ゆめ・うつつ

電灯が放つ微かな光によって十分に冷やした揺籃ゆりかごの中で

外景がいけいを完璧な海の様にゆるがせながら

なだらかに

なだらかに

夢が続く


教会の鐘が木枝きえだを揺らすと

空気の表層ひょうそう橙色だいだいいろり絵と化した

雀追すずめおいが陽をうけて笑い

イオニア式の煙の周りを

ハヤブサがとぶ

犬がはしる

焼けたわらが黒く地に

そのかたわらを車輪が一輪

ころがってゆく


僕が居る木箱きばこの中では

半透明の小虫こむしが本を食っている


眠る小鹿バンビの乾いた鼻の頭に

ほどよく透き通った

レモンの輪切りをのせた

モスグリーンの空気の中に

ちいさな光球こうきゅうが二つ追加され

僕の夢は楽しい悲鳴をあげながら

丸い床の上で

追いかけまわされる


影が燃えている

蜘蛛の巣が僕の印度翡翠いんどひすいを守っている

炎に炙られた鉛筆がコロコロところがって

楕円のレンズのZ軸上に

奇妙な軌跡を描き出す

僕の硝子の地球儀は

ゆっくりと

割れていく


半透明の小虫は

表紙だけを残して

僕の本をたいらげた

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