第70話 中学生小説 ダブルタイムマシン

 日本に天才がふたりいた。

 松島未来と西岡来世である。どちらも無名の一市民だ。

 しかし天才であることにまちがいはない。ふたりはタイムマシンを発明したのだ。

 2021年12月31日のことであった。

 ふたりはほぼ同時にタイムマシンを完成させた。それはとても似た形をしていて、防護カプセルの中にあった。操縦者が座る椅子と操縦装置、エンジンなどが組み合わされている。 

「やれやれ、5年もこつこつと作ってきてやっと完成した。さて、どこへ行こうか。時間も場所も思いのまま。よし、100年後の富士山頂に行くとしよう」と松島は自宅の居間でタイムマシンを眺めながら言った。

「ふう。3年もがむしゃらに作りつづけて、やっと完成した。さて、どこに行こうかな。場所も時間も自由だ。うむ、100年後の富士山頂に行くことにするか」と西岡はマンションの自室で防護カプセルを磨きながらつぶやいた。

 2022年1月1日正午、ふたりは同時にタイムマシンを起動させ、100年後の富士山頂へ向かった。

 ふたりは100年間という長い時間を移動している。メーターは2023、2024、2025と変わっていく。……2050……2075……2100……。

 メーターが2121になっととき、松島は自分と同じように時間を移動している者がいることに気づいた。西岡も気づいた。ふたりは異次元空間でお互いを視認した。

「あなたもタイムマシンを発明したのですか?」と松島は言い、

「あなたもですか?」と西岡は言った。

「私は2122年の富士山頂に行こうとしています」

「私もです」

 メーターが2122になったとき、ふたつのタイムマシンは停止し、通常空間に戻った。そこは100年後の富士山頂だった。

 そのとき異変が起こった。

 富士山が山鳴りを起こし、タイムマシンが勝手に時間移動を始めたのだ。

 タイムマシンの移動速度は速かった。メーターがすさまじいスピードで変わっていく。……2190……2361……2911……3200……4091……。

「なんだ、どうしたというんだ。西岡さん、わかりますか?」

「はっきりとはわかりませんが、仮説ならあります」

「お聞かせください」

「ふたつのタイムマシンが同時に同じ場所に止まったために、巨大なエネルギーが発生してしまったんです。だからタイムマシンが暴走した」

「ありそうなことですね」

「とにかくタイムマシンを止めましょう。今度は場所を少しずらして、時間軸は5000年で揃えましょう」

「わかりました」

 ふたりはタイムマシンを操縦し、話し合って位置を少しずらし、5000年の富士山頂付近で停止させた。

 タイムマシンは止まったが、そこには富士山はなかった。たくさんの岩塊が浮いているだけの真っ暗な空間だった。

「ここは……宇宙空間じゃないか! 防護カプセルがなかったら、すぐに死んでしまう!」

「どうして宇宙空間に出てきてしまったのでしょう?」

「ここは、かつて富士山があったところなのではないでしょうか。おそらく、なんらかの原因で地球は破壊され、無数の岩塊になってしまったのでしょう。この時間軸では、地球は存在していないのです」

「なんてことだ。小惑星でも衝突したのでしょうか」

「いや、ふたつのタイムマシンの同時同場所存在で発生したエネルギーが、地球を爆発させたのではないかと推測します」

「つまり私たちが地球を爆破したと?」

「おそらく」

 松島と西岡は沈黙した。

 しかしそのまま宇宙を漂っているわけにはいかなかった。

 防護カプセルの中の空気がなくなったら、窒息死してしまう。

「私は2022年に帰ります」

「私もそうします」

 ふたりは元いた場所、時間に戻った。

 彼らだけが2122年に地球もろとも人類が滅亡することを知っている。

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