私の宝物を探して~返してよ?それは私のものだから!~

花月夜れん

前編

ゲームの世界に来ちゃったの?

 人は何で、見た目でまず判断はんだんするのかな? 中身なかみなんて外からじゃわからないのに。

 だからね私が欲しいのは、格好カッコいい王子様じゃなくて、キラキラハッピーな可愛かわいいお姫様役でもなくて、そう――。世界でたった一つしかない位に珍しい宝物が欲しいの。宝物は期待を裏切ったりしないもの!

 でもね。だからって、神様、こんなかなえかたしなくてもいいのに!!


「返してよ! 私の幸運!」

「いや、返せと言われても――」


 彼の手にガッチリとはまったリングはどうやっても取れそうにない。


「何で、こんなことにぃーーーー!!」


 ◇


 一日前――。


「――、私は婚約者ですのに?」

「彼女が、神聖力しんせいりょく発現はつげんさせたのだ」

「だから、何だというのです?!」

「すまない、エリーナ。僕は真実の愛に気がついたんだ。婚約を取り消してもいいか?」


 きたーーーーーー!やっと、きましたよ! 婚約破棄イベントが! こんな感じに婚約破棄してたのね。

 あ、神聖力っていうのはある日特別な人が使えるようになる、特別な力でいろいろ便利な魔法になるの。

 はー、やっと私、お払い箱。あれ、でもなんだか優しいような。破棄? 解消? まあいっか。これで、――。


「はい、あり……おっと、わかりましたわ」

「えっ」


 今日から私、自由の身です!!

 わざわざ私の家まできて、婚約破棄を願い出たのは、アルベルトという王子様。私は結婚したらこの国のお姫様的立場だったけど正直まっぴらごめんです!

 だって、めんどくさいじゃない?


「じゃあ、私はこれで! 失礼しますわ」


 にっこり笑って、はい、さようなら。話をしていた部屋から出て、自室へと向かい扉をしめた。ふぅと息を一つ吐き、さきほどの光景を思い出す。

 王子様のびっくりした顔ってば……、こちらの都合だったから悪いなーってちょっぴり心が痛んだわ。


 そうそう、私の名前はエリーナ。名前設定そのまま転生? してしまったのよ。この近未来的乙女VRゲーム「空と大地を駆ける~イケメン王子達と甘い恋~」剣と魔法のある仮想かそうファンタジー世界でイケメン達と触れ合おうというのが売りのやつなんだけど。友達に一緒にやるぞと誘われてやりはじめたら、これがけっこう面白かったのよ。


 二人してこの世界に生まれ変わりたいって話していたら、ゲームで使う機械が光って――。気がついたら、彼女は主人公、私はメイン攻略キャラとの恋のライバル役のご令嬢れいじょうって訳よ。

 生まれ変わりたいとは言ったけど、本当になるなんて誰が思う?

 とりあえず、夢だろうと結論付けて二人でゲームライフを楽しんでいるのだけれど、これがまた覚めない。いつ覚めるの?

 婚約破棄イベントも終わったよ? あとは主人公達にまかせて私は退散たいさんよね?


 え、それでいいのかって? まあ、別にそれはどうでもいいのよ。だって、私ゲームのメインストーリー攻略よりもサブコンテンツのトレジャーハントにはまってたんだもの!!

 あ、言い忘れてた。私の本当の名前は佐々木絵理奈ささきえりな。名前を見たらわかるように、日本人の女子高校生。いまは、青い髪、水色の瞳の水の妖精ようせいの様な美しい女の子になっちゃった。少しだけ目付きが鋭いのが勿体もったいないけど、本当に美人なの。


 誘ってくれた彼女は黒い髪、黒い瞳のままだけれど、ゲームの主人公らしく、清楚可憐せいそかれんな美少女に大変身。ちなみに名前は佐藤菜穂さとうなほと書いてアナスタシアと読む。彼女の設定名は好きな乙女ゲーム小説からつけたらしい。

 中身がわかってるから、関係はとても良好よ?

 可憐な彼女を苛めるふりをする時は、本当に大変だった。心が痛い。けれど、こうしないと私が自由になるルートがなかったのよね。他の攻略キャラのルートじゃ別のライバル令嬢がでばってきてしまい、彼と結婚させられてしまうもの。


 まあそれで、二人がメインのシナリオ通り動けば上記のようにアルベルト様は婚約破棄からのアナスタシアへ求婚するルートになるって寸法すんぽう。二人で決めたことだからもちろん、恨みや仕返しなんてものはない。はずよね?


「さてとっ!」


 窓から馬車が出ていくのを確認して、私はある準備をするために廊下へと出た。


「エリーナ、待て!」

「げっ、お父様」


 めんどくさいのが来たわ。娘を溺愛できあいするばかりに主人公アナスタシアとヒーローとの関係を引っ掻き回す小物の悪役。ライバルの父親!!

 私達、超円満ちょうえんまん婚約解消こんやくかいしょうなのよ。だから邪魔じゃましないで欲しい。


「げっ、とはなんだ! 父親に向かって」

「だって、私もう自由の身ですもの! 今から冒険者になって遺跡探索ダンジョンたんさくに」

「何を言っているんだ! そんなものに女のお前をさせるわけがないだろう! 来なさい!」

「ぎゃぁぁぁぁぁ」


 女の子らしくない悲鳴をあげながら、私は何処どこかへ連れていかれた……。


 ◇


「捕まっちゃった……」


 ライバルの家の地下にこんな牢があるなんて初めて知ったわ。

 ゲームのメイン攻略はほんとさらーっと流しただけだから、背景とか全然覚えてないのよ。トレジャーハントの場所以外!

 まあ、でも父親が心配するのはわかるのよ。あれは、イケメン達と一緒にダンジョン攻略してドキドキパラメーター上昇もとい仲を深めるって設定だからなぁ。


 そんなところに、女の子一人でなんて、怒るわよね……。

 でも、私は主人公じゃないから、イケメンとラブフラグなんて立たないという。男の子と一緒になんて――。あんなことがなければ、私だって男の子と楽しくおしゃべりを――。はぁ、冒険、諦めないとなのかなぁ……。


 ふ、ふふふ、ふふふふふ。

 あまーーーーーーい!! 甘いわ! 砂糖菓子よりもっと甘い!

 私には、これがある! 神様からもらった「幸運」という武器が!


 説明しよう。この腕についている腕輪は、なんか色々あってここに来る前に神様がくれたオマケなのだ!

 私は「幸運こううん」、彼女は「魅了みりょう」。それぞれが攻略に適した物をいただいたのよね!


「さてと、神様神様聞こえますかー。牢をなんとかしてください」


 そう言うと、キィと牢の扉が開いた。

 ははははは、これで自由だ! 私はトレジャーハンターの王になる!

 どこかで聞いたことがあるようなセリフとともにエリーナはこの国から姿を消した。

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