第3話 勇者、回復する
勇者が魔王城に来てから数週間。
傷は完治とまではいかないが、だいぶ回復してきた。魔界には治癒魔法もあるが、なぜか人間の勇者には効果がなく、医学的な治療と本人の回復力に頼っている状態である。
いつものように魔王が北の塔を訪れる。
「あ、魔王様。おはようございます」
朝食を終えたばかりの勇者が微笑んで挨拶をする。
「おはよう。よく眠れたか?」
「はい」
魔王がベッド脇の椅子に座る。いつものお話モードだ。
「朝食はちゃんと食べたか?」
「はい、残さず全部いただきました。今日も美味しかったです」
ニッコリ笑う勇者。
「だいぶ元気になったようだな」
「はい、最近はゆっくりですが部屋の中を歩けるようになりました」
魔王は勇者の頭を軽くなでる。
勇者は微笑みながら軽く目を閉じて魔王の大きな手の温かさを感じていた。
「さて、今日はこれから部屋を移動するのだが、その前にこれを」
勇者の左手の小指に細くて赤い指輪をはめる。
「これ、何ですか?」
「封印の指輪だ。我でなければはずせない。そなたの能力は記憶がないので今は使いこなせないであろう。なので万が一を考えてつけさせてもらう。仮に暴発すればそなたもまわりも傷つけてしまうおそれがあるからな」
「はい」
勇者がはめられた指輪をじっと眺めていると、細い指に合うように大きさが少し変化した。
「では参ろうか」
「え?」
魔王は勇者を横抱きで軽々と持ち上げた。
「我の居場所からここまで遠くてな。近くの部屋を用意させた」
抱きかかえられたまま北の塔の最上階の部屋を出る。
「あ、あの、自分で歩けますから、おろして下さいっ!」
ジタバタする勇者。
「階段はまだ無理であろう?おとなしく運ばれるがよい」
軽々と階段を下りていく。
「そなたは身体が軽すぎだな」
「そ、そうでしょうか?」
「もう少し食べた方がよかろう。好き嫌いはあるかの?」
「・・・わかりません」
首を横に振る勇者。記憶がないので好き嫌いも覚えてはいない。
「ああ、そうであったな。まずはいろいろ食べて好きなものや嫌いなものを探ってみるとよい」
階段を降りきって北の塔を出る。
「さて、ここから転移するぞ。目を閉じてしっかりつかまっていろ」
勇者が目を閉じてギュッとしがみつくと魔王は魔法を使って執務室へと転移した。
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