第75話 ルアー行列

 釣りの話です。

 もう10年以上前のことですが、メガバスというルアーメーカーのルアーが希少品で、売り出し日には釣具店の前に行列ができたものでした。

 私はとあるルアー専門店に通っていたのですが、ふだんはメガバスルアーはひとつも棚にありません。売っていないのです。

 しかし釣り友達は、その店で手に入れたという希少ルアーを私に見せて自慢するのです。いいだろう、これ。よく釣れるし、転売したら、高値で売れるんだぜ。

 くう……。羨ましくて堪りません。

 やがて、月に一度、売り出し日があるのだとこっそり教えてくれました。

 日にちは一定していません。

 友達は釣具店に毎月数回電話して、いつ入荷するか情報を得ていたのです。

 売り出し時刻はいつも午後6時。仕事を終えて向かっても間に合いません。すぐに売り切れてしまうのです。

 友達は有給休暇を取得して購入していたのでした。なんでそんなに休めるんだよ!!

 私の分も買ってくれよと頼みましたが、おひとり様一点限りなので、だめでした。

 私もごくたまに休みを取って、買うようになりました。

 午後6時には相当長い行列ができていて、近所迷惑なほどでした。

 メガバスルアーでも希少中の希少ルアーがあって、そういうお宝は、かなり早めに並ばなければ手に入りません。

 友達は午前0時から並んでいました。そこまでするのかよ。私にはそんな根性や執念はありませんでした。

 私は数年間かけて、ほどほどに希少なメガバスルアーを数個購入しました。

 貴重なので、買っても釣りには使いません。釣り場でロストする怖れがあるからです。絶対になくしたくありませんでした。

 眺めて楽しむだけの釣り具でした。小魚の形をしたカラフルなルアー。ものすごく美しく見えたものです。

 いまではとうにメガバスルアーバブルははじけ、いつでも定価で簡単に買えるようになっています。そうなるともう、特別に欲しくはありません。

 よいルアーなので、ふつうに買って使っています。

 当時苦労して購入したメガバスルアーは、思い出の品として保管してありますが、いま見ても当時の輝きはもう感じられません。

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