第31話 更衣室でのお猿さん

 施設内に入り、有菜と一旦別れた。


 男性更衣室に入って服を脱ごう。

 既に水着は着用してるし。


 有菜にスク水は「いい」と言ったけど、どんな水着でくるのか。


 妄想ばかりしてしまうけど、これから二人の馴れ初めを聞かなければいけない。


 そういえば……有菜に室斑をどう降ったかでも聞いてたら良かったかな。

 いつも、後腐れなく振りまくってるし……。


 ストーカーを作らないような秘訣があったりするのか。


 そしてロッカーが並んでいるであろう、男性更衣室に入ろうとした時。


 俺はぴたりと足を止めた。


 聞き覚えのある女の子の声がした。

 ここ、男性更衣室だよな……あれ。


「だ、駄目だよ……こんなとこで、あっ……」


「もう我慢できそうにないんだ」


 おいおい、待ってくれよ……。

 夏樹さんと室斑じゃねーか。


 先入ってるって聞いてたけど……。

 え? そういう意味か、嘘だろ。


「ヤダ、あっ……だめ。あっちゃん達も来るん……だよ」


「合流したらまた……いつまで経っても出来ない」


 ふぅ…………。ま、いいけどさ。

 俺どこで着替えたらいいんだよ。

 ほんとはもう合流してんだ。

 合体なら他所でお願いしたい。


「ゆっくり……んっ……大切にしよ……ね?」


「里穂が可愛いから……いけないんだっ。誰にも汚されずッ」


 誰にも汚されずってなんだ。

 意外と潔癖主義だったりするのか。

 じゃあ場所考えてくれよ。

 というか、夏樹さんはまだ室斑に山田先輩のこと、言えてないのかな。


「そのことでお話がね……んっ、ま、待ってっ」


「今はいいんだっ」


 う〜ん。止めた方がいい気がしてきたけど……。

 こういう時、有菜だったらどうするんだ。


 何もやましい気持ちなんてないけど。

 うん。ないんだけど、チラリと確認だけ。


 紺色────スク水姿の濡れた黒髪美少女。


 夏樹さんは両手をロッカーに置いて、身体ごと押し付けている。

 スク水越しでもわかる大きなお胸がロッカーによってつぶされ、大胆に形を変えている。

 顔は真っ赤か。まさに見る者の獣欲を掻き立てる光景だろう。


 俺の今の位置からは、彼女の横腹にある野郎の片手しか見えない。

 すると夏樹さんが泣きそうに訴えかけている。


「こんなとこじゃ……赤ちゃんに……んっ……だめだめ……お願いっ」


「だめって……もうこんなに濡れてるのに?」


「違うよぉ! プールのお水だもんっ」


 そうだぞ。力強く違うって言ってるじゃないか。

 しかし…………。

 全く入るべきタイミングが分からない。


「どっちでもいい、もう」


「だーめ。せ────んっ、塩素で死んじゃうよぉ」


 ん? 何が死んじゃうか聞き取れなかった。

 夏樹さんは恥ずかしいものの冷静……なのか。

 室斑は猿みたいに発情してるのはわかるが。

 まずいな……。


「ちょうどいいって!」


 最低かよ室斑。

 流石に引く。


「あっちゃん達だって……んっ、まだこういうの……」


「違う……先咲はビッチだ! 俺は知ってる! いいから、ほらこっち向いて……」


 なんだって……。有菜がビッチって。

 室斑、お前が一体何を知ってるっていうんだ。


 有菜は俺に無理矢理服を脱がせようとした。

 けれど、せめて小悪魔っぽいと言ってくれないか。


 幼馴染になんてこと言ってくれるんだ。


 頭にきた俺は、そのまま中に入っていこうとして……。


 見えていなかったクソ野郎────室斑の姿をはっきりと見た。


 今、室斑は夏樹さんをぐるりと自分の方に向け、両手で彼女の肩を抑えている。

 夏樹さんは不安定な体勢でロッカーに押されている。


 今にも崩れ落ちそう。

 だったんだけど……。


「────やめて!!」


 黒髪美少女の大きな声。

 顔は真っ赤っかで泣いてるけど目はムッっと室斑を捉えてる。


 勇気を出したというよりも……。

 ずっと言いたかったんだろうなぁ。


「……え」


 一方、赤い短パンの水着姿の室斑はポカンとした顔。


 俺もそんな顔したいんだけど気まず過ぎるって。

 いつになったら俺は有菜と合流できるんだよ。


 こっちはビンタ食らったんだし……それぐらい、な。


「あっちゃんのこと……悪く言うのは……やめて。ビッチなんかじゃないよ」


 そう言いながら肩に乗ってる野郎の手を掴み、剥がしていく夏樹さん。


「……だ、だって!……君と比べたら」


 少し呆れたような表情だ。

 室斑の顔から目を逸らした。


 そして、ばったりと俺と目があってしまう。


 見ていることがバレてしまった……。


「あ…………んっ、こほん……。む、室斑くんはさ」


 一瞬、声に出てしまったが続けてくれるそう。

 まだ出て行かない方がいいってことか。


 それにまだ「室斑くん」と苗字呼びなのが初々しいなぁ。

 そもそも室斑の下の名前なんて覚えてないんだけど。


 室斑は頭を傾げて続きを待っている様子。

 そして夏樹さんは恐る恐る、彼氏に尋ねた。

 

「処女の子じゃないと……ダメなんだよ、ね?」


「当たり前だろッ!」


 おっと……そっちのお方でしたか。

 なんとなく察しは付いていた。

 気持ちは分からなくもないけど。


 すると、また俺の方をチラっとみる夏樹さん。

 これはそろそろ出てこいってことなのか。


 困った顔というか、悩んでいる顔というか。

 そして一旦、ため息を入れた彼女は彼氏に告げた。


「私────処女じゃないよ」

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