「飛竜」

「ドラゴンじゃなかった? なら報酬は半額でいいよな」

 ――ペレス村の農民



飛竜は翼を持ち、蜥蜴とかげのような外見をした怪物だ。それゆえしばしばドラゴンと間違われることもあるが、それは偉大なる古の者たちに失礼というものだろう。

少なくとも飛竜は火を吹かないし、羽ばたき一つで町を破壊するほど大きくもない。それに彼らの貧弱な鱗は矢を通し、剣で斬りつければ血を流す。つまり、それほど強くはないのだ。

しかし、家畜を掴んだまま飛び上がることができるだけで、十分人には脅威と言えるだろう。


 ――『怪物に関する基礎知識』三巻



ワイバーンなど、それに類似する飛竜種は現在確認されているものだけで五十にも及ぶ。それらは生息地や体の形状と色、特性などで細かく分類され、研究者たちの間ではさらに、上級種と下級種の二種に区分されている。ちなみに、この中にドラゴンは含まれていない。

依頼人の中にはドラゴンより弱いという言葉を勘違いしている連中もいるが、正しくはドラゴンより危なくはない、だ。それを理解していない連中が報酬を渋るときもあるが、そういう奴らには――


(中略)

飛竜種はドラゴンと比べ、爬虫類の頭や足、尾を持つという点で大きな違いはないが、総じて前脚は萎縮しているかそれ自体が存在しない。つまりドラゴンと違って、腕に掴まれて握り潰される心配はしなくてもいいってことだ。

だが前足がないからって油断はするな。奴らはお前たちが思う以上に、地上でも素早い。

また、飛竜種は火を吐かないというのは俗説であり、これに関しては全くの嘘っぱちだ。

このような噂が流れるのは見た奴が大抵帰ってこないのが原因だが、実際に東の国には火草を食べることで火を吹く種が存在し、そいつは俺も一度倒したことがある。

もし奴らと戦うことになったら、心臓のあたりに剣を突き刺すのはやめておけ。中から火がこぼれて、それ以来一緒に戦った友人の髪は二度と生えてこなくなった。

髪の話で思い出したが、俺が子供の頃――


(中略)

他にも、南には石のような鱗を持つ種や、人魚のように美しい鱗をした水棲の飛竜もいるらしい。ところで、水棲の飛竜は飛竜って呼んでいいのか?それとも、学者たちからすれば、羽の生えた爬虫類ならみんな飛竜なのか?

ともかく、飛竜種といってもその性質は多様であり、それぞれに応じた対策が必要となる。共通して警戒が必要なのは、柔軟な首と尾だ。奴らの首はたとえ背後に回っても伸びてくるし、よくしなる尾の先端には棘が生えているものも多く、硬質の棘は重装の鎧すら貫いてしまう。

俺が鉄鎧を着ないのは、怪物に触られれば何を着ていようと死ぬからだ。当たらなければ死なない。飛竜種に限らず、それが怪物との最も安全な戦い方だ。

あとは、奴らを斬るための刃と撃ち落とす弓矢があればそれでいい。これだけいれば、矢の一本くらいは当たるだろう。大事なのは、怖がらないことだ。落ちてきた飛竜が立ち上がるまでに、何秒かかると思う? 躊躇せず、槍を鱗に突き立てろ。

俺一人でも殺せるんだ。そう思えば、簡単に思えてくるだろ?


 ――怪物退治の専門家、ロデリック

   青の騎士団、飛竜討伐隊への講話より抜粋

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