第16話 乙女の秘密

身支度を整え、ハルベルト殿下と一緒に公爵家の馬車に乗り込み王城へと向かいました。

 もしかしたら気まずい雰囲気になるかもと思いましたがハルベルト殿下がいつも通りの笑顔で私に声をかけてくださったのでホッとしましたわ。

 そして到着するまでの間に先ほど途中になってしまった報告書を読ませて頂きました。事務的な話をする私たちの事を見ながら一緒に馬車に乗っているハルベルト殿下の付き人の方がなんだか複雑な顔をなさってたのですが、アンナが咳払いをした途端いつもの顔に戻りました。なんだったのかしら?あ、もうすぐ着きますね。














「せぇぇれぇぇぇぇねぇぇぇぇぇぇ――――!!」


 王城に到着し、陛下と謁見するための部屋へと案内されていた矢先。廊下の向こう側からものすごいスピードで走りながら私の名前を叫んでいる物体が視界の端にうつります。


「……あれは!」


 プラチナブロンドの髪を靡かせながら私に向かって突進してくるオスカー殿下でした。自室で謹慎していると聞きましたのに、なぜこんなところにいるのでしょう?

 なんにせよ、あれはだいぶヤバイですわね。オスカー殿下はたまに興奮状態になると猛獣であるシシイーノのように脇目もふらずに突進してきて手がつけられなくなるのです。いつもならルドルフが威嚇したりぱくっと捕まえてくれるのですが、ここは室内ですし今日はもしものためにと公爵家に留守番させているのでここにいないのてすわ。


「こうなったら、この最新兵器で……!」


 私は腰を落とし片膝を床につくと、ドレスのスカートの中に手を入れ中から小型のバズーカ砲を取り出しました。オスカー殿下に向かってファイヤーですわ!


「どぅわっ?!」


 どかぁん!!と砲撃音が響きます。音は派手ですが、発射されたのは弾ではなく網ですのでご安心を。

 え?どうやってドレスの中にバズーカ砲を隠していたのかって?……それは内緒ですわ。乙女のドレスには秘め事がたくさんありますのよ?


「……カタストロフ公爵令嬢、それは?」


 針金が編み込まれた網に自由を奪われもがくオスカー殿下をチラリと見ながらハルベルト殿下がバズーカ砲に視線を動かしました。


「これは、我が商会の最新作〈犯人捕まえる君〉ですわ。砲弾の代わりに簡単には切れない網を撃ち込みますの。対象者にぶつかると網が広がり相手を包み込み動きを封じますのよ。小型にしたことで軽量化に成功しましたの!」


 そう、これは私が個人的にやっている事業の商品なのです。私は非力な女性や子供でも扱えて尚且つ相手を傷付けずに捕らえたり自分の身を守ったり出来る防犯グッズを開発しては販売しているのですわ。

 他にも逃げる犯人を見失わないために洗っても落ちない色付きの液体をぶつけるための〈犯人に色つける君〉や、不審者がいたら紐を引っ張るだけで大音量の音を鳴らしすぐさま衛兵に通報が行き相手を怯ませることのできる〈大きな音で通報します君〉などもお手頃値段で人気商品です。まぁ、私の商会の商品と言っても実は発案者は私ではありません。ちょっとした縁がありとある方と知り合いまして、その方がとてもユニークなアイデアをたくさん持っている方でしたので我が商会の共同経営者にスカウトしたのです。おっと、その話は今は置いといて……。


「まだ動かぬ的でしか試し撃ちしていなかったのですが、これなら実戦でも使えそうですわね。できれば捕獲ついでに気絶してくだされば尚良いのですが……」


 あの網に触れるだけで効果のある毒でも仕込めないかしら?今度に相談しましょう。

 それにしてもオスカー殿下は元気にもがいていますわね。まともに顔にぶつかったからかなりの衝撃のはずなのですが。

 今までもたまにオスカー殿下でじっけ……ゲフンゲフン。オスカー殿下にご協力頂いてサンプルをとっていましたけど、あまりに頑丈過ぎてオスカー殿下に合わせると一般人には威力がありすぎて命の危険がありますのよね。私のポリシーはあくまでも生きたまま捕獲する事です。防犯のためとはいえもし相手の命を奪ってしまえば罪になってしまいますからね。やはりもう少し微調整が必要かしら。


「とても画期的ですね。それなら最近発見された麻痺毒はいかがですか?確か肌に触れるだけで体内に吸収され手足が動かなくなるものがありますよ。これなら例え意識があっても指一本動かせなくなるはずです」


「まぁ、それは素晴らしい毒ですわね!ぜひ教えてく「俺を無視するなーっ!」……そうでした、今はオスカー殿下ですわ」


 私はバズーカ砲を後ろに控えていたアンナに手渡しオスカー殿下に向き直ります。


「それで、お部屋で謹慎しているはずのオスカー殿下がなぜ廊下を突進しておりますの?」


「部屋の前には騎士を置いていたはずなんですが……。どうやって抜け出したんだい?オスカー」


 ハルベルト殿下は穏やかな口調でそう言いながら、まるでオスカー殿下の視線を遮るように私の前に立たれました。……こうして改めて見ると、ハルベルト殿下の背中って大きいですわ。背筋もピンと伸びていてなんだか凛々しく感じます。


「そんなの、窓から飛び降りて抜け出したに決まって……兄上?!なんでハルベルト兄上がセレーネと一緒にいるんだ!?」


 どうやら、今やっとハルベルト殿下の存在に気付いたみたいです。どこまで猪突猛進なのかしら。


「そんなことは今はいいだろう。お前は父上のお許しが出るまで謹慎しているように言われたはずだ。それを脱走など……」


「だって、セレーネかくるって聞いたから!セレーネ、誤解なんだ!俺は婚約破棄なんかしたくないんだ!話を聞いてくれ!」


 網の中でもがきながらオスカー殿下が必死な形相で訴えてきます。そのあまりに必死過ぎる姿に私はきつく両手を握りしめました。


「オスカー殿下……」


 やっぱりルドルフを手に入れるために、また婚約破棄宣言を撤回する気ですのね……!でもそうはさせませんわ!


「オスカー殿下、私もお話がありますわ!」


これですべてを終わらせてみせますわ!

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