第8話

 翌日、私は目を覚ますと、アンドリューが私を見下ろしていた。


「きゃあ!むぐっ!」


 私がそう叫びそうになると、アンドリューに手で口を塞がれた。


「急に叫ぶなよびっくりするから」


 そう言ってアンドリューは手を離す。


「いや、目覚めてすぐに誰かが居たらびっくりするわよ」


 私もそう不可抗力だと言い返す。


「というか、あれ?」


 私は昨日のことを思い出す。

 確か屋敷を追放されて、アンドリューに会って、質屋で全部売っ払って、お金を半分あげて……


 パンを食べた後私はそのまま疲れて眠ってしまったのだ。


 起きあがろうとすると、昨日寝る時は無かったはずの布団の存在に気付く。


「あれ、布団かけてくれたの?」


「一応、お前がのたれ死んだら困るからな」


 そう言ってアンドリューは私の腕と脚のロープを外した。


「それとこれ食っとけ」


 そう言って私はりんごを渡される。


「あ、ありがとう」


 しかし、どうやって食べよう?


「あの、ナイフとかってないのかしら?」


 私がそう尋ねるとアンドリューは怒りながら答えた。


「何でお前にナイフ渡さないといけないんだよ!」


 そうアンドリューはりんごをそのまま齧りながら答えた。


「え?りんごって丸齧り出来るの?」


 私はその光景を不思議そうに見やる。


「は!?

……ああ、お嬢様だから知らねーのか。

つかりんごも切ってお上品にしか食べれねーとかマジで笑える」


 そうまた馬鹿にする様にアンドリューはそう言った。


 私はそれが少し癪だったので、私もアンドリューに倣ってりんごを齧ってみた。


「ん!汁がかかった!」


「ぶはは!

汁如きで驚いてやがる!」


 そうアンドリューは笑う。


 その顔が何だか楽しそうで、私もつい笑ってしまった。


「ふ、ふふっ」


 それを見てアンドリューはまたすぐ様不機嫌そうな顔をした。


「あ?何笑ってんだよ」


「だって、昨日から初めてのことばかりで楽しくて!」


 そう私はつい本音を言ってしまった。


 それを聞いておかしなものを見る目でアンドリューは質問してきた。


「お前、命が危ない状況なんだぞ?

いつ俺が裏切ってお前を殺すかも知らないのに楽しいって何だよ?」


 それに私は笑顔で答えた。

「確かにそうよね。でも私はあの屋敷を追い出されなかったら一生味わえないほどの体験をしてる今の方がよっぽど楽しいのよ。

りんごの食べ方だって違うしね」


 それを聞いてアンドリューはくしゃくしゃと自身の髪を掻いた。


「訳わからねー奴」


 そう呆れたような顔で私を見てくるが、私は特に気にせずりんごを齧った。

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