ハーフ&ハーフSS集
悠木 柚
第一回【ラブコメ】2021年
そのあとむちゃくちゃ……
問①【あたしと仕事、どっちが大事?】
ボクは人生の分かれ道に立っていた。
右に曲がれば会社への道、左に曲がれば彼女である涼子の自宅。
「ねぇ、関川君、ここでハッキリさせて。あたしと仕事、どっちが大事なのよ?」
また無茶な二択を……答えはどっちも大事に決まってる。ちなみに真ん中にあるのは塀、行き止まりだ。時として女性は残酷な二択を突き付けてくる。
「もちろんキミに決まってるさ、でもね……」
「でも、はナシ。よく考えて答えてよね、返答次第じゃあたしにも考えがあるから」
ボクが働くのはキミのためでもあるんだよ、という答えは門前払いらしい。彼女は腕組みして僕の答えを待っている。二の腕を指先でトントンしながら待っている。
「さぁ、関川君。仕事とあたし、どっちを選ぶの?」
*** *** ***
【回答】
僕はため息をつき、一呼吸おいてから思いの丈をぶちまけた。
「涼子は自分が選ばれると思っているからこそ、そんな難題を僕にぶつけてくるんだ。私なしじゃ僕は生きられないと考えているのかもしれない。君を逃したら僕みたいな内気な男はもう生涯セックスできないとタカをくくってるのかもしれない。自分だけが僕に優しく気さくに話しかけられると思っているのかもしれない。でも考えてみなよ。究極のところ金がなくなって嫌気がさすのは女のほうなんだ。家計が苦しい月は、母さんもよく愚痴ってたよ。そのとき必ずこう言うんだ。フタヒロはお父さんみたいになっちゃダメよ、って。ねぇ涼子、女性にとって男は何の道具なんだ? 一体自分は何様のつもりなんだ? 君が満足する答えを出すだけのゲームなんて金輪際御免だね。ちなみに僕は君がいなくてもAVがあれば生きていけるし、毎週土曜の終電過ぎに新宿駅で家出少女を拾ってる。会社ではわりと人気者で、特に女子社員たちのウケがいいからそのうちひとりくらいヤらせてくれるのは間違いない。いいかい、涼子。世界で主人公なのは君だけじゃないんだよ。僕も近所のおっさんも棺桶に片足つっこんでいるおばあさんも等しく主人公なんだ。いつでも君に都合の良い答えが待っていると思うのは大間違いだ。ここまで言えばもう分かるよね。でもあえてハッキリさせよう。僕が大事なのはもちろん仕事だ!」
「え、ちょ、そんな……」
さっきまでの威勢はどこへやら。彼女は急に狼狽えだし、瞳には見せたことのない気弱な影があらわれていた。
「でもね、そうは言っても涼子のことが大事なのには変りがないんだよ。君が一番だなんて陳腐なセリフを言える歳じゃない。一生苦労をかけないなんて、それこそ何の保証もないのに伝えられない。ただ君を思う気持ちは他の男に負ける気がしない」
「フタヒロ……」
「僕はこれからも色んな不満を君に抱かせるだろう。でも、それでも、もし君が僕を信じてくれるなら精いっぱいの愛情を注ぎ続けるよ」
「わ、私もフタヒロのこと、誰よりも好きなんだから」
「分かってるさ。だから僕を試すような質問はしないでほしい」
「ええ、ごめんなさい。私、どうかしてたわ……」
「そんなときもあるさ。ところで、話は変わるんだけど」
「うん?」
「僕と結婚してくれないか」
背広の内ポケットから給料三か月分のジュエリーを取り出し、愛する涼子にプロポーズを決行した。聞かなくても返事は分かっている。それほど僕たちは長い時を一緒にすごしたのだから。
いつの間にか降り出した雨が本降りとなり、ふたつだった影はひとつになった。やがて静かに歩き出す。右でも左でもない道を。
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