第200話 経過報告

 時も過ぎて……職業訓練が始まる。

 本当にパンフレット通りに実習が中心で有り当然、陽が燦々さんさんと当たる屋外での作業で有る。


 だが、これは仕事では無く、あくまで訓練で有るから、休憩時間も十分に確保されているし、残業や休日出勤等も無い。

 職業訓練生と言う、学生に戻った気分でも有った。


 生活費に関しては、無事に職業訓練受講給付金が認可されたので、訓練中の生活費には困らないが……一般的な一人暮らしだったら絶対に足らない。

 俺の場合は真理江さんの家に居候しているから、お釣りが来るぐらいだが、そうでなければこんな事は出来ない……


 鈴音さんとの関係は、良好と言えば良いのだろうか?

 お互いが身体的に結ばれてからの鈴音さんは、稀子の様に何時も笑顔に戻って、優しく接してくれる。

 稀子も、俺と鈴音さんが体の関係を持った事を、鈴音さん経由で知ったが、稀子も今までと変わりなく接してくれる。本当に不思議な関係だ……


 凉子さんには職業訓練が決まった直後に、鈴音さんと波津音市はずねしに向かって、凉子さんに事情とそれによる了承を求めた。

 凉子さんから反対は殆ど無く『2人が支え合って生きて行きなさい』と言うだけで有った。

 2人の関係も正式に凉子さんから認められて、これで鈴音さんとは家庭を持てる関係に成るが……それはまだ先で有る。


 この職業訓練は、2月の中旬までの予定だが、この間に色々と覚える事が沢山有るだろう……

 独学で保育士を目指すより、こちら側(農業)の方が気楽では有るが、俺の本当の始まりは、職業訓練修了後の農業法人就職からで有る。

 俺は自分の将来と鈴音さんを想いながら……今日も職業訓練に向かう……


 ……

 …

 ・


 約6ヶ月と言う、訓練期間はあっという間に過ぎて、俺は無事に職業訓練を終える。

 その間にも、農業関連に必要な資格も色々取得して、俺は次のステップに向かう。

 次のステップは言うまでも無く、農業法人への就職で有る。


 訓練終了間際に既に面接は終えていて、無事に採用が決まっている。

 訓練修了後の翌日から勤務開始で有る。

 この時期はキャベツ等の秋冬野菜の収穫・出荷等が中心らしい……


 この訓練を修了したからと言って、特別な資格を保有する訳では無いが、農業の基礎を学ぶ事が出来た。

 この切っ掛けを提供してくれた真理江さんには、本当に感謝をしなければ成らない。

 訓練修了の余韻に浸る暇は無く、俺は翌日の初出勤の準備を始めた……


 ☆


 数ヶ月後……


 今の農業法人の仕事にも大分慣れてきて、貯蓄も少しずつだが貯まってきている。

 仕事はきついが……みんな良い人ばかりなので、俺は頑張れる。

 今のペースなら、あと半年位で自立が出来る位の貯蓄も貯まり、鈴音さんと同棲も可能かも知れない。鈴音さんも同棲には前向きで有る。


 今の通勤は自転車で通っている。

 いずれは自家用車が欲しい所だが、今の優先順位は自立で有る。

 今日も仕事で疲れた体を、真理江さんの家に向かって自転車を漕いでいると……


「すいません~~」


 道の歩道で誰かが、声を上げながら手を振っている?

 俺はこんな所でと感じる。無視する事も考えたが、この辺りは何も無い。

 俺は親切心で自転車を停めて、その人に声を掛ける……


「どうしましたか?」


「すいません~~」

「○×工務店と言う、企業を探しているのですが…」


 低音が響く、何処かで聞いた事有る声だが、俺は特に気にせずに話を聞く。

 仕事帰りで時刻はほぼ夜なので、声で男性なのは分かるが、結構背が高い人だなと感じる。この辺りは道路照明も少ない。

 だが……真冬の時期では無いのに、コートを着ていて少し不自然に感じる。


「○×工務店ですか…?」

「ごめんなさい…。少し分からないです」


「……そうですか。ありがとう」


 低い声でそう言って、男性は俺の横を通り過ぎていった……


(○×工務店何て……この辺で聞いた事無いな?)

(それに何も無い場所で、場所を聞いて来るのもなんか変だが……)


 さっきの男性は、UターンやIターンで新しく来た人だと思って、俺は再び自転車を漕いだ……

 この県は、UターンやIターンを積極的に行っているからだ。


 ……


(案の定……この町に居たか)

(僕が素直に…、君を許すと思っているのか……)


(苦労掛けさせやがって、お前だけは絶対に許さない……)

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