未来人の話をしてやろう。
僕はふとあることを思い出した。
そういえば信長様は、戦国時代にいた頃に僕の時代やそれよりも前の時代、未来からも大勢の人がタイムリープしてきたと言っていた。
その人たちはいったいどうなったのだろうか。
僕は本人に直接聞いてみることにした。
「信長様」
「ん、なんじゃ?」
「信長様は以前戦国時代にいた時にたくさんの未来人たちが来たと言っていましたよね?」
「ああそうじゃ。なんじゃ、気になるのか?」
「はい」
「そうか。では今日は未来人の話をしてやろう」
「お願いします」
こうして、おそらく未来人に1番多く来訪されているであろう織田信長による未来人レクチャーが始まった。
「まず初めにお主たち未来人に言いたいんじゃが」
「なんでしょう?」
「来すぎ。」
「…やっぱりそうですか」
「ああ、じゃってすっごい頻度で来たもん」
「どれくらいだったのですか?」
「ん〜そうじゃな、基本的に1週間に一回くらい。多い時は1日に何人も。特に大きな合戦の前とかじゃとたくさん来る」
「え、同じ日に来るんですか?」
「ああ。なんじゃかこっちがそわそわしたわ。なんかワシとお主らが出会うのは別にいいみたいじゃけど、お主たち同士が出会うのってOUTっぽいじゃろ?」
「確かにそうですね」
小説においてもタイムループ先で未来人同士が出会ってしまうというものはほとんど見かけることはない。
きっと暗黙の了解があるのだろう。
「でもワシや家臣たちではどうすることもできないからの。」
「もし未来人同士が出会っちゃった場合どうなるんですか?」
「まあケースバイケースじゃけど、そうじゃな〜1番酷かった時はなんか闘いが始まってたぞ。」
「そ、そうなのですか」
「こっちからしたらいきなり未来から来られて、いきなり闘い始められておるわけじゃからの。ぶっちゃけわけが分からん」
「結局その人たちはどうなったのですか?」
「結果としては、負けたほうが未来に強制送還じゃな。相討ちの場合も。稀に仲直りすることもあるがな」
「未来に帰るんですか?」
「ああ。どういうわけか未来人たちの体がフワッと消えていくのじゃよ」
「その場で死亡したりはしないのですか?」
「なんか、あ〜こいつ死んだわ。って位のダメージを受けるとその瞬間に消えるのじゃよ」
そうだったのか。
未来の体が過去の世界に残るのはいろいろとまずいからなのだろうか。
「けど必ずしも闘いが起こるというわけではないぞ。意気投合して2人でワシらの助けになることもある。」
「2人でですか?」
「うん。なんかお互いが未来から持ってきた物を見せ合ったりしておったぞ。その後2人で話し合って作戦を練ってた。」
「でも、どちらかからしたらもう片方の人は過去の時代の人ですよね。」
「お、いいところに気づいたな。そうなのじゃよ、だから時折未来の奴の方がマウント取ったりしておったぞ。まあワシからしたらどちらも未来人には変わりないがの。」
そんな謎のマウントが存在するのか。
平成や令和生まれの子供が昭和生まれの親にマウントを取るようなものだろうか。
「その人たちは何をしに戦国時代に来たのですか?」
「人それぞれじゃな。来ようと思っていないのになぜかいきなりタイムループしてしまった者、正しい歴史が変えられようとしているからそれを阻止しようとする者、逆に歴史を変えようとする者。こういうタイプが多いな」
「確かにタイムループものにありがちな理由ですね」
「正しい歴史なんぞワシらに言われてもなあ」
「ああ〜、そちら側からしたらそうですよね」
「こいつらの他にも変わり種もおったぞ。料理人や医者、はたまたサッカーなんかをしに来た者もおった」
「なぜ戦国時代に?」
「知らん。っていうかそいつらのせいで歴史が変わってしまってるような気もするがな。」
「そう、ですね」
それはいいのだろうか、と疑問に思ったが今は考えないでおこう。
「じゃが1番びっくりするのはやっぱりあれじゃな、
「…やっぱりあるんですね、そういうの」
「ああ。あれは流石のワシもびっくりよ。『お主は一体誰じゃ?』って聞いたら、『ワシは織田信長じゃ』って答えてくるからな、あやつら。『ワシはワシじゃ』、『いやワシがワシじゃよ』みたいな会話が延々と続いたわ」
「まあ向こうも織田信長ですからね」
「あやつらはタイムリープとはまた別物らしいが、パラレルワールドっていうんじゃろ、そういうの。」
「ええ」
「もうそうなってしまったらバトルじゃよ。あやつらはワシの世界に来ておるわけじゃからの」
「バトルですか?」
「うむ。殴り合いか刀での斬り合いでな。全員倒して元の世界に帰してやった。いや〜でもワシということだけあって手強かったわ。おんなじ戦法使うしな」
「どの世界線でも一緒なのですね」
「ああ」
「このようなことがほぼ毎週あってな、最初の方はまだ物珍しさがあるんじゃが、10回目くらいからはもう日常じゃよ」
「やっぱり未来人慣れってあるんですか?」
「ああ。それでな、やっぱりこう何人も来られると、ワシも次の未来人が来た時には、未来がどんな感じなのかすでに知っておるわけじゃよ。このスマホのこともな」
そう言って彼は僕のスマホをひらひらした。
「しかも先に来た未来人たちの話から次に来た未来人たちがいつ頃から来たのかもなんとなく分かるようになった」
「分かるものなのですか?」
「時代によって若干服装や髪型が違うからの。家臣たちも慣れているわけじゃから、新しい未来人が来た時には家臣たちと『その未来人がいつの時代から来たかを当てるゲーム』をして遊んでおったわ」
彼は懐かしそうな顔をしてそう話していた。
そして次の瞬間何かを思い出したようで、爆笑していた。
「どうかされたのですか?」
「いやなに、未来人で面白かったことを思い出してな。」
「それはどういう?」
「ある時いつものごとくワシのところの兵士が川で未来人を捕まえてきてな、ワシももうそやつが服装からして未来人だという
ことは分かっておるから、未来から来たことよりもそいつの持ち物の方が気になって『お主の持ち物を見せてみよ』と言ったん
じゃよ。そやつもそれを聞いて殺されないのだろうと感じて安心したんじゃろうな。元気を取り戻してある一つの物をポケットから取り出してドヤ顔でこう言ったんじゃよ、『これは
一瞬の静寂ののち、彼が吹き出した
「ぶワッハッハっは!聞いたか大河、ガラケー、ガラケーじゃと!いやガラケーって、いつの時代の物じゃよ!ってなったわ。その時はすでにスマホを知っておったからの。それなのにガラケーをドヤ顔で言うものだから。いや〜愉快愉快」
まあその未来人の人からしたら無理もないだろう。
なんせ自分より先にタイムリープして織田信長に会いに来た人がいるなんて夢にも思っていないのだから。
未来人がたくさん来るとこういうこともあるのか。
ようやく笑いがおさまったのか、彼はふ〜っと息を吐いた。
「そんなこんなで未来人がたくさん来ることには慣れたのじゃが、ワシはもう一つお主らに言いたいことがある。」
「なんですか?」
「お主たち
「どういう意味ですか?」
「いやな、未来人たちはしょっちゅうワシのところには来るんじゃけど、他の武将たちのところにもいるという話は聞かないのでな。お主たちは戦国時代にタイムリープしてしまったらとりあえず織田信長のところに行けばいいとか思ってないか?」
「あ〜」
確かに僕が読んだことがある未来人が戦国時代に行くお話でも大体皆織田信長のところに行っている。
「まあワシは最強だから無理もないが、なんかこう、ワシのところにばかり未来人が来ると、ズルイではないか」
「ズルイ、ですか?」
「じゃってワシだけ未来の文明の力を手にしてるわけじゃろ?」
「…確かに」
「正直なことを言ってしまうとな、やっぱりさ、ワシも男であり武将であるわけじゃから自分の力で天下を取りたいのじゃよ。それがこう、未来人がワシのところにばかり来ているって他の武将たちに知られて、『信長は未来人のおかげで天下を取った』なんて言われるのは嫌じゃろ?」
「それはありますね」
「じゃろ。じゃからさ、お主らには悪いんじゃけどさ、ワシのところだけではなく、他の武将のところにも行ってもらえると、ワシとしては助かるのじゃよ。」
「わ、分かりました」
だそうですので、これから戦国時代にタイムリープする方々はよろしくお願いします。
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