第23話 見付かるかな?

 俺の場合本来は、会社都合(事業者都合)による退職だから失業保険の給付手続きを行えば、短期間で失業保険が給付されるが、俺の場合は学童保育が法人化されていなくて、労働保険(労災・雇用保険)には加入されてなかった。

 公設・法人の学童保育に勤めていれば、こんな事は絶対に起きないと思うが、公設・法人の学童保育は原則、パート社員でも有資格者しか雇わない……


 身分はパートだったが、現実はアルバイト以下で有る。

 今の時代、アルバイトでも大手企業は労働保険に加入させるから複雑な気分だ。

 そのため、俺はハローワーク来所しても失業保険の手続きは出来ないし、求人登録は前職の時にしたが、もう有効期限が切れているはずだ。

 新たに求人登録すれば良いのだが数分では終わらず、ハローワーク経由の職探しより、民間求人サイト経由の方が気楽で有った。


 ハローワークの開所日は基本的に平日で、土日祝日、年末年始は閉所(休み)日で有る。

 ハローワーク内には求職を求める人が比較的居て、賑わって欲しくない場所で有る。

 俺が稀子とハローワーク内に入ると、男性達に一瞥いちべつされる。きっと、心の中では『カップルで来やがって……クソ野郎が』と思っているのだろう。


 受付に居る女性に俺は『検索をお願いします』と言うと、受付の女性はラミネートされた用紙を渡してくれる。

 そこには番号が書いて有って、その番号が振ってあるPCで求人検索を出来る。

 稀子と一緒に番号の振ってあるPCに向かい、その周りは丁度空席だったので、稀子と一緒に検索をしてもあまり迷惑に成らないみたいだ。

 俺が求人検索のためPCを操作し出すと、稀子が興奮しながら聞いてきた。


「比叡君はPC出来るの!?」

「凄いね!」


「そんなに難しいこと無いよ」

「テンプレート化されているから、必要な情報を入力していくだけ…」


 俺はそう言いながら、地域や職種、休暇などを、キーボードで入力して実演する。


「へぇ~、こうやってお仕事を探すんだ…」


「稀子ちゃんは働いた事有る?」


「私?」

「私は、山本さんのお店を時々、手伝う位かな…?」


「お手伝いも、給料が発生すれば働くと同じだね……で、入力が終わって、検索ボタンをクリックすると求人一覧が出てくる」


 求人情報がズラズラと画面に表示されるが、職種の欄を空白にしているため、色々な職種が画面に表示される。

 俺は稀子にハローワークの仕組みと、検索の仕方を説明しながら、一緒に求人を見る……


「世の中…、沢山の仕事が有るね~~。凄いね~~」

「あっ、比叡君。建築屋さんなんかどう?」


 稀子は目に付いた、桐印きりじるし建設を指で指し示す。

 俺は詳細ボタンをクリックして、詳細を見る。

 ……たしかに給料は悪くないし、未経験大歓迎とは書いて有るが……


「建設業も悪くないけど、基本的に日曜日しか休めないのだよね…」


「あっ、お休みは……沢山有った方が嬉しいもんね…」

「じゃあ、ここは? 新興国しんこうこく産業 泥沼どろぬま工場 」

「工場作業だけどお給料も良いし、お休みも沢山有るよ!」


「う~ん、休みは確かに有るけど…、交代勤務だから夜勤も有るのが……」

「それに泥沼地区は、車が無いと通勤には不便だし…」


「比叡君は、夜中には働きたくないの?」


「夜勤は体を壊すと良く言われているから、ちょっと……」


「う~ん、じゃあ、これもダメか…」


 その後、稀子とハローワークで求人検索を行ったが、俺には『ここだ!』と感じる企業が見つからず、無収穫のままハローワークを出る。


「結局、見つからなかったね。実は景気が悪いのかな……?」


 稀子は残念そうに呟く。


「まぁ、ハローワークだからね…」

「民間求人サイトの方が、良い条件が載っている場合も多いし」


「じゃあ、民間求人サイトで良い所は有ったの?」


「それが……景気が良いと言っている割りには、ハローワークと似たような求人しか無い」


「う~む」


 稀子は唸っている。

 俺としても全く無かった訳では無い。

 妥協をすれば、応募してみても良いかなと思う所は有った。


 しかし、応募をする気が起きなかった。

 やはりと言うか、まだ学童保育の未練が有るからだろうか……


 その後は、ハローワークの最寄り駅に有ったハンバーガーショップで昼食を取って、家に戻る俺と稀子だった……

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