行った。
横腹抑えながら戻ってきた椿はゆっくりと座った。
「いててっ、急に走ると変なとこ痛くなるね」
「で、はがきはなんなの?」
「ふっふっふ~。それはお楽しみというやつだよ」
「ま~た変なこと考えてるんでしょ」
「う~半年の付き合いなのにもう変人扱いになってる」
二人はまだ高校一年生。
いろいろとあり入学式の日から一緒に行動するようになった。
「まぁ、時期にわかるから。それまでまっててよ」
「そういうなら仕方ないな」
学校が終わり椿と別れていつも通り夕飯を食べて軽く勉強。お風呂に入ってリビングでくつろいでいるとテレビではアイドル募集のCMが流れていた
「時代を駆け抜ける最先端アイドルを目指せっ! 応募ははがきと公式サイトからになります。君もFLOWERのメンバーになろう!」
「はがき……。いや、まさかね……」
椿は以前モデル事務所のオーディションに美春を勝手に応募させた経験があるために今回もまた同じようことをしてるんじゃないかと勘ぐってしまう。
「モデルはまだしもアイドルはないよね……」
興味が完全にないわけでもないがモデルの時も普段の稽古があるために断っていた。
数日後。
教室でノートを整理しているとお手洗いから帰ってきた椿が慌てて美春のとこまでやってきた。
朝からテンションが低かった椿がいきなり走ってきたため美春は驚いた。
「美春! ごめん!」
「えっ、どうしたのに急に?」
唐突な謝罪にわけのわからない美春。
どうやらお手洗いではがきのことを思い出して急いで帰ってきたようだ。
「とりあえず座りなよ」
「うん……」
しょんぼりした椿は自分の席に座り椅子の方向を変え体を美春に向けた。
「あのね、このまえはがきの話あったじゃん」
「あー、授業中に書いていたやつだよね」
「うん……。それね、アイドル募集のはがきだったんだ」
「なんとなく嫌な予感はしてたけどやっぱりそういうのか……。でも、だったらなんでそんなにしょんぼりしてる?
いつも何も気にせず応募する椿がこんなことで落ち込むことはないと知っていた。
「あのね、まずは当選したの」
「当選ってはがきのことだよね」
「うん、でもね違うの。私が出したはがきが間違ってて大和の最新のオンラインゲームの参加はがきだったの……」
大和とは椿の中学二年生の弟である。
「えっ!? それ大和くん怒ったでしょ」
「うん……。でね、応募期限がこの前で終わりだったみたい二回目の選考が少し後らしいの。でも、それでも当選するかわからないじゃん。だけど、特定の当選者は二人まで一緒に参加できる人を選べるみたいで美春がその特定の当選者なの」
椿が言いたいのはこうだ。
特定の当選者というの先行バトルプレイヤーとして大会に出る当選者のことで、美春はそれに該当する。美春が参加することで大会にバトルプレイヤーとしては参加できないがゲーム内の出入りができる先行プレイヤーの資格を二人まで与えることができる。さらに途中からはバトルプレイヤー以外も参加できるようなイベントがあるという。
そのため、不機嫌になってしまった大和のために参加してくれないかという頼みだった。
「どうかな……?」
「う~ん。私、ゲームとかやったことないしなぁ……。大和くんのために参加してあげたいけど、大会に出るのはなぁ」
「一応なんだけど、この大会で優勝すると100万円の優勝賞金が出るらしいよ」
「100万!?」
つい大きな声が出てしまった美春は口を抑え100万という金額を冷静に考えた。
大学に行くことを想定したときに少しでもお金に余裕があるほうがいいと思っていた美春は、もし優勝すればそれを学費や生活費にあてられるのではと考えた。
「100万……。でも、ゲームしたことないしなぁ」
「あと参考までに言っておくとこのゲームってダイブ型と言って自分の感覚で体を動かせるの。こうやって話すように外でスポーツをするようにね。だから、身体能力が高い人が有利かもしれないの」
「それなら確かに……」
美春は小さい頃から武芸を学んでおり体力などには自信があった。逆にゲームなんかはほとんどやってこず、セオリーなんかも一切わからない。ダイブ型と言われているが内心はどういうことかさっぱりだ。
悩み悩んだ末、美春は決めた。
「わ、わかった。私、やってみるよ」
「ほんと!? やったぁー! これで大和の機嫌が機嫌なおしてくれるよ」
「それが目的なんだね。まぁ、いいよ。新しいことに挑戦してみるのも大事なのは理解してる。これも何かの縁。やるからには勝つよ!」
慣れないゲームというものに初めて触れるのに、それがいきなり大会だなんてあまりにも突拍子もない出来事にいまもなお美春はまだ心の整理がついていなかった。
住宅街にある大きな和風の屋敷に美春の稽古場はあった。
ほかの門下生が帰る中、美春は一人木刀の素振りをしていた。
「なんだ、今日はやけに気合入ってるな」
甚兵衛姿に無精ひげ、白髪をタオルでまとめたこの男性が美春の師範代だ。
50代前半ではあるが師範代としてはもう30年になる。
「でも、迷いがある。刀がブレてるぞ」
「師範代にはわかりますか」
「もう何年一緒にいると思ってんだ。空白の時期を除いても10年近いぞ」
「そうですよね。――その、慣れないことに挑戦するんです。そこではここで習った技術も使えるかもしれません。ですが、アウェイというか、知らない舞台なのでちょっと戸惑いが……」
師範代は座布団を敷き座った。
すると、あっさりと返事をした。
「迷いも戸惑いもあって当然。本当に迷いが吹っ切れるのは本番になってからだ。美春は武芸において無類の才能がある。その技術が活かせる場ならばどこだって大丈夫さ。それに、ここで教えたのは武器の扱い方だけじゃなく精神的な鍛練もあっただろう。習ったことを今一度思い返してみろ」
深くもなく浅くもなく。しかし、しっかりと美春と向き合って出した言葉。
それは答えではなく答えへ導く言葉だった。
師範代は答えをいわない。
真の答えは自らしか生み出せないこと知っているからだ。例えここで師範代なりの答えを出したところでそれはあくまで師範代にとっての答え。それを真似して得られた結果に満足はできない。
だからこそ美春を導く。
「……ちょっとだけ楽になりました。私、がんばります!」
「その意気だ! じゃあ、ラスト素振り100回!」
「えっ!!」
覚悟を決め、美春はゲームに挑戦することにした。
人生において初めての体験。
不安もあるが不思議な興奮もあった。
数日後、先行バトルプレイヤーとして美春は近くのゲームセンターへやってきた。
すでに椿と弟の大和はゲームセンターの前で待っていた。
「ごめんおそくなっちゃった」
「私たちも今ついたとこだよ」
「よかった。大和くん久しぶり」
「お久しぶりです。その、うちの姉が迷惑かけてすみません」
「いいよいいよ。でも、やるからには勝つから応援してね」
「もちろんです」
三人はゲームセンターに増設されたダイブルームへと入る。
今後のことを見越して10台以上のダイブマシンがあるが今回を使用するのは美春たちだけだ。
室内は機械を冷やすためにクーラーが効いている。
「じゃあ、さっそくやってみますか!」
「姉ちゃんやり方知ってるの?」
「知らない!」
「はぁ、俺が説明するよ」
スマホへ事前に送られたデジタルIDカードをかざしダイブマシンを起動、生体認証を行いマシンはゲームとリンクすることができる。いずれはたくさんのゲームとリンクできる予定だが現在はバトルエースオンラインのみとなっている。
三人は横並びに座席に座った。
レースゲームのような筐体の形をしているが座席はかなりクッション性に優れている。正面には画面があり、ダイブ前に様々な調整ができるようになっている。
「で、このVRギアを装着したらスタートします。ギアの横のボタンを押したらガラスの壁が閉じて個室状態になります。ですがもう一度押せば開きます」
大和の丁寧な説明のおかげ大方のことは把握した二人。
ついにオンライゲームにダイブするときがきた。
「よーし! じゃあ、ゲームの中に入るよっ」
「最初はアバターを作ります。終わったら向こうの中央ロビーで待ち合せましょう」
「わかった。またあとでね」
三人はVRギアを装着しゲームの世界へと入った。
美春の未知なる体験が始まる。
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