第20話 草薙神子VS朝来名益城(2) MMA


「君さぁ~自分はツヨカワ男子のくせにぃ~人の事を見る目は無いカンジぃ?」


「え? でもこのままじゃ止めないとヤバくない?」


 確かにパンチを躱すのは上手そうだが、全くローキックには対応出来ていない様に見える。


 朝来名は強引にパンチで攻めず、ローキックでじわじわと足を削ってから止めを刺すつもりなのだろう。


「てゆうかぁ~神子の足の動きよく見てよぉ。アレで効く訳ないっしょ?」


 流麗に指摘され、俺は神子の足に注視すると、彼女は朝来名のローキックがヒットする直前、やや前進して蹴りのミートポイントをずらしていた。


 つまり、蹴りの当たる瞬間に間合いを詰める事で、インパクトを外しているのだ。


「それに神子はフルコンもやってるしぃ、あの位太腿の筋肉に力込めれば効かない系」


 インパクトを外し、威力を弱めた上にタイミングよく筋肉に力を入れれば大したダメージが無い。

 ローキックの打ち合いの様な試合展開が多いフルコンタクト空手経験者であれば、猶更慣れているだろう。


「成程。ディフェンス能力が高いんだな。でもよぉ、幾ら相手の攻撃を受けられても攻めなきゃ倒せねーぜ?」


 麗衣は流麗にそう指摘した。

 確かに攻めなければ倒せないし、攻めたところで女子である神子の攻撃が頑強な総合格闘技の使い手に通用するものなのだろうか?


「心配ないっしょ。神子の事だから、どーせ打たせ稽古のつもりで遊んでる系」


 ……どうでも良いけど、会話のテンポが悪くなるから何でも系をつけるなよ。


「せいっ!」


 流麗曰く、『打たせ稽古』の時間が終わったのか?


 立て続けにローキックで攻めてきた朝来名のローキックを神子は右膝を上げて膝ブロックすると、すぐさま朝来名の軸足になっていた右足に膝のスナップを効かせた反撃のローキックを叩き込み、一瞬、朝来名の表情が険しい物になった。


 コンパクトに放たれた返しのローキックを皮切りに主導権が神子に移り変わった。


 すぐに蹴り足を引き戻した神子は体勢を立て直しながら少し間合いを詰めると、ジャブでは無く肩を入れた強い右ストレートで朝来名の顎を強く跳ね上げ、右腕を戻しながら思い切って距離を詰め、右腕を曲げ、肘をやや前方に突き出し、下から突き上げる様にして右肘を放つ。


 右ストレートから右肘打ちを一挙動で素早く行うと、顔への肘打ちでボディに対する防御の意識が薄くなった隙をつき、左のボディアッパーを朝来名に突き刺した。


 右ローキックから右ストレート、右肘打ちから左ボディアッパー。


 今まで散々ローキックを撃たせていた鬱憤を晴らすかのような強烈な連打だった。


「ちっ!」


 朝来名は顔面への攻撃よりがボディへの攻撃を明らかに嫌がっていたが、自らは後退せず、逆に返しでロングフックを振り回して神子を後退させた。


 そのまま反撃をせんと、朝来名が直線的に間合いを詰めようとした。


 すると、神子は朝来名の膝上部に押し込むようにして右足でフロントキックを放ち、朝来名の突進の勢いが一瞬弱まる。


 その隙を逃さず、神子は戻した右の蹴り足を軸足にすると、膝を曲げ左ローキックを朝来名の左足に引っかける様に蹴り放った。


「シュッ!」


 神子は休むことなく、鋭く息を吐きながら更に右の胸元へフルコンタクト空手風の押し込むような強い突きを放ち、朝来名のバランスを崩すと軸足をあまり回転させず、腰の回転を生かしながらシャープに放たれた右ミドルキックが朝来名の脇腹に減り込んだ。


 右フロントキックから左ローキック、中段正拳突きから右ミドルキック。


 朝来名の突進をフロントキックと左ローキックで止め、ミドルキックがキャッチされない様、直前に空手の中段正拳突きで体勢を崩しているのだ。


 神子の蹴りはキックボクシングと違い軸足をあまり返さず、腰のターンと脛によるスナップで強く打つ事でシャープな蹴りになり、キャッチされる隙が少ない、総合格闘技における理想な蹴りと言えた。


 恐らく先程のボディアッパーを叩き込んだ時に気付いたのであろう、朝来名が頑強な総合の使い手と言ってもボディを打たれる事に慣れていないのか、ボディが弱そうなので総合ではあまり使われないミドルキックをわざわざ打ち込んだ様だ。


「このアマ……調子乗るな!」


 激怒した朝来名は一歩踏み出せば神子の前足に腕が届く位置でスッと上体を下げると右足を大きく踏みだし、タックルを仕掛ける。


 神子の細い腰など強く抱きすくめられただけで折れてしまいそうなものだが、タックルが来る事を読んでいたのか?


 神子は同じタイミングで少し前足を後ろに引き、素早く両手で朝来名の頭を押さえると共に膝蹴りを鋭く突き上げると、今度は一瞬蛇口が開かれたかのような大量の鼻血で地面を濡らした。


「ぐわあああっ!」


 手でタックルを制した事により勢いが弱ったとは言え、膝蹴りは強烈なカウンターとなり朝来名がこれ以上戦うのが困難なダメージを与えた。


 だが、地域一の不良高校のトップと言う意地からなのか?


 それとも仲間がやられた敵討ちのつもりなのか?


 朝来名は酔っ払いの様な千鳥足でありながら、辛うじて立っていた。


 そんな朝来名の意地は見る者によっては心打つものがあるかも知れないが、不良狩りなどというイカレた事を行っている女達がそんな姿を見て手を緩めるハズも無い。


 今度は神子がタックルを仕掛け、両腕で朝来名の頑強な両太腿を抱えると、左方向に大きくステップし、右腕を朝来名の左腰に回し、左腕で朝来名の右太腿を深く抱え直し、朝来名の右体側に身体を密着させると、驚くべく事が起きた。


「オイオイマジかよ!」


 声を上げた麗衣のみならず、麗のメンバー一同は皆、驚愕で目を見開いていた。


 180センチ近くはあろう朝来名を神子は腰と膝のタメを使い、高々と肩の上に担ぎ上げていた。


 神子は観ているこちらも震え上がりたくなるような凶悪な笑みを浮かべると、躊躇なく真下へ頭から叩き落とした。


 土の地面に頭から叩きつけられた朝来名はビクンビクンと全身を痙攣させると目の色を失った。

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