第3話
鷹志と幸子の直接の馴れ初めを、僕は知らない。教えてくれればそれでもいいが、あえて黙していることから察するに、僕もそれに習う。幸子の美容院の専門学校は、カットは勿論行うが、経営も学べるので果たして生ぬるい大学と専門学校ではどちらがいいか正直判らない。昼のある日のことである。本を買いに新宿新南口の紀伊国屋に行った時、偶然幸子を見かけた。5〜6人の女子が雑誌を選んでいる中、幸子は所在なさげに一番後ろを歩っていた。小説を買うので同じフロアに向かう僕とちょうどすれ違う時、僕に向けて困ったような笑顔をして消えた。後日、鷹志と幸子の3人で家飲みした時、むこうから紀伊国屋ですれ違ったことに触れた。一人でいることに軽くいびられ、目的の本がなく本店に脚を伸ばすことになった他愛のない話だ。鷹志がトイレに立って暫くしたのち、幸子が真顔で「ごめん」と呟いた。それが果たしてどういう内容だったのか、聞けないままだった。
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