夜明けと呼び出し
「キャンッ⁉︎ キャン! キャン!」
耳元で犬…ではなく、ルルの鳴き声が聞こえて来た。
「うううううぅぅぅぅ…………」
耳元でそんなに騒がれると、嫌でも目が覚める。
「……もうちょっとだけ寝かせて」
カイリはそう言うとルルを抱き締めて丸まった。
「クゥン⁉︎ キャンッ‼︎ キャンッ‼︎」
「起きなきゃダメだよ」みたいなことを言ってるけど眠いんだよなぁ〜。……てか今何時なんだよ。
「〜〜〜♪」
「……え? 外を見て欲しい?」
身体を起こして窓の外に顔を見つめると日の出が見えた。
「綺麗な日の出……って、夜明けに起こされたんかい!」
夜明けって確か時間的に5時ぐらいだった筈……だよな?
「ルル……朝ごはん出来てないでしょ」
こんな時間に出来てるのなら、女将さんは一体何時から起きてるんだよ。って話になる。
「キャンッ⁉︎」
「え? …出来てる。……それ本当?」
プルンッ⁉︎
プル太郎も「うん」と返事するように身体を震わせている。
「ちょ…朝食が出来てるのなら食べに行こうかぁ〜」
半信半疑のまま着替えてルル達共に1階の食堂へと向かう。
「おはよう…ございます」
「おはようカイリ! アンタのんびりしているねぇ〜……それでも冒険者なのかい?」
「一応冒険者なんだけど……こんなに朝早いもんなの?」
家族旅行に行くときぐらいしか、こんな早い時間に起きたことないぞ。
そんなことを思っていると、シェリーさんは驚いた様子で話し掛けて来る。
「カイリ…アンタ冒険者が朝早く起きる理由わかってる? 」
「あ…いや……知りません」
「クエストボードに掲げられてる依頼表は取ったもの勝ちなの。それに仕事で遠出するヤツもいるからね」
「ああ〜……」
だからここにいる人達は朝食をガツガツ食ってるのかぁ〜。
「……あっ⁉︎ でも俺が見た時は結構依頼があった気がするけど」
「そんなの余りものよ。それかピーク時を過ぎた時にまた貼られた依頼よ。まぁそれは朝貼られたヤツよりはいいとは言えない依頼が多いけど」
「あ…そうなんだ」
「そんなことよりも! はい、これをさっさと食べな!」
シェリーはそう言うと、イスに座っている席にカイリの前に全員分の朝食を出した。
「ありがとうございます! みんな食べようか」
「キャンッ⁉︎」
プルンッ⁉︎
「〜〜〜♪」
ルル達もシェリーさんにお礼を言ってから、食事を食べ始めた。
「アンタのところは賑やかだね、全く」
シェリーは嬉しそうな感じに言うと皿を洗い始めた。
「頂きまぁす!」
カイリはそう言うと目の前に出された食事を食べ始める。
うん。冒険者向けに作られている料理だからボリュームがあるけど、油っぽくないから気分が悪くならない。
「……もしかしてこれ。人によって量を調整しているのか?」
「ん? 気付いたのか?」
「うわぁっ⁉︎ ユーダさん‼︎」
「話し掛けられたぐらいで、何をビックリしているんだ」
「真後ろから話し掛けられたら、誰だってビックリしますよ!」
それか一声掛けてから話をして貰いたいもんだよ。
「悪かった。シェリー、皿洗いは俺がやる」
「ありがとう、ユーダ」
シェリーさんはそう言うと俺の元にやって来た。
「日頃から飯を提供してね。飯を残すヤツがチラホラいるんだよ。それでそいつらに理由を尋ねてみたら、多過ぎて食べきれない。って言うんだよ。
残してこっちに持って来られるのも困るから、その人の体格を見て量を調節するようにしたのさ」
「ああ〜……そうなんだ」
「おかわりは無料だから、足りないと思ったら言いな」
シェリーさんはそ言うとキッチンの方へと向かった。
シェリーさんも朝から大変だなぁ……。
そう思いながら朝食を済ませて席を立った。
「ご馳走さまです!」
「はいよ! あっ⁉︎ そうだカイリ!」
「…ん?」
「たまに変な冒険者もいるから気を付けるようにね!」
「分かった! 気を付けます!」
まぁそんなヤツは早々いる訳ない。ラノベの話だよ、ラノベの!
そんなことを思いながら宿を出て冒険者ギルドへと向かう。
「さてと、今日はどんな依頼を受けようかなぁ?」
「〜〜〜♪」
「キャンッ⁉︎」
「討伐依頼!」と言いたそうにしているファニーちゃんとルルがカイリに近付いた。
「まぁ討伐依頼の方が経験値を稼げるから、俺もそっち方面で考えてたよ」
プルンッ⁉︎
プル太郎が「まだFランク」と言いたそうに頭の上で震えた。
「そうなんだよなぁ……。Fランクだから経験値が中々集まらないのがネックだよなぁ〜」
もう少し頑張って依頼をこなしてランクをEに上げるべきだろうか?
何てことを考えていたら、冒険者ギルドに着いてしまった。
「どうのこうの言って現状を考えてたら疲れるだけだから、出来る依頼をこなしていこうか」
無理して依頼失敗しましたぁ! ゴメンなさい! …じゃ元もこうもないしな。
「キャンッ⁉︎」
プルンッ⁉︎
「〜〜〜♪」
ルル達も「そうだね!」と言いたそうに返事を聞いた後、冒険者ギルドの中へ入って行く。
「……あれ?」
俺よりも先に出て行った人達が、依頼を探しているのかなぁ? と思っていたカイリだったのだが、予想とは裏腹に人が少なく肝心のクエストボードの前には数人がいるだけであった。
「ピークって言うから、賑わっているって思っていたけど……」
「キュ〜ン……」
「いないねぇ〜……」と言いたそうに鳴くルルの身体を撫でてあげる。
「あらカイリちゃぁん! 冒険者ギルドに来たのねぇ♡」
むっ⁉︎ このねっとりとおかま口調な声は、もしかして……。
「お、おはようございます……アンリーさん」
そう……変態ギルドマスターのアンリーがカイリの下へ身体をくねらせながら、やって来たのだ。
「カイリちゃぁん。昨日のことは聞いているわよぉ〜。……大丈夫? 何処かお肌に傷が付いてないかしらぁ♡」
「サ…サニーさん達がフォローしてくれたおかげで無傷だった」
「そうなの! 流石実力者ねぇ〜♡ ……ところで、その子がカイリちゃぁんの新しいお友達なのぉ♡」
「あ、はい! 彼女はファニーって言います。…ファニー、この人はここのギルドマスター。アンリーさん」
ファニーちゃんはアンリーさんの近くまで飛んで行くと、お辞儀をした。
「まぁ⁉︎ 何ていい子なのかしらぁ〜!……それで、その子について話をしたいのだけど、ちょっといいかしらぁ〜♡」
「大丈夫ですよ! 俺もファニーちゃんの件で話をしたかったんで!」
「よかったわぁ〜! それじゃあお部屋でお話しをするからぁ〜、アタシに付いて来てねぇ〜♡」
「は…はい。行こう、みんな」
「キャンッ⁉︎」
プルンッ⁉︎
「〜〜〜♪」
俺と違ってみんなテンション高いね! もしかしてアンリーさんのことを気に入ってるのか?
そんなことを思いつつ、アンリーの後を追うようにして応接室へと向かい、部屋の中へと入って行った。
「さぁ、遠慮せずにソファーに座ってちょうだぁ〜い! 紅茶にお砂糖入れる♡」
「1つだけで十分です」
「分かったわぁ〜。ちょっと待っててねぇ〜♡」
アンリーさんはそう返事をすると、手際よく紅茶を淹れてくれた。そして紅茶を淹れたカップをテーブルに置くと、自身もカイリと反対側のソファーに座った。
「それで…さっきも話したけど、フェアリーのファニーちゃんに付いての話をなんだけれどもぉ〜……」
アンリーさんが話している最中に、扉をコンコンッと叩く音が聴こえて来た。
「はぁ〜い♡」
「ギルド長、アンジーです。入ってもよろしいでしょうか?」
「大丈夫よぉ〜♡」
アンリーさんがそう言うとアンジーさんが部屋に入って来た。
「失礼致します。先ほど話していた書類をまとめて持って来ました」
「あらありがとぉ〜。グットタイミングだわぁ〜♡」
アンリーさんは嬉しそうにそう言うと書類を受け取り、真剣な眼差しで読み始めた。そしてその真面目に書類を見るアンリーの姿を見たカイリは驚いていたのであった。
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