第12話 秘書官は見た

「宰相様、この書類に……」 


 宰相の秘書である犬魔族のショコラは、見えてしまった光景に反射的に扉を閉めた。


 ──えっ? えっ? なに? どういうこと?


 今しがた見た光景とセリフを頭の中で反復はんぷくする。



『宰相様行かないで!』

『許可なく子供なんて──承知しませんよ』


 宰相がなんといっていたのかは聞き取れなかったが、だが牛魔族のほうは間違いなくそう言いながら、宰相にすがっているように見えた。


「……これは……」


 ショコラは渡すはずの書類のことも忘れ、人生で初めての早退をした。

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