第26話:婚約問題
俺は正々堂々と王城の正門からヘルムート国王に謁見を求めた。
普通なら先代アーベントロート公爵である父に追放された俺が、国王との謁見を許されるはずがない。
だが今は、現アーベントロート公爵のミヒャエルと王家は何時開戦してもおかしくない、とても緊張した状態になっている。
王家も俺を人質にしてもミヒャエルと交渉などできない事は分かっているが、何か謀略に使えないかと思う状態になっているのだ。
だからこそ俺が謁見を求めて直ぐにヘルムート国王に会うことができた。
しかも護衛の騎士としてリヒャルダを同伴させることまでできた。
まあ、どうすればいいのかを大賢者に調べさせたお陰なのだけどね。
門番に話す言葉の一言一句まで大賢者の教えてくれた通りにやっただけだ。
「王都を騒がすアーベントロート公爵の兄が余に何の用があると言うのだ」
ヘルムート国王が虚勢を張っているのは明らかだった。
国王も王都内で内戦を起こすのは嫌なのだ。
国王はバッハシュタイン王家が国内貴族から嫌われている事をよく知っている。
王族同士で争えば、有力貴族がそのスキを突いて王位を奪おうと兵を挙げることを理解できる程度の知恵はあるのだ。
「私がアーベントロート公爵家を継いで王族同士の争いを防ごうと思っているのですが、それは陛下のお気に召しませんか」
大賢者が計算してくれた通りの会話が続く。
万が一大賢者が計算してくれた通りに行かなかったら戦えばいいだけだ。
俺を厳重に見張っている近衛騎士たちの強さを探知魔術で確認してみたが、全員瞬殺できる程度の奴ばかりだ。
「ああ、気に入らんな、全く気に入らん。
この場でお前をぶち殺してやりたいくらいにな、ヴェルナー」
「だったらそうなされればいいのです、国王陛下。
ですがこのような状況を引き起こした最初の原因はインゲボー王女殿下です。
王女殿下が、殿下の浪費を諫めた私を嫌って婚約を破棄し、ミヒャエルを次の婚約者に選んだことが原因です。
そして、その暴挙を認められた国王陛下が原因です。
ここで内乱を止めようと命懸けで現れた私を殺したら、国内外の王侯貴族がどう思うか、どのように行動するか、お分かりになりませんか」
「本当に腹立たしい男だな、ヴェルナー。
インゲボーと元通り婚約させろとでも言うのか」
「愚かな事を申されますな、国王陛下。
私はアーベントロート公爵家の後継者として、馬鹿で身勝手な王女殿下と嫌々婚約していたのです。
せっかく王家から婚約を破棄してもらえたのに、何故あのような性根の腐った王女と再び婚約しなければいけないのです。
私が望むのはただ1つです。
アーベントロート公爵位の継承だけですよ」
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