第222話 彼女の心理

 翌日の午前中……


 今、俺の部屋で鈴音さんと話をしている。

 話の内容は昨夜。稀子が提案してくれた、稀子の地区への就農と移住の話だ。

 俺からの一通りの説明を終えた後は、鈴音さんからの質問タイムに入るが……


「ふぅ~~~」


 鈴音さんから出た最初の言葉は、深いため息で有った!?


「稀子さんが私達に内緒で、話を進めてしまいましたか……」

「あの人も……抑えが利かない人ですから!」


 如何にも嫌そうに言う鈴音さん。


「それで……鈴音さん。俺と一緒に農業をしてくれませんか?」

「稀子の言った条件に鈴音さんが、どうしても必要なんです!」


 俺は鈴音さんを説得する。


「……私がこれを断ると、私が悪者に成りそうですね」

「私も…、比叡さんの将来を私なりに考えていますから……」


 諦めた口調で言う鈴音さん。

 この感じなら、受け入れてくれそうな気がするが、どうして其処まで拒むのだろう?


「鈴音さん…。鈴音さんが農業を嫌がる理由は何故ですか?」

「もし……鈴音さんの理由が正当な理由で有るなら、俺はこの話を断ります!」


 俺は一か八かの賭に出た。

 鈴音さんの渋る理由は、農業が未経験だから嫌がって居るのだと感じるが、鈴音さんの本音はまだ聞いていない。

 鈴音さんが、病弱の話とは聞いて無いが……もしかしたら俺に隠して居る可能性が有る!

 もし、そうだとしたら、鈴音さんを農業に従事させない方が良いに決まっている。


「私が……嫌がる理由は特に有りません」

「稀子さんの地区なら安心出来ますし、お母さんの家に気軽に行ける様に成りますから、お母さんも却って喜ぶと思います…」


(前向きな話なのに……何故拒む!?)


「けど……比叡さん!!」

「私と比叡さんが、稀子さんの地区に行ってしまったら、お母様はどう成りますか?」

「お母様を九尾きゅうおに置いて、私達だけで戻ってしまって良いのでしょうか!!」


 鈴音さんは俺を見据えて言う。


(それが……稀子の案を嫌がっていた答えか)


 元々、山本(孝明)さんと鈴音さんは、結婚を前提にした付き合いに発展していたからこそ、真理江さんをと呼んでいた。

 その関係を……山本さんの暴走と俺が壊してしまったが、真理江さんと鈴音さんは縁故でも有るし、鈴音さんにも情が有るのだろう。

 それに、九尾に真理江さんを来させる事にしたのは、稀子が1枚絡んでは居るが、本来は俺と鈴音さんの隠れ先で有った。


(きっと、九尾で就農すると言えば、鈴音さんは賛成していただろう)

(そうで無ければ、職業訓練受講申し込み時に鈴音さんが反対するからだ)


「鈴音さんが……俺の就農を反対する理由は、真理江さんでしたか」


「私は、就農自体を反対していませんが、九尾以外での就農は反対です…」


「……鈴音さんの気持ちも理解出来るけど、今の農業法人では就農の道が無いし、この機会を逃すのも……」


「!」


 俺はその時、閃く!!


「あっ、そうだ!」

「真理江さんも来て貰おうよ。稀子の地区へ!!」

「そうすれば、真理江さんも鈴音さんと居られるから、問題は解決でしょう!!」


「はぁぁぁ~~~」


 俺がそう言うと、鈴音さんは嫌みかと言う程、深いため息をつく!?


「私と稀子さんは土地勘の有る地区ですが、お母様は当然知りませんし、当たり前ですが知り合いの方も居ません!!」

「そんな場所に、お母様が喜んで来ると思いますか!? 比叡さん!!」


 鈴音さんは怒りながら言う。

 どうして、其処まで真理江さんの事を思うの?

 鈴音さんには、実の母親が居るでしょう!!


「一度……真理江さんも含めて、この事を相談しようか。鈴音さん…」

「真理江さんの気持ちも知りたいし……」


 俺の中では、真理江さんを巻き込むしか手が無かったが……


「お母様が納得しても、九尾に1人にさせてしまうのは、私の中では納得出来ません…」


(そう、言われてもな…。俺は真理江さんとは将来、縁故関係に成る予定だが、離れ過ぎていて実感が無い)

(俺も真理江さんには本当にお世話に成ったが、真理江さんだって自分が望む人生が有る筈だ!)


「それでも、真理江さんにも聞いて貰いましょう」

「俺と鈴音さんの将来プランを!!」


「ふぅ…」

「……分かりました。比叡さんが其処までおっしゃるなら、お母様にも相談しましょう」


 俺の説得に、遂に折れた鈴音さんがそう言う。

 鈴音さんの気が変わらない内に、俺と鈴音さんは真理江さんの居る居間に向かい、真理江さんに事情を話す。

 勿論、鈴音さんが真理江さんを気遣っている部分も話す。


 ……


「私は反対しませんわ。いえ、大賛成です!」

「青柳さんと鈴音さんは、鈴音さんの大学卒業時期を目安に、稀子さんの町へ引っ越すのですね」

「先の話とは言え、おめでたい話ですわ―――」


 真理江さんは俺達を祝福してくれるが……


「お母様はそれで良いのですか!?」

「孝明さんと縁を切ってしまったお母様は、天涯孤独に成るのですよ!!」

「稀子さんもこの家を離れる感じですし、それで本当に良いのですか!!」


 真理江さんが俺達に祝福の言葉をまだ述べているのに、それをぶち壊す様に言う鈴音さん!?

 けど、真理江さんはそれに動じる事は無かった!!

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