茫洋の日

おやすみ一郎

第1話

冬の朝、朝陽がまだ昇りきらない寒い時。長い階段を登り神社に行くときに、鳥居に吊るされた首吊り自殺を目撃した。中学の時である。それは30歳未満の女性だった。長く垂らした舌よりも、首がありえないほど長く伸びた姿よりも、不思議と長い髪が綺麗だと感じた。そうして、さんさんと朝陽が昇ってくる。僕は後ろを振り向き、街を見下ろした。まだ人通りさえない街路に、今日もやっぱり朝がやってくる。鳥居には死体がぶら下がっている、一方で街は明けかけている。高揚はしていたのかもしれない。でも、なにより生と死が薄ぼんやりとつながっているこの狭間の世界がなんだか高潔であるとさえ思えた。大学生になって、友達が出来たときに、その時の話をした。遺書があったこと、警察に通報して事情を聞かれたこと、実はそれほど緊張も興奮もしていなかったこと。だが、それよりも友達が云ったのが印象的だった。「その人は夜がどんなふうに見えていたのかな」

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