第35話 最終通告と貴公子の野望


 内野副社長は、5年前、関連会社に最終通告した。その内容は、当社の支配下に入るか、それとも拒否するか。

 拒否しても構わない、それなら当社のノウハウは一切使わせない。東北6県の関連会社は地元企業が警備業に進出する際、バルザックに相談し、バルザックは警備のノウハウを提供した。それにより、速やかに警備業が開始出来た。

 その際、出資は折半、但し経営陣は地元企業で、だから、関連会社の社長、役員は警備については素人同然だった。

 警備を知らない経営陣に任せてはおけない、これではいつまでたってもベコムに追いつくことは出来ない。

 それが冒頭の言葉だった。ノウハウを使えないということは廃業を意味する。それは出来ない、それでは現在働いている社員が路頭に迷う。

 東北6県の関連会社は全社子会社化となった、勿論役員は全員バルザックの社員。この成功により、全国全ての関連会社を傘下に収めた。飛躍的に業績が伸びたことは言うまでもない。

 しかし、これでもまだベコムに追いつき追い越すことは出来ない。更に何かが必要だ。そして考えたのは、業界3位の大同警備との合併だった。

 だが対等合併などあり得ない、それでは大同警備の経営陣を迎え入れることになる、そうなれば私のリーダーシップが発揮出来ない。

 何か手立てはないか、大同警備の様子を探ると、漸く独立採算制を廃止し一元管理にするらしい。遅きに失する、この経営陣では早晩弱体化すると思っていたが、結構しぶとい。

 事は急がねばなるまい、次期社長の手土産として、大同警備を傘下に収めることが出来たら、私のカリスマ性が高まる。

 どうやら、大同警備は内紛状態のようだ、専務の遠藤は社長になる野望を抱いている。業界の懇親会では、酒に酔うと、俺は大同警備の功労者などと誰彼となく吹聴している。軽薄のそしりを免れないが、これを利用する価値はある。

 実際に会って話して見ると、鼻持ちならないが、何故かこの私に敬意を払っている。どうも私の育ちの良さに圧倒されているようだ。

 合併に協力したらそれなりのポストを用意していると、餌を投げたら飛びついてきた。

 これまでの密談で、様々な情報を得た。しかし油断は出来ない、本当に遠藤専務が大同警備を裏切る気持ちがあるか。

 間もなくそれが届く手筈だが、今回東北エリアの視察で、K市郊外のホテルで会う約束になっている、そのとき確かめれば良い。

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