辺境伯家での日常
使用人
執事長が不正を行ったことによる罪で更迭されてから1月ほど経過しました。
執事長の後任として役職を与えられたのは、アグルス様の秘書として仕事をしていたうちの1人が就きました。
当然、今まで執事として活動していた訳ではありませんので、アグルス様の執務を手伝いながら執事長の仕事内容を学んでいる最中です。
アグルス様はあの後すぐに王都でやらなければならなかった用事をすべて終えられました。
しかし、執事長の不正や、その不正に関わった伯爵家などの対処や後始末などで、帰宅が1週間ほどお屋敷への帰還が遅れてしまったのです。
また、執事長の指示に従ってアグルス様や私、当主夫妻への嫌がらせを実行していた使用人は、一部を除いて解雇。残った一部の使用人については当面の間減給、及び、降格の処分が言い渡されました。
アグルス様は出来るだけ解雇する人員を減らしたかったようですが、さすがに手を出してしまっている使用人を残しておくことは、減給や降格をしたとしても嫌がらせに加担していない使用人との不和が生じかねませんし、当主に対する不満も生みかねません。
そのため、使用人の数が大きく減ってしまいましたが、居なくなった使用人の補充として、私の実家であるフィラジア子爵家からいくらか使用人を補充し、残りは貴族院の斡旋所から新人の使用人を雇い入れました。
使用人に関してはフィラジア子爵家からしても、私とリースが同時に嫁いだことで使用人が余っていましたし、ナルアス辺境伯家からしてもあまり繋がりの無い貴族家から使用人を斡旋してもらうより安心できる、という事で双方納得できる形での取引になりました。
新しく使用人を雇い、他家から使用人を補充したことにより、新人教育やフィラジア子爵家から来た使用人に指導をしているため、ナルアス辺境伯家に元から仕えていた使用人はここのところ忙しそうに仕事をこなしています。
「トーア様」
「何かしら?」
少し席を外していたランが戻って来るとそのまま声を掛けてきました。
ここに来た当初はまだお嬢様呼びだったのですけれど、アグルス様と婚姻が正式に決まっている以上、これからはお嬢様ではなく、トーア様と呼ばせていただきます、とランから言われました。それ以降、ランは私の事をお嬢様と呼ぶことは無くなりました。
婚姻したことで立場が変わってしまった以上仕方のない事ですけれど、少し寂しいですね。
「旦那様から昼食の後、話があるそうです」
「そうですか。どのような話をされるのか、話の内容は伺っていますか?」
「いえ、私も直接聞いた訳でもないので、申し訳ありません」
「それなら仕方ありませんね」
アグルス様から話がある、ですか。話の内容が伝えられていない、という事は外部に漏れることを防ぎたいのか、別にそこまで重要な話ではないかのどちらかでしょう。
それに今、それを伝えて来たのなら、そこまで重要な話では無い気もします。まあ、実際に聞いてみなければどうなのかはわかりませんけどね。
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