閑話 カミールとガレイトたち


「そういえばおじさん」


「なんだ、カミール」



 カミールの〝おじさん〟呼びに慣れてきたガレイトが、にこやかに答える。



「イルザード……さんが、ヴィルヘルムの騎士ってことはもしかして、おじさんたちもそうなの?」


「いいや? どうしてそう思ったんだ?」



 あまりにも自然な嘘に、他の三人の手が止まる。



「え? その、からだが大きくて、トラをたおした……から?」


「はっはっは! カミール、トラなんてだれでも倒せるさ!」


「そうなの? ぼくでもたおせる?」


「倒せるとも。ただし、大人になってからだがな」


「おとなに……」


「……っと、そういえば、自己紹介がまだだったな」



 ガレイトはカミールの目を見て、改めて自己紹介をした。



「俺はガレイト・マヨネーズ・・・・・。そこにいるブリギットさんに料理を教えてもらっている、見習い料理人なんだ」


「ぷ」


「どうした? なにかおかしいのか?」



 ガレイトがそう尋ねると、カミールは楽しそうに笑い始めた。



「えー? だって……ふふ、おっかしー! あははははは!」


「……まあ、たしかに、俺くらいの年でブリギットさんの年のお嬢さんに教えを乞う……というのも変かもしれないな」


「あはははははは……!」


「……だがな、ブリギットさんは本当にすごい方で──」


マヨネーズ・・・・・って! あははははは!」


「あぁ……そっち……?」



 ガレイトが「ははは……」と元気のない声で笑う。



「……こ、この際だから、このまま皆の自己紹介をしておくか……カミールも、まだ全員の名前を知らないだろう?」


「あはは……う、うん……ふふ、そ、そうだね……ふふふ……」


「まずは、ブリギットさんだな。あそこで麦わら帽子をかぶって、小さく手を振っている人だ。さきほども説明した通り、ブリギットさんはすごい料理人でな、カミールとはそんなに変わらない年で、オステリカ・オスタリカ・フランチェスカのオーナーを……」



 ガレイトはそこまで言って、急に黙り込んだ。



「そういえば、ブリギットさんはおいくつでしたっけ?」


「……え、わ、私……?」



 すこし遠くのほうで話を聞いていたブリギットが、訊き返す。



「いやいや、直接的すとれえとすぎるでござるよ、がれいと殿。淑女に年を尋ねるときは、さり気なく、紳士的に尋ねるのでござる。最初に、『すみません』と断りを入れておくのも忘れずに」


「ああ、すみません。……おいくつですか? サキガケさん?」


「え? じゅうは……いや、拙者? なんで拙者?」


「いえ、とりあえず、教わったことを、サキガケさんで試そうかな、と」


「あ、失礼! すっごく失礼、それ!」


「す、すみません……」



 なぜ怒られているのかわかっていない表情で、平謝りするガレイト。



「ちなみに、拙者の年齢は……というか、べつに今って、年齢を暴露する大会でもないでござろう。……ただまぁ、自己紹介は大切でござるな──」



 こほん。

 サキガケは咳ばらいをすると、カミールの顔を見て口を開いた。



「かみぃる殿、拙者の名はさきがけ波浪輪悪はろうわあくの職員兼、魔物殺しでござる。よろしくでござる」


「ぷ」


「……え?」


「ぷぷぷ……」


「拙者、なにか面白い事でもいったでござる……?」



 サキガケがそう尋ねると、カミールは面白そうに笑い始めた。



「えー? だって……ふふ、おっかしー! あははははは!」


「……まぁ、たしかに拙者、発音が少しおかしいとよく言われるでござるが、そこまで──」


「あはは! さすがに、マヨネーズ・・・・・はないよー! あっはははは!」


「……ははは」



 ガレイトが口を開けて、楽しくなさそうに笑う。

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