第44話 だめかも

 大学が夏休みで、ボクには時間がある。

 小説を書こうと試みるが、アイデアがない。ノートパソコンの前で無為に時間が流れる。読書をしていた方がよかったと後悔する。

 作家志望などとは大それた望みなのだろうか。

 新人文学賞には数百から数千の応募作があり、受賞するのは、基本的にはその中の1作だ。

 いくつもある小説投稿サイトには、何十万の作品があるのか把握できないほど。これらのサイトに投稿している多くの人が作家になりたいと望んでいることだろう。

 もし運と実力があって小説家デビューできたとしても、作家であり続けるのは困難だという文章を読んだことがある。

 デビューする作家がいれば、消えていく作家がいる。

 趣味で小説を書くなら楽しいだろうが、職業として小説を書くのは、よほどの才能がなければ苦痛を伴うのではないかと想像する。

 アマチュアで創作するのに苦労しているボクには、作家になるのは不可能ではないか?

 青春を無駄使いしているんじゃないの。

 ときどき文章があふれ出して止まらなくなるときがある。そんなときは書いていて楽しい。

 今のように1文字も書けないときもある。

 苦しい。

 それでも毎日継続して書く訓練が必要だ。

 作家になれば日常的に書かなくてはならない。ネタに詰まればおしまいだ。

 ボクには書きたい衝動はあるが、書きたい具体的なネタがあるわけではない。伝えたいメッセージがあるわけでもない。

 作家志望なんてやめたら楽になるんじゃない?

 ボクは中二のときに作家を志望した。

 今は大学一年生。まだ夢を見ていられる歳だと思うが、将来を現実的に考えてもいい年頃でもある。

 ボクの母は図書館司書だ。

 ボクも司書課程を取り、めざそうかとも考えている。小説家になるよりだいぶ現実的だ。

 母は地方公務員だが、今は非正規雇用の司書が増加していて、多数になりつつあるらしい。

 他の業種も同じようなものだ。司書をめざすのはよい目標だと思う。

 就職し、小説を書きながら、いいものが書けたら新人賞に応募する。

 それが現実的ってものなのかな。

 今日は書けないから憂鬱だ。

 小説を書くのをやめようかとか思う。

 きっぱりと一生書かない。もっと別の有意義なことに時間を、人生を使う。

 自分の小説をゴミだと言った綾乃はどう考えているのだろう。

 今度旅行に行ったときに訊いてみようかな。

 あの小説のことを話すのは傷口に触れるようなものだから、やめておいた方がいいか。

 作家志望を続けるかやめるか。

 きっと今日は結論は出せない。

 ネットで綾乃との旅行について調べる。関東近辺で美味しいものが食べられるというのが彼女の希望。ボクは温泉に入れて自然が美しいところを希望。

 那須湯本温泉に狙いをつけている。

 関東だし、標高が高くて涼しいらしくて、夏でものぼせないで温泉を楽しめる。ちとお値段は張るが、美味な懐石料理を出してくれるホテルがあるようだ。ロープウェイで山頂付近まで行ける茶臼岳で自然を楽しむ。

 綾乃に提案してみようと思っている。

 ああ、小説書くより、旅行の計画を立てる方が楽しい。

 ボクはだめかも。

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