旅と鉄路

深町珠

消え行く東北特急を追って (2000)

第1話   ~583系"はくつる"~

旅鉄 1




[消え行く東北特急を追って]



~583系"はくつる"~



上野駅、21時過ぎ。

頭上を高架線に覆われてあたかも地下鉄のような行き止まり式ホームに

ゆっくりとその重厚な車体を揺らせながら..."はくつる"は登場する。

往時のような雰囲気で。



映像はここをクリック



---「はくつる・ミニ史」-----


上野-青森間夜行特急として1964年に登場。

当時は客車寝台で、1968年(43・10)で583系寝台電車に置き換え。

後、1994年にふたたび客車化され、現在に至る。

需要の多い時期のみ、寝台電車583系による臨時列車として「はくつる81/82号」

を運転。

国鉄時代を思わせる列車として、鉄道ファンの人気を呼ぶが

2002年12月、整備新幹線法の定めるところにより東北本線盛岡-八戸間が分断、

それに伴いはくつる号は廃止の予定....


--------*------------






[583今昔]


上野はおいらの心の駅だ、と歌ったのは井沢八郎であるが

私事で恐縮だが私と同郷の青森県弘前市の出身である。

今は弘前市も様変わりしてすっかり都会になったが

心に浮かぶ風景は、岩木山と林檎畠という過日の情景だ。



その頃、奥羽本線を往来する列車は蒸気機関車は

D51であるとかC61などであった。

黒い煙を一杯に吐いて登る矢立峠のD51三重連..

協調運転の為に汽笛吹鳴をしていたので、激しいブラストと

汽笛が絶叫のように山々にこだましていたのを

つい昨日の事のように思い起こす。





弘前近傍の平野部では、のんびりを煙を流しながら愛らしい

汽笛を鳴らしていた客車列車が平川の鉄橋を渡る風景







黒石線をがたごとと走る火の粉止め付きの86...

上野駅から夜行に乗れば、今もそこにあるようなそんな錯覚さえ覚える程

鮮明な印象となって私の心に残っている。




特急「はつかり」が客車列車で走り始めたのは確か昭和36年ではなかったか

と思うが、東北本線もまた電化以前であり、蒸気機関車牽引であったはず...

はず、と書いたのは当時、庶民の懐具合では特急乗車などままならず

ほとんどの場合は普通列車、いわゆる鈍行客レで行くから私的な記憶に残っていない

という事情によるもので(笑)。

だから無煙化された「はつかり」キハ80系などにも無縁化で(笑)。

後に高度成長経済の恩恵を受けてようやく上野-青森を特急で行けるようになる頃には

「はつかり」「はくつる」は583系電車か20系三段寝台、という時代になっていた。

そのような記憶もあり、583系電車には特別に感慨が深い。

また、東北本線にも同様な想いだ。

だが、時代の変化の波を受けてその両方が、2002年12月、本来の役目を終える。

寂しい事だな、と思う。




蒸気機関車が消えた時もそう思ったが、去って行く者を惜別の思いで見る人たちが多いのは

やはり、私たちが限りある生命の持ち主であるからなのだろうか、と思う。

格別の扱いで古い車両、たとえばこの583系のような車両に人気が集まるのを

見ているとそう思ったりもする。

あの頃、昭和43年10月改正の頃は、物珍しくはあったがこれほどの注目を浴びる事

もなかったのであろうし。

ホームでフラッシュを浴びている車両を見ていると、そんな風に考えたりも、する。







青とクリーム色の塗装も当時そのまま、新幹線0系のようなツー・トーン。

昭和の時代、このスマートさは新時代の象徴のような印象を受けた。

東北本線が全線電化され、それまでディーゼル駆動列車が主であった路線に

都会的な電車が走り始め、まさに新しい時代の幕開けを思わせた。

そのイメージリーダーたる特急列車、「はつかり/はくつる」に

使用されたのがこの583系である。


その頃、上野駅にはこの583系が居並び、活気に満ちた往来は

その時代を象徴するものであったと記憶している。


しかし、鉄道需要の衰退、高速化の要求、などにより

夜行列車「はくつる」はその使命を新幹線に譲り、

消え去ろうとしている....


ホームの天井を突きそうに高い屋根のこの電車を見ていると

その堂々たる体躯から感じとれるイメージはそんな淋しさ、ではなく

どこまでも生き続けるエネルギーそのもののような

ダイナミズムである。

そう、まだ終わったわけではないのだ。



どこか、蒸気機関車が消え去ろうとしていた時代を思い出す。

あの時も、C61,C60,C62,D51....

東北の蒸気機関車たちは、最後まで勇壮であった....




もう2編成になってしまった583系"国鉄色"車両は

そんな時代の息吹きを伝える存在として、今なお健在である。


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