閑話 敬語


「そういえば、ガレイトさんってあたしよりも年上だったんですね・・・


「急にどうしたんですか、モニカさん?」


「いやね、あたしって誰にでもこんな感じなんだけど、さすがに外国の、それも年上の男の人にいつまでもため口利くのはどうかと思ってさ。それに、ガレイトさんの話し方ってなんだか丁寧だし、あたしだけ馴れ馴れしそうにペラペラと一方的にしゃべっても、ねえ?」


「ああ、なるほど。そういう事でしたらどうぞお気になさらず。この口調は、騎……傭兵時代、先輩方に矯正されて染みついたクセのようなものですので」


「へえ、じゃあ、べつに意図してそういう話し方なわけじゃないんだ?」


「ああ、いえ、意図はしている……のだと思います」


「……ん? どゆこと?」


「じつは、その……俺自身、すごい人見知りでして」


「人見知り?」


「は、はい。初対面の方や、あまり面識のない方と話すときはこうなってしまうというか、部下や友人と話すときは違うのですが……」


「壁を作っちゃってるって事?」


「はい……」


「なるほどね。でも、ここではそんなに他人行儀でいる必要はないと思うよ。むしろ、もっとニコニコしないと運んでいる料理も不味そうに見えちゃうしね」


「それは……たしかに、由々しき問題ですね」


「だからさ、この際、壁を取っ払っちゃおうよ」


「壁を取っ払う……ですか?」


「うん。今みたいな堅苦しい話し方じゃなくて、もっと軽い感じで」


「かるい……ですか?」


「うん。まあ、それが難しかったら、そういう人になりきるのも手かもね」


「なりきる?」


「そう。身近にそういう人いない? こういうのって案外、なりきってみると染みついちゃったりするんだよ」


「……いますね」


「じゃあ、試しにその人になりきってみようよ」


「いえ、しかし……」


「ほらほら、恥ずかしがらないで、その人になったつもりで、あたしになんか話しかけてきて?」


「わ、わかりました。では……」



 ガレイトはひとつ、小さく咳ばらいをすると、キッと目を細めてモニカの顔を見た。



「ちぃ~っす! モニモニ、元気ぃ? なになに、今日もバリバリ料理運んじゃってる感じ?」


「……ん?」


「毎日おつかりーっす! あ~んど、これからもよろよろ~!」


「あ、あの……」


「ガレイトってば新人だけど、まぢ頑張っちゃうよ~! いっしょにこの店をもりあげていきまー……ショウッ!!」



 モニカは静かにガレイトの手を取ると、首を横に振った。



「如何でしたか、モニカさん」


「壁は壊さずに、ありのままのガレイトさんでいこう」


────────

〝閑話〟ではその名の通り、本編で語るとすこし冗長になってしまうようなシーンや、軽い補足、山なし落ちなし意味なしのキャラ駄弁っているシーンが主です。読まなくても問題はありませんので、興味のない方は飛ばしていただいてOKです。

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