第11話

 私は早川さんの事は恒太に話していない。それは早川さんと約束したからではなく、なにか私の口から早川さんの事を話すのが嫌だった。恒太の口からその名前が出るのが嫌だった。


 私と正反対の早川さん。


 まるで日陰に咲く白い花の様で、触れば傷つき脆く壊してしまいそうな硝子細工の人形の様で。


 比べられたくなかった。


 勝てる要素なんて一つもない。


 だから、絶対に話さなかった。恒太の口から早川さんの名前を聞きたくなかった。


 嫌な女だ……


 私は、ヤキモチ妬きで……恒太をこれっぽっちも信じていないんだ……


 早川さんとは番号の交換もしたけど、お互いにまだメッセージのやり取りはしていない。


 本当は、恒太の事を色々と聞きたいけど、早川さんからは聞きたくなかった。


 あぁ……本当に嫌な女だ。


 そんな事を時々考えてしまう私は、部活中でも元気がない様に見えたのか、恒太が心配して声を掛けてくれる。あの時と逆になってしまった。


 私の事を心配してあれやこれやと気を配ってくれる恒太。普段はあまり喋らないのに、私を元気付けようと身振り手振りでたくさんお喋りしてくれている。


 そして、数週間が経った。


 私は恒太の気遣いもあり、いつもの元気を取り戻す事ができた。


 その日は、学校が午前中までで部活もない事から、私は恒太の部屋に遊びに行くことにした。


 初めての恒太の部屋。


 いつもと違う駅のホーム。


 恒太の家へと向かう電車の中。


 私は初めて恒太とデートをする時よりも緊張しているのが分かる。


 何を期待しているの?


 とっくにキスなんてしている。


 その先?


 私達はまだ高一なのに……


 でも、友達の中にはもうとっくに済ませちゃってる子もそこそこいるし……


 そんな事を考えていると、何だか恒太の顔をろくに見れなくなってしまう。


 そう言えば恒太はどうなんだろう?


 経験済みなのかな?


 初めてなのかな?


 ちらりと恒太の方を見てみると、ほわぁっと眠たそうに欠伸をしていた。そんな恒太を見ていると、何だかさっきまで頭の中をぐるぐると回っていたことが馬鹿らしくなってきた。


 まぁ、そんな雰囲気になったら覚悟を決めるか……


 私はうんと背伸びをすると、とんっと恒太の肩を叩いた。


 少し驚いた恒太は眠たそうな目を私の方へと向けると、何故か照れたように笑いながら頭を掻いた。

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