恋愛安全条約機構 ◇◆Love Safety Treaty Organization◆◇

大橋博倖

第1話 序文に替えて

 物語るなんて行為はね、オーディエンスを前にちょっと一杯引っ掛けて、遊びながら、笑いながらで丁度いい(挨拶) 。


 今から諸君は一つの奇蹟を眼にする。

 人類の総力を決した、それは、奇蹟である。

 だから、それは、これからも可能なのだ。


 火星危機(かせいきき、英: Mars crisis、中: 火星危机、露: Кризис Марса)は、XX年X月からX月にかけて、当時火星を管轄していた地球連合環境省宇宙庁惑星開発局火星支部の行政能力が停止し、これを火星臨時政府なる任意団体が代行、地球当局との交渉により人類初の宇宙戦争寸前まで達した一連の経緯、期間を言う。第一次内惑星危機とも。本件に関する機密資料は「この事件と関連する無実の人々が被害を受けないよう保護するため」という理由で政府により20XX年まで封印されている。


 さて諸君。

 本文に入る前に少しばかりお付き合いの程を願う。

 まず本稿に目を通されている少しばかり奇特でお暇を持て余している読者諸賢に於かれては上記、紀元前のキューバ危機に比して語られる事も多い、人類航宙史黎明を騒がせた一大イベント、火星危機について少なからぬ智的好奇心並びにそれに見合う諸条件、つまり智性、理性、悟性、稚気に一滴のウィットも持ち併せておられる事と存じ期待しているのでそのつもりで。

 人類初の、漸くにして同種族間での内戦を制し母なる揺り籠、地球という1惑星からまず内海、太陽系という沿岸を離れ恒星間世界に足を踏み入れようというその矢先、またも愚かしい同族双撃、宇宙戦争を演じるとあっては出オチもいいトコ、悲劇転じて笑劇、ファルス、コメディもいいとこだ、人類史の通例としてもあんまりというものだ。

 幸い危機は回避された。

 しかし、だ。

 実は何も解決されてはいない。

 この人類史に特記されるべき本件は、原因、経緯、結果、現代に至るまで何一つ不明、百家争鳴の状態なのだ。

 紀元前末、関係者全員死亡で漸く機密解除、総てが詳らかにされた白昼堂々の凶事、当時の大国アメリカ合衆国現職大統領ケネディ大統領暗殺事件、衆人監視の暗殺とか言語矛盾も甚だしいがともかく、それに続いて人類史の暗部が生じてしまった、もにょる。

 その元凶が上記機密指定情報、俗称「禁則事項」にある事は論を待たないが、はて、それだけだろうか、というのが、つまりは本稿の趣旨である。

 こうして今、航宙黎明から恒星間黎明を迎える現代、もしかして、私達は人類が持つ一つの大きな特質を喪いつつあるのではないか、一私人としてそれを危惧するものでもある。

 超光速、時間遡行、慣性制御に反重力、不老不死。

 かつて人類が夢見、総て日常と化した現代。

 それでも尚、或いは喪われつつあるかもしれない、それは。

 そう、想像力に根差した、創造力だ。

 我々は進化の頂点を極めつつあるのか、人類は限界を迎えつつあるのか。

 その寂寞の中、結局は自暴自棄。

 銀河大戦を自ら招聘し、自滅を望むのか。


 ちょっと、待って欲しい。


 ほんとうに、真実そうか。


 世界は既に既知なのか、ノウンスペースなのか。


 だって、ホラ、人類史にすら、未だまだ謎はあるのだ。


 未曾有の危機を始祖は回避し、今に至るのだ。


 そのヒントは、ここにある。


 私はその謎を解く。


 今から諸君は一つの奇蹟を眼にする。

 人類の総力を決した、それは、奇蹟である。

 だから、それは、これからも可能なのだ。

 

 で、

 

 本稿が拠って立つのは過去類例の無い新説にして奇説。

 との表現は過剰か。

 本稿は、トンデモの代表である、「火星支部・臨時政府共謀説」を採用し、補強する事で立論、演繹する。

 本件終了直後、臨時メンテ明けから短期稼働再開の後急遽解体、後継基地が新造された「マリナー11」の存在に着目し、歴史上の新たな役割を演じさせる、因みに当基地の通信履歴の開示は過去も現在も事実関係は無く記録も実在しない、本稿の完全創作である。


 加えて本稿ではやはり史料上裏付けの無い、数多の事件関係者の内面にも触れる。

 

 本稿は論文では無い、あくまで1ラノベである事をここに再度表明する。


 物語はだからまず、公文書から追える範囲の、当たり障りのない火星危機の外部視点、ある視点からの概要を追う事から始めようと思う。


 

 

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