兄と弟、それから行方不明

 ◆


「何がしたかったんだ?」

「申し訳ございません」

「ただ、ただ、空を飛び続けただけじゃないか」

「申し訳ございません」


 クロネに言われて、僕はハイエアートに乗り、少し前に練習で飛んでいた場所をぐるぐると飛び続けた。


「この前、飛行中に会いました、ハイエアートのパイロットの女性が、とても似ていたもので……」

「なにっ……」


 待てよ、あり得るかもしれない。エリーナは魔力だけは高かった。だからこそ、神の力、神聖力に目覚めるかもしれないと、僕達は婚約を交わしたのだから。


「誰かがその情報を得て彼女を……。そうか、ヤツが。探せ! あのハイエアートのパイロット達を」

「はっ!」

「僕が行きましょうか? 兄上」


 にこにこと笑いながら、弟のクレスヘラがこちらに歩いてきた。


「クレス、何の用だ?」

「やだなぁ、多忙の兄上に代わって僕がエリーナを探してさしあげようと」


 にこやかに笑っているが信用出来ない。クレスヘラはアナスタシアと――。


「クレス、お前は――」

「それじゃあ、そういうことで。兄上はきちんとレースで勝利して姉上を他国にとられないようにしてくださいよ。陛下が悲しみますから」


 僕はギリと歯噛みする。わかっている。わかっているのだ。

 けれど、今になって後悔する。クロネの魔力では、ハイエアートレースは……。

 何故、僕はエリーナに別れを告げてしまったのか。

 クレスヘラの後ろ姿を見ながら僕は、ハイエアートを拳で殴り付けた。


 ◇


「は? ただの接続不良?」

「うん、なんかね。切れてたみたい。ほら」


 そう言って途中で切れたと思われる長い線を二本見せられた。


「何だよ、心配損かよ!」

「いやいや、動かす前で良かったよ。飛行中にプチンってなってたら――」


 ルミナスが腕をカクンと下に曲げる。

 途中で切れてしまったら、墜落だったわけだよね。


「ひぇっ」

「なるほど」

「ね、だから不幸中の幸いかな。練習は一日潰れてしまったけど」

「そうだ、明日はハイエアートの練習にしよう」


 私がそう提案すると、アルテは、ポリポリと頭をかきながら少し困った顔になっていた。


「いいのか? 宝物は?」

「いいの。だって、今日は練習出来なかったし、それに――」

「それに?」

「あー、えっと、それに――ほら、あれだよ! あれ!」

「あれ?」


 次の言葉が行方不明です。何言おうとしてたっけ。だれか助けてっ!


「あ、可愛い髪飾りだね」


 たぶん、もっと前から気付いていたであろう、ルミナスが急に髪飾りの話題をふってきた。


「そう、そう! 髪飾りのお礼よ」

「いや、でもそれは――」


 ぷくくと笑い声が響く。今日もまたルミナスに笑われてしまう。


「あはは、仲良しだね。まあ、もうレースまで今日も入れて3日しかないし、言葉に甘えておけばいいんじゃないかな?」

「え?」

「あれ、レースの日時、聞いてなかったの?」

「聞いてません」

「知ってるもんだと」

「聞いてません! 知りません!」


 そうだ、正確な日時なんて覚えてなかった。それじゃあ、えっと、まって?


「ますます、練習しておかないとじゃないですか!」


 もっと早く言ってください! 大丈夫ってもう、ぎりぎりでこんなことになってたら、なんとかなるなんて言ってられないだろうに。


「起動だけは今から確かめますよ!!」

「お、おぅ」

「そうですね」


 まるで、気圧けおされたかのように二人が驚いた顔になっていた。

 二人とも、本気なんですか!? まったく!

 私が一人盛り上がってても全然意味ないんですけどっ!!

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