閑話 イルザードの過去、団長の決意 ①


「──王よ、お願いします。どうか、ガレイトさんを……団長を探しにいく許可を」



 五メートルはありそうな高い天井からは、絢爛豪華な装飾のシャンデリア。

 部屋の入り口には、紫色の重鎧プレートメイルを着た二人の近衛兵。

 そんなヴィルヘルム帝国城謁見の間に、イルザードの声が反響する。

 イルザードは胸や腹などの急所を隠している鉄製の軽鎧ライトアーマーを着て、跪き、こうべを垂れていた。

 そんなイルザードの正面、十段ほどの階段を上がった先──

 玉座にて鎮座するヴィルヘルム国王の姿があった。



「ダ~メ」



 ヴィルヘルム国王が、イルザードの言葉を遮るように口を開いた。



「な、なぜですか……! 団長は、この戦いには、いなくてはならない戦力です!」


「だねぇ……」


「でしたら、今すぐ、探しに行かなければ……!」


「でも、どこにいるかわからないからね、探すとしても時間かかるし」


「だからこそ私が──」


「だからこそ、行かせられないの。わかるでしょ。そもそも、君はヴィルヘルム・ナイツ五番隊隊長。そんな人間に雑用を任せられるほど、うちに余裕もないんだよね」


「ざ、雑用って……!」


「ごめん。それは言い過ぎたかな。……でもさ、敵さんは死に物狂いでガレイト君をこちらの大部隊と分断させた。主力の何割かを割いてね」


「あの、大規模な陽動作戦ですよね……」


「そう。たしかに、それで彼がいなくなった痛手は大きいけれど、こちらはその分、敵に邪魔されることなく、進軍することが出来るの。……このまま彼が討たれるにせよ、無事帰ってくるにせよね」


「そ、そのような仮定は……」


「あー……ごめん、また配慮を欠いた発言だったかな? まあ、それまでの間にはどうにかして、決着……とまではいかなくても、致命傷までは与えておきたいんだよね、敵さんに」


「だから、団長を気にかけている余裕はないと……?」


「まあ、君の言いたいこともわかる。僕だって心配なんだよ? でも、幸いなことに・・・・・・、敵さんはうちの軍を……もっといえば、ガレイト君やエルロンドさんのいない、ヴィルヘルム・ナイツを舐めてくれてるみたいだからね。攻めるなら今しかない。これは好機なんだ。わかるよね?」


「……でしたら、この戦争を早く終わらせれば──」


「うん、終わった後は自由にしてくれればいい。探しに行きたければ行けばいいし、止めない。兵も何人か貸してあげるよ。それに、そもそもそのつもりだしね」


「本当、ですか……?」


「うんうん。……わかったら、次の戦いの準備をしてくれるかな?」



 ギュウ……!

 イルザードが固めていた拳に、さらに力を加える。



「……わかり……ました……!」



 イルザードはそう言って立ち上がると──

 キィ……。

 イルザードの身長よりも遥かに大きい正面扉が開く。

 イルザードは部屋を出るとき、もう一度、王に頭を下げると、謁見の間から出ていった。



「──ああ、きみ」



 それを見ていたヴィルヘルム国王が、ため息交じりに、傍に控えていた侍女に声をかける。



「あのさ、悪いんだけど、彼女がいたところ……絨毯の上に付いた赤い染み・・・・を拭いておいてくれない?」



 侍女は恭しく頭を下げると、手拭いを持って、イルザードがいた場所まで移動していった。

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