ルルはボール遊びの楽しさを知りました。

門番と別れてからはルルを抱っこしながら歩き、広場へとやって来た。


ルルの散歩なのに、何で抱っこしてここまで来なきゃ行けないんだよ!


そんなことを思いながら、抱っこしているルルを下ろして噴水の脇に座る。


「ハァ〜……疲れたぁ」


流石にルルをここまで抱っこして来るのは疲れるわぁ〜。


「キュゥン、キュゥン……」


ルルも心配そうに見つめるけど、俺が疲れている原因はお前なんだからなぁ!


そんなことを思いながら、アイテムボックスからスライムボールを取り出す。


「ルル、これで遊ぼうか」


俺がそう言うと、ルルがとても嬉しそうな表情をさせて飛び跳ね回る。


「キャン! キャン!」


しかも「早く投げて!」と言いたそうに吠えてる。


そこまで元気だったんなら、歩いてくれたってよかったんじゃないか?


「まぁまだ子供なんだから仕方ないか。取って来ぉ〜い!」



その掛け声と共にスライムボールを投げると、ルルははしゃぎながら追い掛ける。俺はその姿をほっこりした表情で見つめる。


ペットが飼えなかった前世での夢が、1つ叶ったなぁ。


スライムボールを噛んだりして遊んでいるルルが何かに気が付き、スライムボールを咥えたまま俺の元にやって来た。


キラキラした目で俺の顔を見つめるので、やって欲しいことを察した。


「ルル、それ渡して」


そう言って手を差し伸べたら、ルルはポトッと手のひらにスライムボールを置いた。


「キャンッ!」


やっぱり、そうだよなぁ〜。


「そら、もう一回取って来ぉ〜い!」


さっきと同じように投げたら、ルルは嬉しそうにスライムボールを追い掛ける。


「ホント、無邪気だなぁ〜。ルルは」


俺がそう言ったら、放置していたプル太郎が膝の上に乗って来た。


「どうした、プル太郎?」


俺の胴体に身体を擦り付けている姿を見て、何をして欲しいのか察し付いた。


「お前も遊んで欲しいのかぁ〜」


そう言ったら、プル太郎は「そうそう!」と言いたそうに膝の上で飛び跳ねる。


「この甘えん坊めぇ〜!」


そう言いながらプル太郎の身体を撫でてあげると、嬉しそうに身体をくねらせる。


この姿、可愛らしいぃぃぃ〜〜〜〜〜〜っ!⁉︎


「キュゥ〜ン……」


「……あっ!」


そういえばルルとも遊んであげないとな。


「また投げてあげるから、ボールを渡してくれ」


ルルがスライムボールを渡したその時だった。


「あら? カイリさんではないですかぁ。こんにちわぁ!」


「あ、ミレイさん。こんにちわ!」


ミレイさんがメイドのサシャさんと共に俺の側にやって来る。


「もしかして、ルルちゃんと遊んでいらしたのですか?」


「はい。この子はまだ遊び盛りなので、相手してあげてるんです」


「キャンッ!」


ルルもスライムボールを置いて2人に挨拶をする。


「ルルちゃん、こんにちわ。抱っこしてもいいかしら?」


「ルルがイヤじゃなければ、抱っこしても構いませんよ」


「キャンッ!」


ルルも「ミレイだったらいいよ!」みたいな返事をしているしな。


「それじゃあ、お言葉に甘えて」


ミレイさんはそう言うと、ルルを抱っこして俺の隣に座った。


「ん? そのスライムってもしかして、カイリさんの新しい従魔ですか?」


「はい、名前はプル太郎と言います」


俺がそう言うと、プル太郎は身体をプルンッと揺らしてミレイさん達に挨拶をした。


「よろしくね。プル太郎ちゃん」


ミレイさんはプル太郎に挨拶をしてくれるのだが、ミレイさんの隣で立っているサシャさんが俺のことを微妙そうな目で見つめて来る。


門番達と同じ様な目で見つめて来る……うん、気にしないでいよう!


「そうだ! 聞いて下さいよミレイさん! さっき門番のところに仮通行証を返しに行ったら、凄いことがあったんですよ!」


「凄いこと?」


「うん。ジルド帝国の方へ買い付けに行っていた商人達が、帝国に偽造大銀貨を掴まされたみたいなんですよ」


「あらまぁ〜、そうなのぉ〜」


「はい。なのでバルグさんにジルド帝国に行く時に、偽造通貨に気を付けるように言って下さいね」


「……そうするわ。教えてくれてありがとう、カイリさん」


ん? 何だろう。ミレイさんが平然を装って考えているような気がする。


「やはり、あの噂は本当だったのでしょうか?」


「あの噂? サシャさん。どんな噂か教えてくれますか?」


「はい。カイリ様には余り関係の無い話なのですが、ジルド帝国の第一王子が、婚約者と婚約破棄をしたようです」


「ふ〜ん……ん? それと偽造大銀貨の件は別問題じゃないんですか?」


「そう思いますよね? けれど別問題ではございません」


別問題じゃないのか?


「それって、どういうことですか?」


「王子の現婚約者……と言うよりも浮気相手は伯爵の爵位の方なのですが、帝国内でも余りいい噂を聞かないのです。貴族の中でも真っ当な方達は不審に思っておられるのではないでしょうか」


「ああ〜……つまり、評判の悪い貴族と王子が、帝王の決めた婚約者を無視して婚約しちゃったってこと」


サシャさんは、何とも言えないという表情で頷いた。


「しかも婚約破棄する時に、冤罪を掛けようとしていたとか何とか……」


ストーリーでよくある悪令嬢の断罪シーンみたいな感じかぁ……でも待てよ。


「そんなことをしたら、帝王と相手の貴族が黙っていないと思いますが?」


「それが、不思議なことに王子が婚約破棄した後日に体調を崩されたそうなのよ」


「そして婚約破棄を言い渡された貴族の方は、王子が勝手に処罰をしてしまったらしいのです」


「ええ〜……」


そんなことってある?


「キュゥ〜ン……」


話を聞いていたルルも、俺と同じように驚いていた。


「肝心の元婚約者なのですが、行方不明状態だそうです」


「そう、なんですかぁ……」


その貴族が可哀想に思える。


「断定は出来ませんが、その婚約者と伯爵家が帝国内で好き勝手やっている可能性があると思います」


「そうねぇ〜……旦那様には帝国に行かないように話しましょうかぁ。それと、ジルド帝国が今後どうなっていくのか、逐一気にしていかないとダメねぇ。

場合によっては帝国での買い付けを諦めるしかぁ……」


おう! ここで商人らしいことを言うのかい。


「キュゥ〜ン……」


「あっ⁉︎ ゴメンなさいルルちゃん。つまらないお話だったでしょう」


ミレイさんはそう言うと、ルルの身体を優しく撫でてあげる。


しかし、ジルド帝国って国がそんなことになっているとは……入国したら面倒なことになりそうな予感がするから、行かないようにしよう。


「…。さて、余り体調がよくないので、早めに帰りましょうか」


余り体調が優れない?


「何処か身体が悪いんですか?」


「ええ、カイリさんのポーションを使って様子をみたのだけれども、効き目がなかったの」


「あ、そのぉ〜……ただのポーションなんで、そこまで効き目はないと思いますよ」


何せHPの最大表記の30%しか回復しないものだからな。しかし、その体調不良の原因は気になるなぁ〜……ちょっと鑑定目で見てみようか。


そう思い鑑定目でミレイさんを見てみたら、とんでもない事実が発覚してしまったので、驚いた表情になってしまう。


「カ、カイリさん。そんなに驚いてどうしたの?」


「あの、ミレイさん……もしかして、ご自身の体調不良の原因、お気付きになられてないのですか?」


「原因? ……もしかしてカイリさん、私のステータスを見ているのですか?」


「あ……はい。そのお陰でミレイさんの原因が判明しました。原因はぁ…………妊娠です」


俺がそう言った瞬間、2人が氷付いたように固まってしまった。


「…………カイリ様、今何と仰いましたか?」


「だからそのぉ〜…… ……ミレイさんはお腹に子供を宿しているんです!」


「ほ……本当に?」


「本当です」


俺がそう言った瞬間、ミレイさんとサシャさんはその場に崩れてしまい、大声で泣き叫び出したのだった。


どうしよう、この状況。

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