初心者魔王の異世界攻略
狂露
第一章 初心者魔王の誕生
第01話 死亡~転生へと
──チリリリリリ......
目覚まし時計が鼓膜をならす。
俺は体を起こし、目覚ましを止める。
「ふぁぁ・・・まだ眠い。」
いつもなら、ここで二度寝三度寝を繰り返すのだが、今日はしない。
今日は地下鉄に乗って、都会に行くのだ。
俺の好きなゲームの続編が出るらしいのでそれを買いに、だ。
俺の家は田舎で、ゲームが売っている所が少ないというのもあるし、他の買いたいものがあったらと考えたので、都会に行くことを決めたのだ。
重たい体を叩き起こす様にして、階段を降りる。
階段を降りた俺は、キッチンに入る。
朝食の準備だ。
朝はパン派なのだが、久しぶりにお米を食べたいと昨日思ったので、昨日のうちに炊いておいたご飯をお椀によそって、即席味噌汁と卵焼き、そして焼きベーコンを一緒に用意する。
野菜がないから片寄っているとは思うが、残念ながら家に野菜がないのだ。
残念だ。うん。
とはいえ、早く食べて早く行ければそれ以上はない。
だが・・・本当にメンドイ。
ゲームのためだから仕方ないが、出来るものなら家でゴロゴロし続けたい。
テーブルに着き、リモコンを操作してテレビをつける。
食べようとしたが、箸が無いことに気付き、箸を取りにキッチンに行き、飲み物も用意して、またテーブルに着く。
すると、テレビの音が聞こえてきた。
『……○○県の△△市のアパートの前で男子生徒の遺体が発見されました。警察によりますと、死因は自殺と考えられており、この男子生徒はいじめを受けていて……』
(いじめ・・・)
──心がないの!?
──鬼!!悪魔!!!
──貴方はなんでそういうこと言うの!?
──本当にクソ野郎だな。お前は。
いじめという言葉に、俺は嫌な
やめろ、これは俺が悪かったんだ。
せっかく点けたテレビだが、俺は直ぐにテレビを消した。
せっかく新しいゲームが発売されて、良い気分なんだ。つっまんねぇ過去なんかを思い出して最悪な気分にすんのも
「・・・よし。早く食うか。」
いつもより箸を動かすのを速くする。
とはいっても、一般的な人が普通に食べる位の速さである。
つまり遅い。
早く食べようと意識して、数十分が経ち、出掛ける準備をし始める。
「えっと、財布・・・時計にスマホ・・・えとイヤホンも持ってこ。あとはー・・・。」
家には今誰もいない。
母さん父さんはなんか旅行?だったかな、それで妹は友達の家に泊まりに行っている。
なので、忘れずに家の鍵を閉める。
これで準備完了だ。
「行ってきます。」
誰もいない自分の家にそう言って地下鉄の方向へと足を運んで行く。
△▽△▽△▽△
──ガヤガヤ......
地下鉄のある所まで移動すると、沢山の人が
人混みは嫌いだ。
移動も遅くなるし、ごちゃごちゃしていて邪魔だし、うるさいし、暑いし、。
それ以外にも理由はあるが、嫌いだ。
白いパーカーのフードをぐっと深く被り、地下へ急ぐ。
やっぱりパーカーは落ち着く。
なんで?と聞かれたら少し困るが落ち着く。
にしても太陽が照っていてウザい。
暑いんだよね太陽って。
当然だけど、汗もかくし、俺はどちらかと言ったら寒い方が好きだし得意だから、冬になってほしい。
まぁ、二ヶ月前位に過ぎたばっかだが、。
カツンカツンと心地よい音を立てながら地下へと続く階段を降りていく。
乗車券を買うために自動券売機の方へ歩いて行くと、沢山の人の声が飛び交っていた。
うるさいと思いつつも、券売機へと足を向け、移動をしようと考えた瞬間、さっきまでの耳障りな会話の音が、大きなアナウンスによってかき消えた。
『これは訓練ではありません!この駅に爆弾が設置されています!パニックにならないよう、至急駅から避難にしてください!!繰り返します。これは訓練では・・・。』
なんとビックリ。この駅には現在爆弾が仕掛けられているらしい。
小さかったが、男の人のアナウンスの後ろから聞こえたバタバタ音や話し声、つまり今のは録音ではなく、今、たった今アナウンスを人が行ったのだろう。つまり絶対とは言わないが、この駅に爆弾が仕掛けられている可能性がかなり高いだろう。
男の人の焦燥感がそれを裏付けるかの様だった。
しかし、パニックにならないように、か。
絶対無理だね(笑)
ほら今ボーンって爆発したした。
普通の人間は焦るだろう。だって死ぬかも知れないのだから。
こういう時に人の本性ってのは出るらしい。
ほらほら聞こえる悲鳴と怨恨の声が。
「ば、爆弾!?う、うわぁぁああ!!」
「嫌だ嫌だ嫌だ!まだ死にたくない!!」
「置いてかないでよ!!」
「ふざけるな!死ぬかも知れないんだぞ!!構ってられっか!!」
おう、パニックパニック阿鼻叫喚。
なかなかにカオスな状況だ。
にしても爆弾か。
残念だ。これだとゲームを買いに行けない。
うーん、仕方なし。逃げるか。
そう逃げようとした瞬間、他の奴とは雰囲気が違う、感覚が違う悲鳴が聞こえた。
これは・・・他人を思った悲鳴?
何故そんなことが分かったかは不明だ。
だが俺は俺の直感を信じ、悲鳴があった方向に耳を傾け方向を定め、悲鳴が起きそうな場所を目で探した。
(瓦解した瓦礫・・・?あそこか!)
確証はなかったが、ソコへ走っていく。
すると、瓦礫に足を挟まれ、動けないだろう女性と、その女性の前でペタンと座り、泣いている女の子がいた。
ッチ、どうする!?俺はあの瓦礫を退かせるのか?いやどかせたとして、その後に瓦礫が倒れて来ないか?っ考えても仕方ねぇ!!
俺は女の人のとこまで行き、瓦礫をどかそうと試みる。
が、びくともしない。
どうすれば!!
「ごめん、なさい。私は、良い、ので、貴方は逃げてくだ、さい。うちの子を、紗綾をお願いします...。」
女の人が今にも消え入りそうに、苦しそうに言葉を並べ、俺に頼む。
(さあや?この女の子のこと?か、。・・・フフ。)
「アハハハハハ!!」
「え?」
いきなり俺の口から笑い声が思わず漏れてしまう。
こんなに絶望的な状況で、娘だったとしても他人を思いやれる?自分は死ぬかもしれないのに?
この人は・・・この人は!!!
──カチッ
「面白い!だんっぜんに助けたくなった!紗綾ちゃん?ちょっと離れてて、君のお母さんを今から助けるから!」
「お兄、ちゃん?お母さんを助けてくれるの!?一緒に帰れるの!!?」
「あぁ。だから離れていよーな?」
「うん、うん!!」
「ちょっと待ってください、私は!」
「すまないですけど、意見は聞きません。俺が助けたいと思ったから助けるんで。俺はやりたいことをやるだけです。それに、貴女が死んだら誰が紗綾ちゃんを育てるんですか?お母さんが居なくなったら育てるのが大変になるのは当然でしょーが。」
言いたいことだけ言って、瓦礫に手を挟め、持ち上げる。
女の人が下をうつむき口を塞ぐのを見た瞬間、腕に全力の力を込める。
だが、持ち上がらない。上の方の瓦礫が押さえているのだ。
(上がらねぇ。ぐ、くっそっがァァァアア!!ぜってー助ける。なぜなら俺がそうしてーからだ!!)
「がっあァァァアア!!」
瞬間、異様な程力があがる。
さっきまでビクともしなかった瓦礫が、小さい岩を持ち上げる位の感覚に変わった。それは火事場の馬鹿力なのかそれとも別のナニかなのか。それは分からない。
自分にも、分からない。
だがそのときの彼の目は、
ガガガと瓦礫を持ち上げた将都が女の人に「早く出て!!」と言うと、足を引きづりながらも這いずって出てきた。
出てくるときに、こっちを驚愕した顔で見てきたが、俺は瓦礫を足で抑えたあと、女の人を引きずり出すかの様に手を差し出す。その手を取り、女の人は、苦悶の顔を漏らしつつ、痛みがないかの様に笑顔で俺に感謝の言葉を流す。そうしたあと、俺は親子を外に逃げるように促す。
「ごめんなさい、ありがとうございました。」
「ありがとうお兄ちゃん!!お兄ちゃんも速く逃げよ!!」
「あぁ、そうs!?」
何故かは分からないが、将都の体は、強力な脱力感に苛まれた。
瞬間に、極度の筋肉痛の様なものと気付き、さっきの馬鹿力のせいかと直感的に気付く。
俺が動けないといったら二人は残るか?いや、残らないだろう。
・・・だが万が一がある。仕方なし、か。
「いえ、すいませんが、まだ行けません。助けを求める声がまだ聞こえるので。」
自分らしくないどこぞのスーパーヒーローの様な言葉に俺は虫酸が走った。
だが、これが良い手だと思っている。
「いや、、、やだ!お兄ちゃんと一緒に行く!!」
「駄目だ。・・・紗綾ちゃん聞いて?君のお母さんは、足を怪我しているんだ。だけど、お母さんを助けてくれるのはこの地下にはいない。紗綾ちゃん以外はね。だから、上に行くまでお母さんを守れ。絶対に振り向かずにお母さんと二人で上に行くんだ。分かった?」
「うぐっ・・・ん、うん、わがっだ。」
直感的に俺が動けないことを察したのだろうか、紗綾ちゃんは俺の言葉に異議の声を上げたが、丸め込んだ。
涙零れる瞳を拭い、俺の言葉に頷く紗綾ちゃん。
こんな強くて賢い子が死ぬなんて勿体ない。
上に行くまで一緒に行ってあげたいがそうも行かない。
もう俺の足は一ミリも動いちゃくれなそうだ。
女の人はこっちを向き深々とお辞儀をする。
俺は普段見せないであろう笑顔を作り、手を振って見送る。
どこか近くで爆発する音が聞こえ、瓦礫が落ちてくる。
「いや~心残りはゲームが出来なかった事と、あの子を最後まで見れなかった事かな?」
二人の後ろ姿はもう見えない。
俺の体は糸が切れた人形の様に後ろから崩れ落ちる。
やせ我慢も限界の様だ。
あー特に面白味のないつまらない人生だったなぁ。
まぁ、俺の人間味が少し薄いってのもあるかもしれないけど、ね。
そんな事を思いつつ、将都の意識はどんどんと薄れていって──
「良くやったよ。ナイスプレイ。将都。」
△▽△▽△▽△
──
一筋の光りもなく音も匂いも感じない真っ黒の闇の中。
朧気に残る記憶と意識の断片だけが自分の存在を構成していることが分かる。
だが、恐らくさっきまでの自分は死んだのだ。
やる気を出せば起きれるかもしれない。
脳を働かせば分かるのかもしれない。
だが、面倒くさい。
出来ればこのまま俺はナニもせずに──
『起きてください
──ビックゥ!!
いきなり呼び起こされた声に反応し、強制的に覚醒する。
目を開けると、月明かりが辺りを照らす森の中に俺は座っていた。
正確にはさっきまで寝ていたのだろうか。
「???」
現状を理解出来ず、ハテナを頭の上に浮かせた。
記憶を探っても当然答えはでない。
何故なら俺は、いつも以上の力を使って親子を助けたあと、一歩も動けなくなって、瓦礫の下敷きになった筈だ。つまり・・・。
いや、まずは現状を確認すべきだ。
一度も見たことない景色に意味の分からない現状。そして・・・
将都は
「見たことのない二つめの月、か。」
将都が口にだしたように空には、二つの月が浮かんでいた。
一つは地球人なら誰でも知っているであろう、見たことがあるであろう金色に光る月だ。
そして二つ目は、その金色の月の下に
「月が二つ、か。てことは此処は地球上ではなく、ヴァーチャル空間か異世界かの二択なんだが、そこんとこどうなのよ。」
空に放った言葉を誰かが拾ってくれるとは思わなかったが、口にだした瞬間に、(俺を呼んだ声が聞こえた気がしたんだが?)と考え、もしかしたら、と脳をよぎった瞬間、案の定と言うのかは不明だが、俺を呼んだであろう声が俺の問いに答えた。
『そうですよ。此処は
「ほうほう。うん。君誰??」
首を
凛とした声が耳の中に響いた。
脳に直接!?とかでなく、どこから声が聞こえているか分からないが、耳にその声は響いていた。
『えっと・・・その、』
なぜか言葉が詰まっているこの謎の声さん。
正体を明かす事が出来ないのかはたまた違う思惑があるのかは知らないが、俺はこの世界の事を全くと言って良いほど知らないのだ。
謎の声さんが
それを確かめる
だがしかし、この謎の声さんに現状を聞かなければ話しが進まないのも事実。なので、
「んっじゃあ君はナビね。ナビちゃん。まぁこの《ケイオスプーマ》?のことを色々教えてくれや。」
『えっ?あっはい。了解です
困惑しつつも了承をしてくれるナビちゃん。
俺の選択は間違いではなかったのかもしれない。
ってかナビちゃんで良いのね。
まぁなぜちゃん付けなのかと言うと、女性声優並みかそれ以上の美声なので、親しみやすく、そして可愛らしくするためにちゃん付けなのだ。
ま、まぁナビってのは完璧にあの車に付いてるナビを頭に浮かべたんだけどね。
我ながら色々と達観してはいると思っているが、これが俺なのだ仕方ない。
さてさて、現状をきちんと整理しよう。
俺こと
そのあとその地下鉄には爆弾が仕掛けられていて、そこから逃げようとしたとき、親子を見つけ、その親子を助けようとしたら変な力が湧いてきて、紗綾ちゃんのお母さんを潰していた瓦礫を退かしたあと、力の反動かなにかで動けなくなってその後、
「うん。俺死んだね。頭上で爆発して瓦礫が落ちてきたのを覚えてる。そしてナビちゃんに起こされ起きたら、鬱蒼とした森に座っていた、と。」
『よ、良く怖がったりしませんね。』
「んー?まぁあんまり死ってものに恐怖を抱かなくなってたしね。じゃなけりゃ鬼って言われねーよ。」
ハハハと笑って見せる将都にナビちゃんは、質問を投げ掛ける。
『鬼は嫌いですか?』
んーいや?と即答して、将都は自分の言葉の続きを述べ始めた。
「俺としては鬼は大っ好きよ?逆に俺は人間が嫌いだよ。まぁ特定の人間は別にそうでもねーけど、人間っていう種族で見たら嫌いだ。意地汚いし自分勝手だし間違いや過ちを正そうとしないし、ね。そのぶん、鬼は向こうの世界にはいなかったから、妄想をぶつけることが出来た。だから好きだよ。中でも吸血鬼が一番好きかな?格好いいしね。」
『なる・・・ほど。だから
「ん?」
吸血鬼として生まれた?
ってことは俺は人間ではないのか?
・・・そっか、死んだあとも俺は人間だと思って疑ってなかったが、そっかそっか。確かに一回死んだなら転生したって考えるのが普通だし、その場合、絶対人間って訳じゃないもんな。
これは俺の発想力がなかったな。
きちんと次からはもっと考えよ。
『もう分かったかもしれませんが、
「・・・転生体ってのは転生前の願望や希望、無意識下の想いが反映するってこと?」
『その解釈で問題ありません。ですが、反映されないことのほうが多いのが事実です。』
なーるほど?
じゃぁ俺は吸血鬼になりたい、もとい人間でいたくないという願望が運良く転生後の体に反映されて、吸血鬼として生まれたってことか。なーんだ。じゃぁこの世界って案外...
「おもしろそーじゃん♪」
『何がですか?』
「なんでもないよー。」
『・・・というか
いきなりそんな事を言うナビちゃん。
なんとなく小首を傾げ疑問符を頭に浮かべている構図が想像出来るが、ナビちゃんの質問に答えるため、その考えを一旦置いておくことにしよう。
だが普通はそんな言葉でないよな?あらゆる可能性を想像してるって。
「うーんそうだね、あらゆる可能性ってのは言い過ぎだけど、俺の考えられる脳内でかなりの量の可能性を考えてるのはそうかもね。俺の好きな言葉であり、座右の銘でもあるのは『半信半疑』。俺の考えた可能性さえも疑って生きているからこそなのかもね。」
『半信半疑、ですか。』
「そ。まぁだから此処は本当に異世界なのか、はたまたヴァーチャル空間なのか。色々考えているよ。」
『・・・まぁ此処は本当に
あとはナビちゃんの正体とか何故、
実際、喋り方や態度からして、悪魔とかではないと思うし、ここで神とか名乗ったりもしていないから、恐らく天使関係か、精霊関係なのか、とか考えてるんだけどね。
まぁそれに関しては言わなくても構わないだろう。
詮索してほしそうには見えない(?)しな。
「ん、さて。どうすっかな。こっから。」
一度伸びをしてから、俺はナビちゃんに声をかけるかのように喋る。
その言葉にナビちゃんは、『そうですね・・・。』と置いてから、次のように話した。
『取り敢えず、自分のことを知りましょうか?』
「ステータスとか見れるってことか?」
『そう、ですね。普通なら【鑑定】スキルを持っていないといけないんですけど、
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