映画綺譚

鏡乃

洋画

『新しい人生のはじめかた』

原題 Last Chance Harvey

監督 ジョエル・ホプキンス

公開 2008年 アメリカ

   2010年 日本


個人的点数 ★3.5/5 点


あらすじ


 CM作曲家の初老男性ハーヴェイは仕事が思うようにいかない。そんな折、離婚した妻との間に出来た娘が結婚をする。式に出席する為ロンドンへ向かったが、元妻の再婚相手は優しく理想的な父親で、娘はヴァージンロードを継父と歩くと言い出した。


 一方ロンドンのヒースロー空港でアンケート調査の仕事をする中年独身女性のケイトは、母親からの結婚の催促にうんざりしていた。


 上手くいかない2人が空港で出会い、物語は進んでいく。




以下、ネタバレ有りの感想です





 ◆ ◆ ◆


 1時間半くらいで前向きになれそうなのが観たいなぁと思って選んだ映画。序盤の上手くいかない2人の描写が本当にリアルでなんか泣きそうになりました。THE☆映画っていう感じではなく、本当にリアルに、こういう何となく上手くいかない時あるよね〜っていう塩梅が絶妙でした。誰も邪険に扱っていないのに「あ、私場違いかも知れない」と思わざるを得ないシーン。当たり前だけど、外国でもこういう空気あるんだなぁとか浅い考えを抱きました。


 自分自身社交的な人間ではなく、人間関係のしがらみは面倒だと思うくせに、人との楽しい時間や繋がりは少し羨ましく思ってしまう…… 甘い蜜だけ吸っていたい図々しいタイプなんですが、そう上手くはいかないよねって。ケイトはそこを理解しているんだと思います、だから恋にも臆病になってしまう。


 どうせ上手くいきっこない、諦める方が楽だから。「私達上手くいくと思う?」それに対するハーヴェイの返事がこれまたリアル。「見当もつかない。けど、頑張る。」お互い若くないからこそ出てくる言葉ですよね。寧ろ若いうちからこんな事言われたら、それはそれで嫌ですね。


 ただ、私が女性だからなのか、もう少しケイトの人生も深掘りして欲しかったかなと思ってしまいました。原題にもある通り、主人公はハーヴェイなのだろうけれど。執筆活動を続ける経緯、母親との関係、どうして前の恋がうまく行かなかったのか。そういう箇所をもう少し垣間見ることができれば良かったかな、というところで★4にはなりませんでした。


 原題を直訳したらちょっとダサいからこの邦題になってしまうのも仕方が無いのかなという感じですが、これ、原題が本当に素晴らしいと思うんです。


 ケイトとの待ち合わせをすっぽかしてしまった、謝罪の電話をかけても電話に出てもくれない。そんなタイミングで、クビになったと思った仕事先からやっぱり戻ってきてくれと言われる。まさに仕事か恋かの二択を迫られる場面。それも長く続けてきた手に職の仕事と、昨日今日、海外で出会ったばかりの女性との恋の天秤。


 そこで同僚に向かって言ったハーヴェイのセリフ


 “As you said, it's my last chance. Look, I got to go.”

 君が言った通り、これが私のラストチャンスなんだ。もう行かなくちゃ。

 

 序盤に同僚に言い放たれた絶望的なLast chance最終通告が、終盤ではハーヴェイにとってのLast chance千載一遇へと変わっているんです。


 人生において引き際を知るのは大切です。でも、辛くても恥ずかしくても、しがみ付かなきゃいけない場面ってあると思うんです。ハーヴェイにはその瞬間が分かったのでしょうね。煩わしいと思っても耳を傾ける気持ち、不要だと思ってもほんの少し心を開いてみる勇気。そういう目を持って、色んなアンテナを張れる人間になりたいものですよね。


 そうしたら私にも新しい人生をはじめられるでしょうか。というか、そうやって気持ちをシフトした時点ではじまっているのかも知れませんね。


 それに気づかせてくれた、とっても素敵な映画でした。

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