ARCADIA BLUES.

Sdevil

第1話 3つに分断された世界

果てしなく続く空。世界の中心に聳え立つ世界樹。この世界は3つの大陸とひとつの島に分断されていた。俺にはいつからこうなっていたか分からないが、俺の婆さんが言うには生命が生まれるずっと前、3人の神様が喧嘩をして3つに分断されたそうだ。それからずっとこのままらしい。それからは人類が暮らすアドラール大陸、魔人暮らすゼルファスト大陸、精霊が暮らすティファーナ国、 そして世界の中心にあるアヴァロン。陸は3つに分断されたがこの空はきっと、きっと繋がったままだ。


「やっとアドラールに戻ってきましたね団長」


「そうだなゼフィス。精霊の街もよかったがやはり故郷は落ち着く」


ロウギヌス傭兵団。ベルゼハード団長が創設した人間だけで構成された傭兵団で、人間の依頼だけでなく魔人、精霊の依頼も受ける数少ないグローバルな傭兵団だ。


「いやぁティファーナの嬢ちゃん達の可愛さは忘れられねぇなぁ〜」


俺たちはティファーナからのひと仕事を終えた後、武器の売買や掘り出し物の買取をしてくれる企業夢幻からの召集を受け本拠地としているエドガルド王国に戻ってきたところだった。


「トリス、これで何人目ですか……これはメルリさんに言うしかありませんね」


第3部隊隊長であるトリスに第2部隊隊長のナリトカが突っ込んでいた。


「しかし、急な招集とは珍しいですね」


「あぁ。準備が出来次第夢幻本社に向かう。さっさと終わらせるぞ野郎ども!」


ポーションなどの必要物資の買い出し、武器の手入れなどを終わらせると。


「これより私は夢幻カンパニー本社へ向かう。1人着いてきてほしいのだが、副団長は出費の計算で忙しいか。では部隊長は……もう行ってしまったか。よしゼフィス着いてこい。」


「了解です」


俺と団長は夢幻カンパニー本社に向かった。他の会社の建物との違いはすぐにわかった。他の会社よりも大きく、ビルは圧倒的強者としての威容を漂わせていた。これも国の軍事機関に武器を売買しているからだろう。幻式の登場によって戦場は大きく変わった。人間の身でも魔法を使えるようになったからだ。


「お待ちしておりまりました。ロウギヌス傭兵団のベルゼハード様。そちらは……ゼフィス様ですね。歩兵でありながら幻式の最新型のひとつである荒塊を使用してくださってることは戦闘データとベルゼハード様から聞いております。ここで立ち話もなんですし早速ご案内します」


俺は社内を案内された。そこでは幻式や武器の製造の数々、古代遺物の解析を行っていた。幻式や武器の製造以外は知らなかったが、まさか俺たちが発見した掘り出し物を研究しているとは思わなかった。いずれ古代遺物の解析が進みさらに発展するだろう。考えるだけでも楽しみなことだ。そうこうしているうちに会議室に着いた。中に入ると一人の男が座っていた。


「やぁベル。こうして会うのは1年ぶりかな?そしてそちらはゼフィス君だね。初めまして僕はハル·ドレーク。兵装開発部部長を任されている。君の話はこの堅物からよく聞いているよ」


「初めまして! よ、よろしくお願いします!」


お偉いさんに友人がいるとは聞いていたがまさか兵装開発部の部長とは!思いっきり傭兵団と関わっているじゃないか。ふたりは1年間の情報共有をしていた。旅の思い出とか俺たちが壊した兵装の修理について笑いながら説教されたりと場は和んでいた。


「では本題に入ろう。今日の要件は3つある。ひとつはベル、君の剣『魔剣リヴァイアサン』解析結果が出た。まだ古代遺物は謎めいたことが多いが、地下に流れるLエネルギーと何らかのパスが繋がっていて、それが刃こぼれをしないことや威力の増幅などにつながっていることがわかった」


「そうか。俺たち人間には魔力がないからな。まさか大地と繋がっているとはな」


【Lエネルギー】とはこの世界に流れるエネルギーで、ライフエネルギーと言われている。これは生命の成長だけでなく機械を動かす燃料として使われてきた。


「そして次の話だが、君たちにこの幻式を使ってもらいたい」


そう言ってハルは部下から受け取ったアタッシュケースを開く。


「これは『Butterfly』という我社特製の第3世代機だ。これを君たちロウギヌス傭兵団で試験運用してもらいたい」


幻式。人間が魔法を使うために設計した兵器だ。Lエネルギーと魔石の力で魔力を生成し、魔術回路と幻式で魔力を制御することで、幻式は人間の魔法の行使を可能にした。そして、幻式には世代がある。魔法は使えるが無属性魔法に限定される第1世代。属性魔法と固有の機能が使える第2世代だ。


「質問いいですか? この『Butterfly』にはどんなギミックが搭載されているんですか?」


「お、ゼフィス君。よくぞ聞いてくれました! この幻式は従来の物とは少し違う。コイツは装備者の脳波を受信して宙を舞いながら攻撃する『銀の翼』というビットを搭載している。もちろん出てくる魔法は属性付きだ」


第3世代は無人機を搭載するということなのか? それとも第3世代製造のための情報収集なのか。


「わかった。この幻式は俺が預る。で、最後の要件は?」


「3つ目は依頼だ。この国の周辺で活動している山賊を討伐して欲しい」


山賊の討伐? それだけなら自警団にでも任せればいいはずだ。その山賊になにか特別な要因でもあるのか?

「奴にらは幻式を頻繁に強奪されてね。もちろん護衛もつけていたんだが。1人妙なやつがいたらしいんだ。そいつは幻式を使わず魔法を使っていたらしい」


幻式なしで魔法を? それはおかしい。普通の人間は幻式なしでは魔法を使えない。魔力がないからだ。まさかの他の種族が関係しているのか?


「わかった。友人の頼みだ、この依頼引き受けよう。だが報酬は高くつくぞ?」


と団長が笑いながら言うと、ハルも笑いながら首を縦に降った。


「俺は情報収集をしてくる。夢幻の護衛を突破し続ける山賊だ。調べる必要があるからな。お前は宿に戻り部隊長達に今回の山賊討伐依頼のことを伝えてくれ」


そういい団長は人混みの中に消えていった。部隊長全員に説明すると


「山賊討伐か。しょぼい依頼だと思ったが、あの天下の夢幻カンパニーの幻式を次々に盗んでいくやつだ。腕のいいヤツがいるに違ぇねぇ!」


トリスは目を輝かせながら言った。


「草原で戦うならいつも通り物量で押し切れますが、拠点である山が戦場になるなら少人数の方が都合がいいですね」


とナリトカが言った。部隊長、特にトリス隊長は基本どこか抜けているところがあるが、仕事となると準備や戦略を練るのが早い。



次の日。団長は山賊の討伐メンバーに俺、トリス、ナリトカを選出した。傭兵団幹部2人を連れていくということはそれだけ手強い相手ということだ。


「俺の情報では、奴ら全員幻式を装備しているようだ。だから下手な戦闘はできん。さらに戦場となるのは山だ。だから身軽な人材が必要になる」


俺たちは山賊の本拠地に向かう前に襲われたと思われる草原に向かった。草木が腐食した痕跡はなく青々とした草原が拡がっていた。


「こりゃ魔人の仕業じゃねぇな。腐蝕の後がねぇ。そうなると精霊か」


トリス隊長は現場の状態から精霊だと断定した。しかし精霊が山賊如きの暗躍に手を貸すとは思えない。精霊は、賊集団はもちろん、国家にだって手を貸さない。彼らは自然や生命を愛し、他の何らかの思想に加担することは無い。戦うとするならば、種族と自然のために戦うのだ。もしや洗脳の魔道具を持っているのか?


「ナリトカ隊長。奴ら洗脳の魔道具を使って精霊を操っているのではないですか?」


「ゼフィス、それはありえませんね。魔道具は高価なものです。そこらの人間が買えるほどのものじゃ……いや、もし夢幻が運んでいた幻式が第2世代だとするなら、それを売って手に入れた可能性が考えられますね」


第2世代の幻式を売って魔道具を買える程の財力。それほどの財があるなら兵の増強も考えられる。気を引き締めなければならないな。俺たちは急ぎ山賊のアジトへ向かった。

山に着くと、そこには第1世代の幻式を装備した見張りが3人いた。第1世代であれば属性なしの魔法のため突破が容易だ。しかし仲間を呼ばれると難易度は跳ね上がるため迅速に対処しなければならない。


「相手は3人。ナリトカ、お前一人でも大丈夫だな?」


団長がナリトカに聞くと彼女は相手を見つめた。


「あれなら……はい、私一人で十分かと。万全とは言えない重心、傷一つない体、軟弱とまでいえる筋肉。恐らく入って間もないでしょう」


ナリトカ隊長は観察眼に優れており、相手のコンディションや戦歴を瞬時に見極める。相手の分析を終えると彼女は体勢を低くし、地を蹴って突撃した。地面を刺すように走る彼女を見て、相手兵士は意表を突かれたように慌てていた。一人は手に持った槍を逆さに構え、残りのふたりは無謀とも言える特攻をしかけた。


「遅い……!」


彼女はそういい手に持った槍でふたりの兵士をなぎ払い、後ろにいた兵士目掛けて槍を投擲した。槍は兵士の頭に吸い込まれるように突き刺さり、その脳漿をぶちまけて兵士を壁に串刺しにした。


「ヒュー。さすがは傭兵団1の槍の使い手。静かに片付けたじゃないの」


「さ、先を急ぎましょう。巡回の兵士が来たら面倒です」


トリスがからかうも、ナリトカはそれを完全にスルーして何事もなかったように槍を引き抜く。さらに先に進むと、山内は薄暗く、ゲリラ戦にもってこいの地形だった。山頂にあると思われるアジトへ向かう途中、何処からか銃声が響いた。


「おっと危ないねぇ」


トリス隊長は素早く剣を抜き、弾丸を弾いた。


「何!? 死角からの攻撃だったはずだ。こいつらはやべぇ! おいお前! お頭にこのことを伝えてこい!」


そういい1人の兵士が山頂に向かうと、他4人の兵士が器用に木を移動しながら魔法と銃を乱射した。相手の銃は見た感じマシンガン系で、第1世代の幻式を装備していた。

「ゼフィス、荒塊の使用を許可する。今この場で遠距離攻撃ができるのはお前だけだ」


「了解」


【幻式起動開始。

魔石との接続開始。Lリアクター回転開始。Lエネルギーの供給を開始。30、50、リアクター回転率100%。排熱機関の開閉確認、正常。ユーザーサポートシステム30%をキープし起動。マニュピレーター起動完了。エネルギーの供給率40%をキープ。魔法質力50%、使用者とのシンクロ率70%、規定値内です。ジャイロセンサー、各種TCPの起動確認、荒塊起動完了】


荒塊を起動させると、俺は左手を前に突き出し魔法を使う準備に入った。


【魔力弾発射準備。敵をA、B、C、Dと呼称。火属性魔法ファイクを使用。座標確認、クリア。行動予測、クリア。いつでも発射可能です】


精神を落ち着かせろ。左腕に波を集めるように。


「シュート!」


掛け声とともに火球が敵Aに飛んで行った。敵Aは回避を試みるも間に合わず火に巻かれていった。それを確認すると同時に他の敵を火球の連射で一掃した。


「団長、隊長方先を急ぎましょう。相手に察知された以上ここにいるのは危険かと。山頂に行ったのは確認できています。着いてきてください。」


俺たちは先を進んだ。敵の援軍が来るかと思ったが、人の気配もなくあっさりとアジトだと思われる場所へ着くことが出来た。そこには少女が一人、ポツンと立っているだけだった。赤い髪に黄金色の瞳。髪には紫色の髪飾りをつけている、可愛らしい少女だった。


「やぁお嬢さん。ここで山賊を見なかったかい?」


トリスが話しかけた赤髪の少女は、その問いに答えることはなく、トリスにゆっくりと手を向け「ファイク」と唱えた。眼前に迫る炎を見て、トリスは素早く飛び退いた。


「炎魔法だと!?アイツが例の妙な奴か!」


魔法を使った。しかし、彼女は幻式を身につけているようには見えない。髪飾りではないかと思ったが、幻式ならば装着した部位から出るはずだ。だとするなら本当に精霊なのか。確かに瞳の色は黄色。これは精霊独自の特徴だ。しかし耳の形が人間に近いことや赤い髪の色は精霊の特徴に当てはまらない。盗賊達が油断させるために耳を整形し髪を赤く染めたとでもいうのか? 彼女の黄金の瞳に光はなかった。


「あの髪飾り、恐らく『隷属の髪飾り』ですね。彼女に罪はありません。団長、ここは髪飾りを破壊し、彼女を催眠から解放するべきかと」


「そうだな。俺が攻撃を抑える。お前達は彼女の髪飾りを壊せ!」


団長の言葉を聞き俺たちは団長を中心にして2手に別れた。ナリトカとトリスはは左舷に回り、俺が右舷から挟み撃ちにする動きになった。「ファイク」「サンディル」と彼女はつぶやく。同時詠唱!? 赤髪の少女かの両側から火球と雷が飛び出した。


「おいあいつ、同時詠唱しやがった!どんだけだよ!」


同時詠唱をできる精霊は歴戦の老人であることが多い。彼女の外見はまだ18歳ぐらいだ。外見に惑わされず、天稟を持つ一人の戦士と見るべきか?


「しかし、無理して使っているという場合もあります。もう一度仕掛けますよ。ゼフィス、あなたは魔法による支援を!」


ナリトカの指示に従い、俺は中距離からの魔法支援に徹した。彼女についての謎はもうひとつある。彼女が精霊だとするなら、術式は自然を利用した魔法ものになるはずだ。だが彼女は自然を利用したと思われる形跡はない。もちろん精霊が自然以外の魔法を使えないわけではない。だが精霊なら得意な魔法系術式を使うだろう。そうすれば、自分に有利な地形、有利な戦術で戦えるはずだ。これも山賊がかけた催眠の可能性もあるが、自分たちの戦力を削ってまでやるだろうか。2人の攻撃は全て魔法で防がれている。ならどうするべきだ。


「隊長! 一度引いてください! ここは俺が行きます」


奴の行動はただ魔法を撃ち、攻撃を魔法で相殺するだけだ。なら俺にだって策はある。中型魔法を撃ち合わせ相殺させると同時に作り出した隙を使い攻撃する。魔法は質力が大きくなるにつれ隙が大きくなる。エネルギー残量は中型魔法を使って尽きるだろう。やるなら一度きりだ。


【中型魔法ファレイクを使用。照準完了。いつでも発射可能です】


俺は赤銅髪の少女に向かって真っ直ぐに走った。今までのパターンからみて、魔法による迎撃を試みるだろう。当然の如くやってきたそれを俺はしっかり回避しつつ魔法発射体勢に入った。


「シュートォッ!」


掛け声とともに中型炎魔法ファレイクは撃ち出された。それと同時に荒塊はエネルギーが尽き、俺の左腕から離れ地面を転がった。小型魔法は小型魔法で相殺できる。しかし中型魔法は中型魔法以上でしか相殺できない。それを察し、相手も中型魔法を繰り出した。相殺され魔法が虚空に消えると、俺は相手の懐まで一気に間合いを詰める。


「この距離なら魔法は使えないな!」


俺は髪飾りに手を伸ばし、髪飾りを握り潰した。直後、赤銅髪の少女は涙を零し、意識を失った。

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