第44話:入れ替わり

「急に呼び出して悪かったな、フォルカー、マリア」


 大賢者に転移魔術が妊婦と胎児を害さないと確認した俺は、急いで極悪運で遠ざけたフォルカーと婚約者のマリアを屋敷の呼び出した。

 

「いえ、とんでもありません、公爵閣下。

 役目があると申されれるのでしたら、例え地獄であろうと馳せ参じます」


 フォルカーがとんでもない事を口にする。

 だが気真面目なフォルカーなら、命じたら本当に地獄であろうと来るだろう。


「冗談でもそんな事を口にするなよ、フォルカー。

 とんでもなく頻繁に道に迷うフォルカーが地獄に行くには、どうしてもマリアの道案内が必要になるのだぞ。

 フォルカーが地獄に行くと口にしてしまえば、マリアも死んでついて行くぞ。

 だから二度とそんなことは口にするな」


「はい、申し訳ありませんでした」


 口ではそう言っているが、マリアの事を教えても決意の表情は変わらない。

 本当に困った奴だが、心底嬉しくもある。

 そうでなければ追放された俺に付いてきてくれはしなかっただろう。

 今さら止めるだけ野暮というモノだな。


「ですが本当によろしかったのですか、公爵閣下。

 フォルカー様の運の悪さは信じられないレベルの極悪運です。

 リヒャルダ様の事を想われて、フォルカー様を屋敷以外に住まわされたのではないのですか」


 マリアの言葉にフォルカーの顔が苦虫を嚙み潰したようになる。

 どうやらフォルカーは女房の尻に敷かれるタイプのようだ。

 だがマリアの言葉通りだ。

 俺はフォルカーよりもリヒャルダを優先した。

 その事は後悔していないし言い訳する気もない。


「その通りだマリア。

 これからもフォルカーをリヒャルダに近づける気はない。

 だから今回もリヒャルダと俺が屋敷を離れるからフォルカーを呼んだのだ。

 リヒャルダと俺が屋敷に戻ったら、フォルカーとマリアには宿屋に戻ってもらう」


「それを聞いて安心いたしました。

 もしフォルカー様のせいでリヒャルダ様に何か悪い事が起こってしまったらと思うと、心配で心臓が痛くなります」


「そんな心配は不要だぞ、マリア。

 フォルカーとリヒャルダはかけがえのない俺の友であり家臣だ。

 だから努力や能力に関係のない所でケガや病気になって欲しくないのだ。

 これからも同じように理不尽な事を命じるだろう。

 だがそれは俺がフォルカーとリヒャルダを信じ愛しているからだと思ってくれ」


「「はい、公爵閣下」」


 フォルカーとマリアが全く同時に返事してくれる。

 夫唱婦随ではなく婦唱夫随の夫婦になるのだろうか。

 色々な夫婦の形があるな。


「俺とリヒャルダは転移魔術で領地に行く。

 その間屋敷の方を預かって欲しい。

 傭兵団はもちろん、騎士団と徒士団も絞りに絞ってくれ。

 特に気をつけて欲しいのは屋敷の文官だ。

 王都家老や用人が悪事を働かないか注意していてくれ。

 頼んだぞ、マリア」

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