第6話

 男は少し考える。


 今感情的になってこの女を殺したところで、警察から一生追われる人生だ。


 ならこの宝石類を使って亡命する?


 しかし、この宝石だってブラウン家のものと分かれば、足がついてしまう。


 警察に情報が行ってしまったら終わりだ。


「それとも貴方は私如きを殺す復讐するために人生を棒に振るつもりかしら?」


 更にこの女は悩んでる俺に追い討ちをかけて来た。


「この宝石だって、私を殺した後だと使い辛いでしょ?」


 そう私はこれ見よがしにトランクを見せつける。


「あんた、そう口車に乗せて逃げる気じゃねーだろうな?」


 男は警戒しながらそう話してきた。


 その言い方はつまり今すぐ殺すのはやめたと言う事だろうか。


 私は顔に出さない様にホッとする。

 何とか首の皮一枚繋がった様だ。


「なら逃げ出さない様にロープででも縛っておけば?」


 そう私が提案すると、男は私の腕を強引に引いて薄暗い路地の方へ連れて行く。


 それから、私の腕を握りしめたまま、ごそごそと近くの物を探し始めた。


 そこから、少し太めの頑丈そうなロープを私の両腕に縛りつけた。


 恨みが篭っているせいか、結構きつくて痛い。


「言っとくけど俺はあんたを信用していない。

一応質屋には連れていくけど、変なことしたらすぐに殺すからな」


 そう冷ややかな声色で私の事を脅してくる。


「分かってるわよ。

逃げ出す気もないけどね」

 私はそう笑ってみせた。


 それから男はロープを引いて歩いていこうとして、男は立ち止まった。


 まあ考えてみれば当たり前といえば当たり前なのだが、流石にロープで両腕を縛った女性を連れ歩くという事に深く抵抗がある様だ。


 しかも私はこの街では似つかわしくない高価なドレスを着ている為、下手すれば誘拐と勘違いされるかもしれない。


「はぁ、仕方ない」


 そう男は渋々結んだロープを外し、私の腕を掴んだ。


 私はロープのせいで手首に血が巡らず白くなっていた。


 ずっと結ばれていた状態はまずかったかもしれない。


 男は相変わらず強く私の腕を掴む。


「絶対逃げるんじゃねーぞ!」


 そう睨みながら私に言いつける。


「だから逃げる気なんてないわ」


 そう言って私と男は質屋へと向かった。


「ねぇ」


 私は前をスタスタと歩いていく男に声をかける。


「もう少しゆっくり歩いてくれないかしら?」


 というのも、男は早歩きで歩いているが、私はそれに着いて行く為に小走りしている状態なのだ。

 腕を引っ張られる為、転ばない様必死である。


「ゆっくりうかうかしてたらあんたが逃げちまうかもしれねーだろ」


 そう男は振り向きもせず答える。


「ところで、貴方の名前は?」


 私はそう男に聞いた。


「あんたに名乗る程でもねーよ」


 そう男は私に言う。


「でも、いずれ私を殺すのでしょう?

なら名前くらい教えてくれないかしら?」


 それを聞いた男は、相変わらず前を向いたまま手短に答えた。


「アンドリューだ」

「そう、アンドリューさんね。」


 それからは特に会話らしい会話もなく、目的地の質屋に着いた。

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