第70話 ショコラの疑問
「さぁ、リン今日も一日頑張りましょう」
「キュ!」
そこにショコラがやって来る。
「はい、リンちゃんこれ今日の分」
書類の山をドスンと机に置く。
「はぁ、重かった。なんでティラミスさんはこっちに移動したがらないのかしら」
一度、魔王の寝室で仕事をした方が効率がいいのではないかと、いう意見がショコラとクッキーの間であがったのだが、ティラミスだけがそれに反対の意を表した。
理由は、「行き来してないと、宰相様が城に残っている」という偽造が疑われるとのことだった。
まあそれも一理あるが、魔王の寝室に宰相が移動したのは魔王の世話のため、でもその世話をする魔王が今は別の塔にいるのだから、宰相がここに留まっている意味はないはずなのだ。悪魔族の子息だというラエンも魔王城から出ていったことももう街の人も知っている。なのに宰相がこの部屋に留まる方が不自然な気がした。
そこでショコラはさらにハッとした。
(不自然と言えば、魔王様のお世話はどうなっているのかしら)
不思議なほど今まで思い浮かばなかった疑問。
(また深く眠ってしまったのかしら?)
それならば世話をする必要はないのだろう。でもギルガメシュぐらいは様子を見に行ってもおかしくないような、自分が知らないだけで見に行っているのだろうか。
「ねぇ、ギルガメシュ様。魔王様ってまた眠ってしまっているの?」
投げかけた質問に、ショコラが驚くほどギルガメシュがビクリその大きな体を揺らす。
「あぁ、そう。また……深い眠りに入ってしまったようで、あっしも様子見ぐらいしかしなくて大丈夫だって」
どこかしどろもどろに答える。
ツッコみどころ満載だが、ギルガメシュをこれ以上困らせてもショコラのとくにはならない。
(まぁ王室なんて、どこも秘密だらけだろうしね)
そんな言葉で自分を納得させる。
☆──☆
「恋人にかい?」
露店のオヤジが営業スマイルをのせたままそう声をかける。
「いいえ、職場にお土産を送ろうかと。これなんかいいかな」
そういうと、綺麗な石が沢山ついているブレスレットを手に取る。
「ダメだ」
しかしオヤジがきっぱりと否定する。
「えっ、でも女のかたはこういうのが好きなのでは」
「だからだ」
なぜかオヤジはそういうと、隣の店のよくわからない置物を進める。
「職場のそれも女性に送るなら、これくらいにしとけ」
「えっ……」
それは可愛いとはちょっといえない、よくわからない生き物を模した置物だった。
「それは……」
「送る相手は独身か」
「はぁ……」
少し考えてから「たぶんそうです」と答える。
「なら、なおさらだ」
オヤジは確信めいた目でそう言い切った。そのあまりの強い眼差しに。
(今の若者たちの間ではこんなのが流行っているのか……)
とリーレンは、手に持っていたネックレスをやめそちらの置物を3つ買った。
(これで、ティラミスさんから貰ったお守りのお礼ができた)
リーレンは満足した顔で店を去っていった。
「おい、なんであんなお土産勧めたんだよ」
隣のオヤジがリーレンにお土産を進めたオヤジに尋ねた。
「あれでいいんだ。これが世のためなんだよ」
オヤジが腕を組みながらそんなリーレンの後ろ姿を見送る。
「あんなにいい男から、独身女性にアクセサリーが送られたりしたら。そいつは間違いなく勘違いする。職場もきっと修羅場と化すに違いない」
「はぁ、そんないい男だったのか」
フードを目深にかぶっていたが長年色々な旅人の相手をしていたからわかる。あれは悪魔族でもめったにお目にかかれない、いい男だった。
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