第4話大商業国テレジア
朝、目が覚めるとティナが居ないことに気づく。俺は布団を敷き、彼女はベッドで寝てもらったのだ。とりあえずBARカウンターへと向かった。
「お、ゼフィス君おはよう。朝食はできているから早く座りたまえ。ティルナシアが手伝ってくれてね、いつも以上に捗ったよ」
台所を見ると赤銅色の髪を一つに縛ったティナの姿が見えた。
「あ、ゼフィスおはようございます。今日はデルクさんの料理を手伝ってみました。お口に合うかはわかりませんがぜひ召し上がってください」
彼女は黄金色の瞳を輝かせながら笑った。
朝ごはんを見るとティファーナで見られる料理が見られる。
「母の料理を手伝う時に教えてくれました」
「ではさっそく」
「「「いただきます」」」
俺はさっそくティナが作った料理を食べた。美味い!ティファーナのレストランで食べる料理よりも美味い!
「どうですか?」
俺は全力で首を縦に振った。デルクも笑顔で食べ続けた。彼女は顔を手で覆い隠しお粗末さまですと小声で言った。
朝食を食べ終わり食器を洗っていると
「お前達テレジアにせっかく来たんだ街を見て来たらどうだ?」
「ですが私達の特徴が流れているみたいですしやめておいた方が」
ティナがそう言うとデルクは店の倉庫へ行った。
「おまたせ、これを使うといい。」
そう言いローブを差し出す。
「これで顔を隠せば大丈夫だろ。さ、少しは楽しんでこい。あと、ティルナシアには今日手伝ってくれたお駄賃をあげよう。ゼフィス君には地図をあげよう」
俺にも金をくれてもいいんだが……しかしデルクなら俺が傭兵団関係で何度もここに来ていることを知っているはず。地図を渡す。つまり楽しみつつ作戦中のルートやオークション会場の場所を確認してこいということか。俺とティナは店を出て街の景色を見た。来た時と同じようにBAR周辺に人混みはなかったが、繁華街の方からは活気に溢れた声が聞こえる。この声のほとんどが薄汚れた商人の声だと考えると気持ちは心が締め付けられるほどに苦しかった。地図を広げると1枚の紙が落ちた。その紙に書かれていたのは食材と書き置きだった。
『ティルナシアになんか買ってやれ。買ってやらなかったらお前だけ店から追い出すからな』
俺は何もわずメモをクシャクシャに握りしめ、投げ捨てた。それを見たティナの黄金の瞳は不思議そうに俺を見た。
繁華街通りに出ると人が多く、進むのが難しかった。俺は離れないように彼女の白く傷一つない手をとり人ごみを掻き分けた。とりあえず俺はこの国でいちばん美味いと思える喫茶店へ立ち寄った。俺は珈琲を2つ頼み、窓際の席に座った。
「さて、これからどうしようか。どこか行きたいところとかある?」
「特にはないんです。強いて言うなら本とか買いたいです……」
本かぁ。彼女の好きな本が分からないから下手に買うと嫌がられるな。まぁ聞いてしまったからには行くしかないが。さて、まずひとつ行く場所は決まったがその次どこに行くかだな。あの人混みを掻き分けて進むのは面倒臭いのとティナの体力的にも難しいだろう。俺は珈琲を飲みながら窓の外や店内を見た。店内は外とは違い静かでこの空間の時間だけが遅くなったかのように感じた。そこに
「おーいマスター!酒だー!酒を出せー!」
うるさいヤツが来た。マスターがここは酒場ではないと説明するが全然聞く耳を持たなかった。いや違うな、酔っててけていない。ここはティナを見ていた。彼女はそんな怒鳴り声よりも珈琲の苦さの方が勝っていたらしく苦い顔をしていた。
「珈琲飲めなかったのね……」
「こーひー?この沼みたいなのコーヒーっていうんですね。なんでゼフィスは飲めるんですか?こんな苦いもの人が飲むものじゃないですよ……」
「あはは、きっと飲めるようになる。今はミルクと砂糖を入れて飲めるようにしていこう。」
「一つ疑問に思ったのですがなぜ魔道具には違法なものがあるのですか?」
「俺も詳しくは言えないんだが、人間は魔術回路は持つが魔力を体内に持たないんだ。魔道具は使用者に魔力を流し込みその道具の効果を発揮する。だから違法であばあるほど流し込まれる魔力量が多いんだ。そうなると魔力量に耐えきれずに廃人化してしまう。まぁ精霊や魔族は普通に使えるんだがね」
そうなると俺たちが使う幻式はどうなのかという問題が出る。そこでLエネルギーが使われるわけだ。魔石から流れる魔力をLエネルギーで中和する。そうすることで危険性をなくすことに成功しているらしい。怒鳴り声が続くと一人の男が席を立った。
「全くよぉうるせぇなぁ!っと」
聞き覚えのある声だった。その声を聞いた俺は珈琲カップを落としかけた。
「誰だおめぇ」
「俺か?俺はァ、ロウギヌス傭兵団第3部隊隊長ォ!トリス·マッカードだ!」
何故だ、何故トリスがいる。団長が抑えていてくれたはず。いや待てよ、あの人なら有り得るか。トリス·マッカード。彼が言う通りロウギヌス傭兵団第3部隊隊長だ。剣の腕は団内で2番目だ。彼の性格は荒く止めれるのは団長かナリトカさんぐらいだ。そのため彼がこの街に一人でいるのは納得だ。彼は酔った男に向かって全力のアッパーを繰り出した。彼らしいとしか言えない。俺とティナは顔が見えないように顔を伏せていた。
「あー、気持ちー!こう、気持ちいときにこんなことしたくはねぇけどよォ、そこの顔伏せてる奴!おめぇゼフィスだろ?その体格と髪型は忘れねぇよォ」
バレたか、俺は席を立ち上がった。
「全くあなたは変なところで感がいいと言いますか、はぁなんでいるんですか。」
「おめぇがよォ起きてからいねぇんだ、あの女もな。だから追っかけてきたってぇわけだ。この国だってわかったのは商人が通りかかったから脅して聞いてやった。そうすると驚いたもんだ。おめぇたちの特徴と合致するんだわ。」
この人チャラそうに見えて記憶力はいいんだよなぁ。さぁどうするか。幻式はないし、この人に剣で勝てる見込みはない。絶体絶命いや、背水の陣だと思えば楽だろうか。変わらないな。
「で?あの女はどうした?まさか殺した、いや甘ぇおめぇのことだそんなわけないよなぁ」
「ええ、殺してはいません。今頃野原を駆け回ってるでしょうね」
俺は遠くを見つめるふりをしながら彼から目を離さなかった。
「ああ。あーあーあーあー!このバーカ野郎ォがー!」
殴りかかってきたか。剣でなく拳であれば!
「あんたが、剣以外で勝てるのは、女を侍らす時ぐらいだろうがァ!」
俺は腕と襟を掴みくるりと回る。トリスの体は俺の背中に周り、腕を引っ張った瞬間綺麗に宙を舞った。背負い投げ、これはナリトカさんから教えてもらった技で、反撃の手としては最高の技だった。彼女は団員全員に教えたがトリスは何も聞いていなかった。だからこの技は刺さったのだ。
「良かったですね、元上司。当たり所が悪ければ死んでたしたよ」
店内は静まり返った。小さな話し声もなく、沈黙という言葉がふさわしいほどに静まっていた。
「あのマスター、彼のお守りを任せても?」
「わかったよ。いつもご利用ありがとね」
マスターは微笑みながらトリスを担ぎ店の奥に持っていった。俺たちは珈琲2杯分の料金を払い店を出た。この後の予定を決めないまま店を出てしまった。まぁあの場にいては他の客にも迷惑がかかるだろう。
「あの方は確か私を助けてくれた方の一人ですよね。良かったんですか?あそこに置いてきて」
ティナは心配そうな顔をした。俺は少しに考えたあと苦い顔をした。
「いいんじゃないかな?よく使う喫茶店だし多分マスターなら上手いことやると思うよ。うん、きっと」
とりあえず本屋に行くことにしよう。多分彼女が選ぶ時間ぐらいはあるはず、そこで考えるとしよう。本屋に向かう途中でいくつか人通りが多い場所を見つけた。そのほとんどが商人だと思われ一人一人が身分の高そうな身なりをしていた。俺はその場所を地図で記しながら前へ進んだ。
本屋に着くと彼女は目を輝かせた。
「ゆっくり選んでくれ。お金の方は後でデルクに払わせるから好きな本を選んでくれ」
そういうと彼女は本棚にある本を片っ端から見始めた。よし、では考えよう。まず、彼女が欲しそうなものだ。まだ会って間もないから何が欲しいのかわからない。服?いやいや彼女の服の大きさを聞くのは変態だと思われてしまう。ならば本を……本はやめておこう。やるならサプライズをしたい。ならば何にするか。こういう時トリスはうまいんだよなぁ。俺は必死に考えた。そうすると一つの案が思いつく。早速実行しよう。
「ティナ!本を買っても少し待っていてくれ。」
そう言い俺は店を後にする。きっとテレジアなら取り扱っているはず。人間は使えないとしても鑑賞用として買う人が一定数いる。俺はその可能性のために走った。
「はぁはぁ、ティナおまたせ」
「どうしたんです?そんなに焦って。もうそろそろお昼の時間ですから少し休みましょうか」
お昼になると人混みもまた大きくなった。俺は周りの声に耳を傾けつつ前に進んだ。野菜が安いとか嗜好品の売り込みとかが聞こえてくる反面、新しい魔道具が入っただの精霊にも効果テキメン!だの闇の声も多数聞こえた。最後のに関しては嘘にも程がある。これはメモメモ。そうこうしてるうちにレストランへ着く。
「おーい、ゼフィスと嬢ちゃんこっちこっち!」
と、声がした。そこに向かうとガルシアスが座っていたのだ。
「どうしてここに?いや、昨日も言ってましたね。酒を飲み歩いていると」
「ああ。昼間っから酒を飲んでいるのさ。まぁその方っぱらで情報収集さね」
予想はできていた。この男は抜け目がない。飲み歩いて数十軒ほど飲み歩いているようだが全く酔っていない。
「さぁ、情報交換と以降じゃないの。まず俺からだ。明後日の夜、高価な物がオークションで出されるらしい。催眠か透明化かそれとも発情物か。どこで出されるかはわからなかったが全軍で行けばなんとかなるだろう」
「俺からはオークション会場についてです。今日は特にこの場所で行われていたと思われます。多分地下で行われてますねこれは。他の会場もあるのなら会場が変わるパターンを見つける必要がありますね。あとこの計画に足りないことですが兵力が全然足りないんです。ガルシアスさんが用意してくれた兵力だけでは多分3集団が限界かと」
ガルシアスは酒をひとくち呑む。
「安心しろ、その件に関しては明日話されるだろう。この国の兵長直々にな」
なんか焦らされてるみたいで納得できんな。水を飲みかわいた喉を潤した。
「こんな難しい話は今はやめておこう!ティルナシアの嬢ちゃん、何を買ったんだい?随分と厚いものを勝ったじゃないか」
「これは私が好きな作家さんの童話です。『カプリコーンの涙』というお話です。続編があったのを見てついつい買っちゃいました」
ラルスラーヌの新作か。俺もあの人の本はすきでもちろんカプリコーンの涙は全部読んでいる。以外なところで共通点を作ることができた。
「読み終わったら俺も読んでもいいかな?俺もラルスラーヌの作品は好きなんだ」
「ええ。是非読んでみてください!触りだけ読みましたが、気づいたら引き込まれちゃいました」
目に浮かぶというかなんというか。こんな国の中だが少し和むことができた。
「ゼフィスはおっと何も聞かないでおこうかな。おじさんはクールに去るぜ」
「いや去るな去るな。自分で食べた分は払っていきなさいよ」
「ふふふ。ゼフィスさんは何を買ったんですか?綺麗に包装されているようですが……」
「い、田舎のばあちゃんへの贈り物だよ」
嘘をついた。まぁ内容がバレないための嘘だがなんかこう罪悪感が。ガルシアスとは昼食を食べたあとBARで落ち合う約束をし別れた。
「この後なんだが、オークション会場に行ってみないか?敵情視察みたいな感じでさ」
そういうとティナは理解不能な顔をした後に理解したのか驚いた。
「え、ちょっ、n???もう一度言ってもらえますか?」
「オークション会場に行こうかなと思ってまして。もし嫌だったらBARに戻っていてもいいんですが……」
彼女の顔を見るとその頬は膨れ上がり目は細く俺を睨んでいた。
「何馬鹿なこと言ってるんですか!敵情視察はデルクさんかガルシアスさんに任せればいいじゃないですか!」
「いやしかし一度見ておいた方が……しかも君を危険に晒す恐れもあるし。ゴフッ!」
思いっきりの腹パンだった。彼女が俺の前で初めて暴力を奮った。
「バカを言わないでください。危険なのは今も昔も変わりません。先に帰ったって危険なんです!特徴だってバレてるんですから。しかもさっきの言い分だとあなたは自分は危険じゃないと言ってるんです。あなたが強いことは山賊を斥けた時点で知っています。けど敵の陣に一人で突っ込むのはやめてください。行くなら私も連れていってください!」
その言葉は一つ一つが力強くしかし、慣れていない怒号のせいか途中から声がかすみ泣き声のようにも思えた。ひとりじゃ危険か。今までで団長ぐらいにしか言われなかったな。
「わかった、君も連れていく。だがこれだけは約束して欲しい。危険になったらすぐに君だけでも逃げ出すこと。いいね」
ティナは力強く頷いた。
オークション会場に入ると客、店員全てが仮面をつけており、一種のホラー感を醸し出していた。
「お客様ようこそオークションへ。参加される際は武器等を預けてください」
俺は剣を預け会場に入った。ここからは丸腰か。幸いにもボディーチェックはなく、すんなりと会場に入れた。そうすると聞こえてくるのは高値の金を叫ぶ商人の声だった。なるほど、あの商人が黄金の国と例えるのにも納得が行く。しばらく俺はオークションの様子を観察していた。出される品は有名な違法魔道具の数々。それ欲しさに商人達が血眼になって多額の金を自らの口で叫んでいた。そのせいか場内は暑く感じられた。
「そこの商人さんや。あんたここによく来るのかい?」
「はい。来ますよ?おたくは?」
「いやぁ今日が初めてでね。この景色を見て心踊ってますよ」
嘘だがな。正直呆れる一歩手前だ。
「あんたに聞きたいんだがよ明後日のオークション会場を知りたいんだ」
「ほほぉ、ですがタダで教える訳には行きませんねぇ。なにか有益な話がないと」
「そうだな、これは秘密中の秘密なんだが明後日のオークションで希少な魔道具が出るらしいんだ」
そういうと商人は紙を取り出した。
「信じられませんがまぁこの熱気がより一層の増すのでしたらいいでしょう。見た感じあなたは、ぶふ、失敬。そこまでの資産はなさそうに見える」
その言葉に苛立ちつつも表に出さず見せてもらった。俺はその紙を鮮明に地図に描いた。これさえあれば余分な兵力を出さずに奇襲をかけることができる。
「ありがとうございます。いやぁこの景色はいいですねぇ」
コクコクと商人は頷き「200万ゴールドォ!」といきなり叫んだ。あれが目当てだったのか……その光景を目に焼き付けた後俺たちは店を後にした。気づけば日は傾き、街にLエネルギーの光が灯り始めた。
「収穫はありまりましたか?」
「ああ、あった。明後日の会場、オークションの熱気、会場の薄汚さなど色々ね」
気持ちが固まった。もはや彼らに手加減をする必要はないだろう。そう思い俺は灯篭の火を見つめた。
店に帰り俺はデルクにこのことを伝えた。
「そうか、あそこに行ったんだな。馬鹿野郎!お前たちに何かあったらどうするんだ!ベルに顔向けできんだろうが!しかもティルナシアもつれていきやがって!」
「ティナは自分の意思で言ったんだよ!だがなこの作戦を決行する以上、もう危険なんて顧みれるか!」
「まぁまぁ、デルクーイもそう熱くなるなって。ゼフィスだって俺たちの作戦を思ってやってくれたんだ。もうこの件に関わってる以上後戻りはできんさ」
そういいガルシアスは俺たちの仲裁に入った。
「まぁそれはさておき、ゼフィス君、買ってきたんだろうな?」
デルクは表情を笑みに変えた。まったくこの人達は。
「ティナ、これは俺からのプレゼントだ。君の欲しいものがイマイチ分からなかったからこれから先必要となるものを選んだ。もし良かったら使ってくれ」
俺はティナに包装された箱を渡した。箱を開けるとその中には魔石の付いた杖が入っていた。彼女の顔は驚いた顔をした。魔法の杖というもので精霊であれば誰でも持っているものだ。機能としては魔法を使う時の魔力操作の補助や、魔法の威力アップなど魔法面の機能が多い。
「全く、お前もベルと同じだな」
デルクの言葉は皮肉じみていたがいい方向に貰っておこう。
「ありがとうございます……大切にしますね!あと、先程はごめんなさい。殴ってしまって」
彼女は泣きながら笑顔を見せ、その後頭を下げた
「大丈夫殴られるのは慣れてるから」
「ゼフィス君、そういう意味じゃない……全く、ベルの小僧たちはバカばっかだなぁ!」
店内は4人の笑い声で埋め尽くされた。明後日が作戦決行日であることを忘れさせるかのように。
後書き
「そういえばゼフィス君、俺が頼んだ食材たちは?」
あとがき ごはん
「ああ、そういえばメモがどこかに飛んでいってしまって買えませんでした。ハハハ」
俺は目を逸らしながら笑った。
「全く、君は悪い所だけベルに似たな」
デルクは呆れた顔をしながら顔を手で覆った。
「明日の朝食君だけなしだから」
は?
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