第2話
そして僕らはあの河原から二人で並んで帰るようになった。とにかく彼女はよく喋る女の子で、僕はいつも彼女の話しを聞いては相槌をうつ。
昨晩観たテレビの事、休日の出来事など。
五年生の中でも体格の良い方の僕は、少し小柄な彼女よりも身長が高い。そんか僕を見上げるように見つめ話し掛けてくる彼女。
とある日の昼休み、ちらりと六年生の教室を覗いた時に彼女は、周りのざわざわとした様子など気にも止めず、自分の席で一人静かな本を読んで過ごしていた。知り合いの六年生によると、いつも昼休みは友達と遊ぶわけでもなく、一人で静かに本を読んでいる大人しい女の子らしい。
しかし、今の彼女の姿からは想像も出来ない。
それくらい、よく喋り、よく笑う。
退屈な学校から解放されたかのように、きらきらとした笑顔で僕を見つめながら。
いつの頃からか登下校だけではなく、放課後や休みの日も一緒に遊ぶ日も増えていた。
彼女は僕のしている事をなんでもしようとしていた。
例えば釣り。
放課後に僕がのんびりと近くの池で釣りをしていると、いつの間にか彼女がやって来て、僕の釣りをじっと眺めていた。
「釣れよる?」
「まだ」
「なんば釣ると?」
「バス」
「バス?」
「ブラックバス」
「あぁね」
「知っとると?」
「うん、テレビで見た事があるけん」
僕は、そんな彼女とのやり取りをよそに、くるくるとリールを巻きながらルアーを回収した。
「面白い?」
「うん」
「うちにも出来る?」
「わからん」
ひゅんっと遠くへと飛んで行くルアーを眺めながら彼女は僕の横へと近付いて来た。僕が立っているのは少し泥っけの多い場所。彼女のきれいな靴が汚れてしまう。その事を僕が教えると彼女はじっと水面を動くルアーから目を離さずに、大丈夫と一言だけ答えた。
僕はルアーを回収しては投げるの繰り返し。
そんな時だった。
水面に水飛沫が上がると同時に、ルアーが水面へと吸い込まれて行く。
「来たっ!!」
僕のその言葉に彼女はぱっと僕の方を一瞬だけ見ると、直ぐに水中を走るバスの方へと視線を戻した。彼女の目は水面へと釘付けになり、小さな華奢な手をぎゅうっと握りしめている。
バスとの格闘の末、僕らの足元にバスの姿が見えた。そしてそのバスを掴むと彼女の目の前へと差し出した。
「わぁ……釣れたね」
彼女は僕の釣り上げたバスに驚きの声を上げ、しばらくバスを眺めていたが、恐る恐るバスへと手を伸ばし、そっと触れた。
「魚だね……」
「うん、バスだもん」
僕は手際よくバスから針を外すと、そっとリリースした。本当は特定外来生物なので、逃がしたらダメなんだけど……
「さよならぁ」
律義にバスへと手を振る彼女。そして、僕の方へとくるりと振り返り、あの眩しい笑顔を見せてくれた。
そんな彼女がしばらく経つと、買って貰ったのか並んで釣りを一緒にする様になっていた。
そういう事もあり、僕らは一緒に過ごす日がとても増えたんだ。
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