第10話 当てつけですか?

 暗い。

 寒い。

 身体が動かない。

 ここは、一体どこだろう?


「……ルテ君……え……か?」


 どこからか、誰かの声が聞こえてくる。


「フォ……君聞こ……す……」


 一体、誰の声だろう?


「フォルテ君、聞こえますか?」


「う……」


 目を開けると、まぶしい光が目を刺した。まばたきを繰り返してると、徐々に目が慣れ、白い天井とこちらを覗き込む男性の姿が目に入った。

 えーと、この格好は……、警官?

 でも、なんでこんなところに警官が……。

 というか、ここは一体どこなんだ?

 たしか、僕は……。

 

 そうだ! さっきまで、魔の森で依頼を――


「っぐぅぅ!?」


 ――してたはずなのに。


 なんなんだ? この突き刺すような痛みは。 

 よく見ると、身体中に包帯が巻かれてるし……。

 


「ああ! あまり無理に起きようとしちゃ、いけませんよ! まだ、完全にふさがってない傷も多いんですから!」


 完全にふさがってない傷?

 ああ、そうだ。

 たしか、魔の森で、テラストリアルワイバーンの群れに噛みつかれて……。

 脳裏に牙を剥くテラストリアルワイバーンの姿が浮かび、背筋がぞくりとした。


「フォルテ君、まだ、どこか痛みますか?」


「あ……、いえ、大丈夫です。それよりも、ここは一体……?」


「ここは、王都の病院です」


 警官の顔に、苦笑が浮かぶ。


「君は三日前に魔の森で救出されて、運び込まれてきたんですよ」


「三日前に、ですか……」


 そんなに長い間眠ってたのか……。


「いやあ、全然意識が戻らないので心配してましたが、これで一安心です」


「ご心配おかけしました……」


「いえいえ、これも仕事ですから」


 警官が仕事でくるということは、僕は犯罪に巻き込まれたのか?


 でも、そんなことは、あり得ない――


  アイツそろそろ死んだかな?

  もうちょっとで死ぬんじゃない?

  死んでくれるおかげで……

  

 ――ことも、ないな。


 意識を失う前、三人は僕の死を望むような会話をしていたから。でも、一体、なんであいつらに、命を狙われないといけなかったんだ? なんだか、ダンジョン探索者養成学校のころのことを、グチグチと言い合ってたような気はしたけど……。

 いまさらそんなことで、命を狙うか?


「……色々と混乱していそうなので、状況を説明いたしますね」


「あ、はい。お願いします……」


「マルスたちのパーティーは、昨年設立されたのですが……、設立当初から、あまりいい評判がなかったんですよ」


「そう、なんですか」


「はい。他のパーティーの仕事を横取りしたり、ダンジョンの攻略が不完全なのに完全攻略したとギルドに報告したり……、そんな話をよく聞きましたよね?」


「ああ、はい。そういえば、そんなことも聞いた気がします」


 本当はそんなこと、全く知らなかった。他のパーティーのことなんて、興味なかったから……。


「しかも、それだけじゃなく、ダンジョン探索者としての実力も乏しかったそうで……」


 ああ、それは知ってる。

 学生時代も僕の脚を引っ張ってくれたし……、今になっても、結局そのことを反省できてなかったんだから。


「それで、依頼も失敗続きで、しばらく前にパーティーを運営する資金が底をついたそうです」


「まあ、依頼が失敗続きなら、そうなりますよね……」


「ええ。そのうえ、パーティー設立時に、あまりよろしくないところから借金をしていて……」


「借金……?」

 

 そうだ、あのとき、アメリアは借金がどうのこうのって話をしてたな……。でも、それで、なんで僕の命を?


「はい。だから、フォルテ君を見殺しにし、ギルドから支給される死亡保障金を不正に手に入れようと思いついたようです」


「死亡保障金……」


 たしか、メンバーが依頼中に亡くなったときに、ギルドからパーティーと遺族に支払われる見舞金みたいなやつだったな。でも……。


「たしか、その保証金って、遺族には結構な額が支払われるけど、パーティーにはそんなに支払われないはずですよね?」


 それで、思い詰めるほどの額の借金を返せるとは、到底思えない。


「たしかに、通常はそうですね」


 警官は深くため息を吐いた。


「だから、『自分が死亡した場合、遺族に支払われる補償金を全てパーティーに寄付する』という契約書を書かされていたんですよ」


「ええ!?」


 そんな契約書、書いた覚えは……、あ。


「その顔は、なにか心当たりがあるんですね?」


「ああ、はい……、パーティー入隊手続きのときに、大量に書類にサインしたので……」


 多分、その中にその契約書が紛れていたんだろう。あいつ、小さいパーティーには必要な書類が多い、なんて嘘を吐いて……。


「では、その際に、契約書にもサインをしてしまったのでしょうね」


 警官が再び深いため息を吐く。


「今回の件、悪いのはもちろんマルスたちです。でも、ダメですよ、内容をよく読まずに書類にサインしたら」


「そう、ですね……」


「それに、高すぎる報酬を提示されたなら、いったん冷静になって相手を疑わないと」


「……」


 たしかに、書類の内容をよく読んでいなかったのは僕の落ち度だ。

 でも、報酬については妥当なものだったじゃないか。それを高すぎるだなんて、失礼な……。


「それにしても、今回はベルムさんたちが偶然近くにいたおかげで、助かりましたよ。マルスたちは逮捕できましたし、フォルテ君も一命をとりとめましたし」


「……え? ベルムさんのおかげ?」


「ええ。魔の森で小型モンスターの駆除する依頼があって、魔の森に向かったそうです。そこで、テラストリアルワイバーンがいつになく騒いでいたので、見にいったら君が酷い目に遭ってるのをみつけたと」


 そういえば、意識を失う前に、ベルムさんの声が聞こえたような気がする。


「いやあ、でも、ベルムさんと同行していたのが、ルクスさんでよかったですよ」


 ……また、あの人か。


「テラストリアルワイバーンを一撃で仕留められるのは、このあたりではルクスさんくらいですからね」


 なんで、こんな状況なのに、あの人を褒め称える話を聞かなきゃいけないんだ。

 ああ、そうか。ギルドで会ったときに僕が反抗的な態度をとったからか……。だから、当てつけにルクスさんを連れて、僕に貸しを作ったんだ。


「退院したら、ちゃんと二人にお礼にいくといいですよ」


「……」


 あの人たちは、どれけ僕を惨めにさせれば気が済むんだろう……。

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