第34話 クランクイン
SF研のメンバー全員で土岐さんの住むマンションに来た。京浜東北線の駅にほど近いタワーマンション。土岐さん一家はなかなかのお金持ちのようだ。
エレベーターで17階へ。
「自分、一人っ子なんで。両親は共働きで、今は誰もいないから、気楽にしていいですよぉ」
「ご両親に撮影のことは話してくれているんだよな」
「はい、もちろん。個人情報が漏れないよう注意してくれって言われてます」
「愛詩がいろんな家事をするシーンを撮影したい。撮影したらだめな部屋を教えてくれ」
「親の寝室ですね。あとはまぁいいですよ」
「ありがとう。個人が特定されそうなものは撮らないよう注意する」
土岐さんの部屋に入った。
「思ったより片付いているな。綺麗じゃないか」
「昨日だいぶ整理しました。押し入れの中にはヤバいものが大量に入っているんで、見ないでほしいです」
「エロいやつか」
「それもありますが、抱き枕とかフィギュアとかオタク関係のもの。その他、普通人には理解できないブツもあります。押し入れを開けないことが撮影許可の条件です」
「わかった。絶対に見ない。みんなも土岐の人権に配慮しろ」
「頼みますよ。社会的に死ぬやつもあるんで」
社会的に死ぬ!?
いったい何があるんだろう? まったく想像できない。
ボクはあぜんとしたが、男たちはそれほど驚いてはいなかった。そういうものがあっても不思議はないと納得している感じだ。男の人っていったい?
「愛詩に着替えてもらわないと始まらない」
「ここで着替えてよぉ。自分たちはリビングで待ってるから。済んだら呼んで」
ついにへそ出しゴスロリを披露するときが来てしまった。昨日は綾乃、兄さん、姉さん、川島さんにいろいろとイジられ騒がれたあの格好。正直かなり恥ずかしい。
くっ、ここまで来てひるむな。恥ずかしがったら、もっと恥ずかしい。自主制作映画とは言え、ボクは主演女優なんだ。見せつけてやるぐらいの気持ちが必要だ。
ボクは着替え、みんなを呼んだ。
男たちが期待に満ちた顔で入ってきた。やっぱり恥ずかしいよ!
「愛詩、エロいよぉ。へそ出しゴスロリの威力凄い。水着よりエロ」
「か、かわいいじゃないか、愛詩。絶対領域来た」
「輝ちゃん、腰細い。肌綺麗」
「これほどとは・・・」
買い物のときに一度見ている会長は無言。でもガン見してる!
「エロい目で見ないでください! 退会しますよ!」
「みんな、愛詩のことはアートだと思え! 芸術的な美を持つアンドロイド。エロくない!」
「それかえって萌えますぅ」
嫌だ、この主演男優!
「撮影開始だ。冒頭のシーンから行くぞ。愛詩は目を瞑ってベッドに横たわっている。土岐はパソコンを使ってアンドロイドを起動させる。やがて愛詩がゆっくりと目を開け、立ち上がる。セリフは失敗してもいいぞ。後で直せる。演技に集中してくれ」
ボクは土岐さんのベッドに横たわった。会長がカメラをボクに向け、尾瀬さんがカチンコを持ってその前に立った。みんながボクを凝視している。
「愛詩、落ち着け。顔が赤いぞ」
「やっぱり恥ずかしいです。へそ出しはやめませんか?」
「だめだ。今のおまえは最高に美しい。撮影させろ」
「っ!」
好きな人から美しいって言われた! うわー!
「会長、愛詩の顔、ますます赤くなりましたよ」
「愛詩、おれはマジで最高の短編映画を撮るつもりだ。この映画の出来はおまえの演技しだいだ。まったく感情のないアンドロイドを演じてくれ。頬が赤いなど論外。無表情になれ」
ボクは深呼吸をした。
「よし」と会長が言った。
尾瀬さんがカチンコを鳴らした。
撮影が始まった。
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