現代II 其の9


「わたしは、…分かるわよ。あなたの中が少しだけ、変わっていることに。」


自覚の無いレヴィアタンは、苦笑いする。


「わたしはね、今、この子(川原悠真)の魂と共にいると、とっても幸せな気分になれるの、だから、お願い、私は、このままこの子と一緒にそっとしておいて欲しいの。」


シャティエルは、レヴィアタンに懇願するが、レヴィアタンには、通じなかった。


「それは、無理だな。」


「……。」


シャティエルは、そうレヴィアタンが言うだろと分かってはいたが、それでも、分かって欲しかったシャティエルは、瞳を悲しげに翳らせた。


「…そう、残念だわ。…悪魔界の第3位の悪魔、レヴィアタン。今、悪魔界は、私の魂を得ようと、悪魔の戦乱下克上にあるみたいね。」


「……。」


レヴィアタンは、黙って聞いている。


「悪魔界を支配していると言っても過言ではないあなたが、この、私の力(世界を支配する力)を欲しているのは、悪魔界の支配者である"サタン"に反旗を翻そうと、企んでいるからなのかしら?…それとも、サタンの命令かしら?」


シャティエルの読みに、レヴィアタンは、笑わずにはいられなかった。


「クックック、ハハハハハッ。」


「…残念だが、そのどちらでも無い。だが、大きなうねりの中に巻き込まれたようだな。そうゆう噂が流れている。…流れがそう、俺がヤツ"サタン"に反逆でも起こすよう仕組まれたかのように、うねりの流れがそうなっているようだな。」


レヴィアタンは、厄介なことになったものだと、考えていたが、口もとには笑みが浮かんでいた。


シャティエルは、レヴィアタンが楽しそうに笑んでいるのに気づいたが、レヴィアタンが、何を考えているのかは、読めなかった。


そこで、シャティエルは、提案した。


「…もし、あなたが、私の願いを叶えてくれるのならば、わたしは、あなたに、覚醒したわたしの力を使ってあげてもいいわ。」


レヴィアタンは、シャティエルの、悠真と一緒にいたいという気持ちと、覚醒したら悠真が死んでしまうという、矛盾したシャティエルの提案に懐疑的に思い、目を光らせる。


「私の魂を得るとは、私の身体に、私の魂がもどり、目覚めさせる事よ。でも、それは、この子(川原悠真)が、死ぬと言う事。彼は、私の一部だから…。」


なるほどな、と、レヴィアタンは、納得したが、それだとシャティエルの願いは叶わない。


レヴィアタンは、本当のシャティエルの目的がわからず、ただ、シャティエルの心を欲するには、シャティエルの望みを叶える必要があるなと、考えた。



「わたしを完全に目覚めさせたかったら、この子(川原悠真)を連れて、わたしの身体に会いに来ることね。そこに横たわっている、悪魔の女の子に、尋ねてみなさい。きっと、私の身体がどこにあるのか、手がかりを知っているわ。」


悪魔の女子は、まだ屋上に気絶したまま横たわっている。


「だから、安心してレヴィアタン、わたしはまだ、完全に目覚めたわけじゃないから、この子(川原悠真)は、まだ、生きているわ。」


「だから、苛立たないで…。」


シャティエルは、エメラルドグリーンの瞳に、本当の姿のレヴィアタンを映しだしていた。


「俺は苛立ってなど、無い。」


レヴィアタンは、冷静に答えた。


「レヴィアタン、あなたが知らない間に、あなたもこの子、私の一部である川原悠真に惹かれているの、だから失うのが怖くて苛立っているのよ、わかってるかしら?」


「な?なにを言っているのだ??…俺には、わからん。川原悠真など、死んでも構いはしない!」


レヴィアタンは、シャティエルに自分の気持ちが見抜かれていながら、当の本人は、全く分かってはいなかった。


(本当は、優しいレヴィアタン…。今度また、会えるかしら?わたしは、もう、会うことは無いと思うわ…。)


(もし、会うことになったならば、力を貸すけれども、何が起こるか私にも予測は出来ないのよ。)


シャティエルは、レヴィアタンに手を差し伸べると、レヴィアタンは、その手を不可解に思ったが、シャティエルが握れと言わんばかりに、差し出すので、何気に握った。


すると、シャティエルの手から眩い光が放たれる。


「!!!」


「な、なんだ!?」


レヴィアタンが気付いた瞬間に、レヴィアタンの意識が瞬時に蓮から掻き消されたのだった。


意識を失った、レヴィアタン(蓮)は、地面に倒れた。


それを、黙って見届けたシャティエルも、その後に続くように、呟いた。


「…さようなら、レヴィアタン。…もう、あなたに会う事は無いと思うわ。」


その言葉を残して。シャティエルも、悠真の意識から消え、地面に倒れこんだ。



屋上には、蓮と悠真と悪魔の女子の三人が倒れたまま、静けさが戻り、昼間とは打って変わって、夕焼けの赤い陽射しが、屋上を赤く染めはじめていた。

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