第42話:騎士団と徒士団

 目の前には鍛錬場に倒れ込んでいる騎士団と徒士団がいる。

 全員がもう俺の言うことには絶対に逆らわない。

 常にいつ殺されるかとビクビクしている。

 そう思うくらい俺を追放した後で色々と悪事に手を染めていた。

 内心では何もかも捨てて逃げたいのだろうが、逃げる事も恐ろしいのだ。


「いっちに、いっちに、いっちに、いっちに」


 少し離れた所を傭兵団と暗殺団が行進訓練をしている。

 手本を示しているのは連携の大切さを嫌というほど知っている暗殺団だ。

 それを学ぶ初歩に行進訓練をしているのが傭兵団だ。

 同じ訓練鍛錬をしても基礎体力のある傭兵団が最後までがんばれている。


「騎士団と徒士団は何をしている。

 それでもアーベントロート公爵家直属の精鋭か。

 傭兵団よりも劣って恥ずかしくないのか。

 立て、立って組打ち訓練を始めるぞ」


 俺が性根を叩き直した傭兵団団長が、騎士団と徒士団を𠮟咤激励している。

 俺が彼を教育係に任命したから、騎士団長や徒士団長でも逆らえない。

 逆らえば俺に処罰される事くらいは誰にでもわかる。

 やれるのなら傭兵団長を叩きのめしたいのだろうが、根本的に実力が足らない。

 だから内心では怒り狂っていても命令に従うしかない。


「さっさと立ちやがれ、腰抜け」


 傭兵団長がなかなか起きない、いや、起き上がれない騎士団長を蹴り上げた。

 騎士団長が殺意の籠った眼で傭兵団長を睨みつけている。

 配下の騎士長や騎士も同じように傭兵団長を睨みつけている。

 これでいい、これこそ俺の望んでいた状況だ。

 この訓練を命じた俺ではなく、直接指導する傭兵団長に恨みや憎しみがいく。


「何だその眼は、この糞野郎が。

 俺様を睨む前にもっと努力しやがれ。

 ミヒャエルに媚を売ってヴェルナー様の追放に加担して団長になったクソが。

 またヴェルナー様を裏切るつもりか。

 王女の手先と結託してヴェルナー様を殺すつもりか」


「何を言うか!

 傭兵風情が側近ズラするな。

 私は代々アーベントロート公爵家に仕える譜代騎士だぞ」


「ふん、ヴェルナー様を裏切ったクソがよく言う」


「私は、私はアーベントロート公爵家を裏切ったわけではない。

 先代公爵閣下の命令に従っただけだ。

 私がヴェルナー様を追放したのは先代公爵閣下のご意向だ。

 傭兵風情に公爵家の内情など分かるまい。

 私の剣はずっと公爵家にささげられているのだ」


 騎士団長がちらりと俺の方に視線を送ってくる。

 傭兵団長に言っているというよりは、俺に言い訳しているのだろう。

 本当に姑息だな。


「だったら傭兵風情に負けてどうする。

 組討ち訓練は俺が直々につけてやる。

 公爵家の騎士団長だと誇るのなら、俺に勝ってみろ」


 傭兵団長にそう言われた騎士団長はみるみる真っ青になっている。

 俺は正直いい気味だと思っている。

 王家や有力貴族の手前処分していないが、本当は皆殺しにしたいのだ。

 傭兵団長が叩きのめしてくれると言うなら少しは気は晴れる。

 自分から傭兵団長から引いてくれるのならそれが一番いいのだ。

 辞めたくなるくらい叩きのめしてくれ、傭兵団長。

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