佐々木兄弟の源平合戦初陣譚・山木攻め

山の川さと子

第1話 俺ら、佐々木四兄弟

どうも。俺は佐々木四郎高綱。

江戸時代になって歌舞伎にも出演したりする人気の武将。

でも生まれは平治の乱の年。つまり西暦だと1160年。平安末期から鎌倉時代の武将だ。

俺の主君は源頼朝公。まだ伊豆で佐殿って呼ばれていた頃から仕えてる。その佐殿が治承四年、俺が二十歳の1180年に挙兵することになったので、急遽、俺ら四兄弟は戦支度を整えなければならなくなった。

だが、俺らはちゃんとした領地持ちの御曹司じゃない。

と言うのも二十年前の平治の乱で、父である佐々木秀義は佐殿の父、源義朝殿に仕えていて共に敗走したので、元々持っていた佐々木庄を取り上げられてしまったんだ。

で、父は兄弟の上三人だけ連れて奥州へと逃げようとした。が、途中相模国で渋谷重国という人物に気に入られ、そこの娘と結婚して婿入りする。それから二十年、四番目の男児である四郎、つまり俺もそこに加わって、父子揃って渋谷殿の世話になりながら、佐々木庄を取り返す機会を着々と窺っていたわけだ。

そして、とうとうやってきたその機会。

平家追討の令旨を受け取った佐殿は関東の仲間を募って兵を挙げる。当然、俺ら兄弟は人数の内。

なんだけど、父が入り婿で、俺らは単なる居候。家人なんか当然いない。武具もあんま揃ってない。つーことで、俺らは慌てて渋谷殿の所に行って、恥ずかしくない程度でいいから戦支度を整えてくれってお願いしたんだ。渋谷殿はすげー男気のある人で、自分は平家に恩があるから佐殿の陣には加われないが、お前達は思う通りにしろと快く送り出してくれた。

と、そこまでは良かったんだけど、そこからが大変だった。数日前から降り続いた雨で道は水没、川は増水。おかげで、合戦の前日には余裕で戻れる筈が間に合わず、合戦当日の夕方にヘロヘロになりながら到着するという有り様。早朝に挙兵の予定だったのに、俺らが夕方前に着いちまったから、急遽、その夜に挙兵と変更になったんだ。

勿論、佐殿は怒ったよ。

「そなたらが遅れたせいで合戦が無くなった。どうしてくれる!」ってさ。

でも言いながら笑ってるんだ。それにボロボロ大粒の涙に鼻水まで流して、よく戻ってきたって喜んでくれた。

なんかその顔見たら、俺たちみんな貰い泣きしちゃってさ。ああ、やっぱりこの人に仕えて良かったなぁって。親父が佐殿の父君に仕えたのもなんかわかるなぁって、すげー納得したんだ。


前置きが長くなったが、とにかくそういうわけで俺たち佐々木四兄弟は合戦に遅刻して肩身が狭いから、合戦では大活躍して借りを返さなきゃなんねぇって重圧を背負ってるってこと。

じゃあ次に兄弟の紹介にいく。

まず長男の佐々木太郎定綱。定綱は先の平治の乱にも出陣してるから、まぁそれなりにイイ歳。良くも悪くも長男らしい真面目で一本気な性質。で、次男の佐々木次郎経高。経高も初陣は平治の乱だから、まぁ壮年だ。だが、とにかく人の話を聞かない。次男らしいと言えばそうだが、自分を曲げずにたまに損をする面倒なヤツだ。それから三男の佐々木三郎盛綱。これはネアカで素直だから、兄弟の中では佐殿の一番のお気に入り。だから今回の合戦でも、佐殿の護衛役に指名されて北条館でお留守番。初陣なのに可哀想なこった。最後、四番目が俺。四郎高綱。俺は平治の乱の年に生まれたから奥州に逃げる父には置いてかれ、父方の叔母の元で育った。だけど追い出されて父の元へ行った。でもそこでもやっぱ邪魔なんだな。だから佐殿の所に入り浸って、佐殿の義理の弟の小四郎義時とかと武芸の稽古をしながらのんびり過ごしてた。性格は、うーん、お調子者とかお喋りでうるさいとかよく言われる。ちなみに、俺ら兄弟の祖父は佐殿と同じ源為義殿だから、俺らは佐殿や九郎義経、木曾義仲の従兄弟にあたる。


と、四兄弟の紹介が終わった所で、早速合戦に向かうぞ。

緒戦の相手は伊豆国代官の山木兼隆。ま、本当の代官は別人物だったんだけど(近年説)多分、北条時政はこの山木ってヤツが邪魔だったんだろうな。で、佐殿も個人的私怨(政子との縁談話があったという噂)により、先ずこの山木兼隆の首をとって、源氏再興の旗揚げにしようってことになったんだ。

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